全国の開催地での出会い
「短い期間だったけど、こんな所だね僕が出来る事は」
いよいよ全国大会の時が間近に来て、桜見は開催地の大阪へと向かう事が決まっている。
その大会に備えて弥一のコーチにより、自分の事を今一度見直して練習を積み重ねた。
「弥一さん、大変お世話になりました!」
竜斗が頭を下げると共に、部員達の皆も揃って弥一へ頭を下げる。
「お世話って程の事はしてないよー。見たり一緒にご飯食べただけなんだからさー♪」
陽気に笑う姿は与一、輝羅と同じで少年のような父親だ。
「これで全国どうなるのかは君達次第、多分初めての全国なら緊張で硬さも出ちゃいそうだろうねぇ。そういう時は緊張してない人がしてる人の肩に両手で思いっきりドーン! って置くと良いよ♪」
「ドーン……ですか……」
「そうそう、正面からじゃなく後ろからねー」
弥一から緊張の時にやる方法について、影二はよく聞いて記憶しておく。
「ありがとうございます弥一さん!」
「優勝を弥一さんに届けてみせますから!」
楽斗や霧林と皆が弥一へ礼を言い、それぞれが全国優勝を誓う。
こうして全国に備えた最後の練習は終わり、それぞれが帰宅する。
☆
「えっと〜、スマホとか財布は持ったから〜」
「水分補給の水筒とかも忘れずにねー」
「着替えは前日に用意してるから大丈夫っと……」
大阪へ旅立つ当日、荷物の用意をする与一、輝羅、神奈の姿を見ながら弥一は白い猫と猫じゃらしで遊ぶ。
「ほあぁ〜♪」
「おー、今日もご機嫌だねトーナ♪」
神明寺家のアイドルであるメスの白猫トーナ、彼女は弥一と遊べて機嫌の良い鳴き声をしていた。
気まぐれな性格で普段は自由に行動してるが、弥一にはとても懐いている。
「トーナ、行ってくるよー」
「家でお留守番して応援しててねー♪」
「良い子で待ってるんだよ?」
「ほあぁ〜」
3兄妹がトーナへ声を掛けた後、3人は揃って玄関を出て旅立つ。
そこに優人、姫奈、姫香の兄妹3人も出て来て兄と姉を見送ろうとしていた。
「「いってきまーす」」
「いってらっしゃーい♪」
「「頑張れ〜!!」」
息子や娘達の姿を弥一達が見送ると、キッチンでの仕事を終えた輝咲も共に我が子の旅立ちを見守る。
「もう15年ぐらいかぁ、時間経つのが早いし子供が大きくなるのも本当あっという間だねー」
「うん……本当、上の子達は大きくなったよ」
弥一と輝咲は共に長男や長女達の小さかった頃を思い出す。
あの可愛い赤子が大きな舞台に自分から挑戦して歩く姿には、親として込み上げる物があった。
「特に与一と輝羅、僕に挑んで倒そうとしてるぐらいだし。あんな強気で勝ち気なの、誰に似たんだろうねぇ」
「どう見ても弥一君だね」
「ほあぁ〜」
強気な双子の姿を思い浮かべ、軽く息をつく弥一の横で輝咲はトーナにキャットフードをあげる。
白い猫が食事する光景に姫奈、姫香の2人は夢中で見てる様子。
「お前はどうなっていくんだろうなぁ優人〜」
「僕? 兄ちゃん達みたいになりたいよ勿論!」
与一や輝羅と同じくサッカーをやってる三男、優人の頭を弥一は優しく撫でていた。
密かに「そこはお父さんみたいになりたいって言ってほしかったなぁ」と心に秘めながら。
☆
大阪へ向かう為に新幹線へ乗って、桜見サッカー部は東京から大会開催地までの旅を楽しむ。
「チェック」
「ええ〜、そこでそれ出す……!?」
隣の席同士で楽斗と霧林が静かにカードゲームを行えば、海東と室岡がスマホで漫画を読んだり、若葉は車窓からの景色を眺める。
または影二のように目的地へ到着するまで一眠りと、人によって過ごし方は異なっていた。
「大阪着いたら何食べようかな〜? たこ焼きとかお好み焼きかぁ〜♪」
与一はスマホで大阪のグルメについて検索。
その姿はサッカーの全国大会へ挑む者には見えない。
「与一兄さん、試合に影響出る者は駄目だから」
隣の窓際の席で神奈はタブレットを使い、全国大会の選手達について下調べしつつ、与一に食べる物は気をつけるように注意。
「分かってるよー、神奈知ってる? お好み焼きってアスリートにとってスーパーフードで良いんだよー♪」
ちゃんと栄養あるのを選んでると妹にアピールしてから、与一はオススメのお好み焼きを調べていく。
「まるで観光気分だな……」
これから全国大会へ行くのに、全体的に緩み過ぎじゃないかと竜斗は座席に背を預けながら心配になってきた。
「それぐらいが丁度良いでしょ〜、今から気を引き締めても試合前に疲れちゃうしさぁ」
隣の窓際で輝羅は東京駅で買ったベビーカステラを美味しく味わい、話しながら竜斗にも勧める。
「まぁ、そうだけど」
輝羅の言う事を理解しながらも大丈夫なのかと思ってしまう。
竜斗は勧められたベビーカステラを1つ取って食べた。
程よい甘さが心を落ち着かせていく。
「父さんも言ってたじゃん、「引き締めるのは心だけ、体まで引き締め過ぎたら無駄な力が入るよ」ってさ」
自分達の指導をしている時に弥一から言われた言葉、心と体のバランスについて教えられてきた。
全国大会までの期間、主に走り方やプレーのやり方、そして合気道による朝練。
何神明寺家へ通うのに毎日、急な坂道や家まで続く長い石段を上がったりと、何気に足腰やスタミナ強化にも繋がる。
「あの人、お前ら以上にマイペースだよなぁ」
「父さんは思いつきで、これだっていうのをやるからねー」
双子が父親にとても似ている事を竜斗は理解した。
「ま、とにかくリラックスは大事だから♪」
「……そうだな。引き締めは試合当日にしとくか」
「大阪ってお笑いの本場なんだよね? 通天閣も有名みたいだし行ってみたいな〜」
「完全に観光じゃねぇか」
今は新幹線の旅を楽しもう、そう竜斗が決めると大阪について与一と話す。
桜見サッカー部を乗せた新幹線は全国大会の開催地、大阪まで進んで行った。
☆
新大阪へ到着した桜見サッカー部は、全国大会の間に宿泊するホテルへ移動してから部屋に荷物を置く。
「あれ、与一君と輝羅君は? 神奈さんもいないけど」
引率として同行している顧問の遊子。
全員の姿を確認すると、神明寺3兄妹だけいない事に気づく。
「大阪グルメを少し堪能してくるとか言って早々に出かけましたよー」
「ええ!? 大丈夫かなぁ……」
「神奈ちゃん居るから平気っすよ」
楽斗から大阪の街へ繰り出した事を聞かされ、遊子は心配になるが霧林にマネージャーが付いてるから平気といわれる。
周囲からすれば双子より神奈の方がしっかり者という感じだ。
☆
「勝手に抜け出して良いの?」
「ちゃんと用事は伝えたから平気だって♪」
与一、輝羅、神奈の3人は大坂の街中を歩いていく。
東京の時とは異なり関西弁による会話が聞こえたりと、環境が桜見と全然違って見えた。
「神奈だって嫌いじゃないでしょ? 美味しいグルメは」
「……うん」
双子の兄のように積極的ではないが、神奈も美味しいグルメは好きで食べに行きたいと思っている。
その心が与一や輝羅から見えたので、こうして神奈も連れ出したという訳だ。
「じゃあ全国も控えてる事だし。此処は栄養満点で美味しいお好み焼きと行こうかー♪」
「って言っても結構お店あるけどねー」
大阪のお好み焼き店は数多く存在して人気店は勿論、老舗もあるので何処に入ろうかと悩んでしまう。
「え〜、お好み焼きで美味しい所って何処だろ〜?」
「なんや、美味いお好み焼き探しとるんか?」
与一がスマホで確認しながら悩んでいると、そこに関西弁で話しかけて来る声に気づく。
「(デカッ!?)」
3人が話しかけてきた人物を見た時、与一と輝羅は揃って同じ感想を心の中で叫んだ。
目の前の黒いジャージを着た人物は短めの黒い髪で赤いメッシュ入り。
身長が相当高くて、今まで見た同年代の中学生の中でも1番高く見える。
「この時間帯、何処の店も混んどんねん。戦友なるかもしれんから武士の情けで教えてもええで?」
「戦友……?」
何言ってるんだろうと、与一が心の中を見ようとした時に神奈から耳打ちで伝えられた。
「兄さん、この人は大阪の名西寺中学の人だよ……!」
「名西寺中学?」
「おお、あの有名な神明寺が俺を知ってるのは嬉しいもんやなぁ」
神奈は目の前にいる長身の男が誰なのか知っている。
下調べで出て来た選手であり、全国で注目されてる選手の1人だ。
そして目の前の彼ら3人が何者なのか知っていて接近してきた。
「名西寺の「何でも屋」番名烈気は俺の事や。以後よろしゅうな神明寺の皆さん」
そう言って得意気に笑う男は自己紹介する。
お好み焼きを食べに行ったら、大会へ出場する大阪の選手と知り合い、神明寺の兄妹達は変な流れへと巻き込まれていく。
与一「大坂って万博とかもやってたんだよねー」
輝羅「今はやってないけどね、行きたかったぁ〜」
神奈「グルメだけじゃなく観光名所も色々あるから、大坂凄い人気なんだよね」
与一「道頓堀とか昔は良い事あったら人がダイブしてたんだっけ? 今は絶対ダメだけどー」
輝羅「昔と今じゃ結構違うなぁ〜、次回は大坂のライバルの人と何故かお好み焼きを食べます♪」




