関東大会決勝戦 桜見VS石立3
「わっ!?」
中盤で楽斗がパスを右足で出そうとした途端、右から足が伸びてボールを捉える。
海斗が鬼の形相で楽斗へ迫り、積極的に守備を行っていた。
『これは社、気迫溢れるディフェンスを見せます!』
『やはり王者として負けが許されないので、全力を尽くしてるんでしょうね。素晴らしい姿勢ですよ』
与一の挑発を受けた事で怒りを抱えたまま、プレーをしているのは誰1人として気づいていない。
「上がれぇ! サイド足を止めるな!!」
右にパスを出した後、海斗は両サイドにもっと走れと指示を出す。
怒りが石立の攻撃を加速させてるかのように、村木兄弟を中心に左右から桜見ゴールへ向かっていた。
「宮村! 左寄って!」
相手が中央ではなく左から来るのを心で読んだ輝羅。
「くっ!?」
新一はライン際で若葉、宮村の2人に囲まれてしまう。
「新一!」
羽川が上がって来るとパスを出すよう伝え、新一からボールが出されてパスを受ける。
そう簡単に石立は止まらず、この辺りは王者として個々の能力を活かし、桜見の包囲網を掻い潜った。
「(中央手薄だ!)」
ボランチの宮村がライン際まで寄って来たのを見れば、羽川は中央の海斗へパス。
「ボールいただきっとー♪」
1番要注意選手へのボールを通すはずもなく、与一は素早い動きで海斗の前に立って阻止。
「ぐっ……!」
パスが忌々しく思う与一に取られ、苛立った表情を海斗は見せる。
「ああ、ごめーん。ボール渡んないからスルーパスやらせようとしても出来ないもんねー?」
するとボールを出した後に与一は海斗の方をわざわざ振り向いて、ニヤリと笑みを浮かべながら言う。
「なんだとぉ……!?」
一気に怒りのボルテージが高まり、思わず掴みかかりそうな所まで来ていた。
それでも関東王者のキャプテンとして、怒りでレッドカード物の行動だけはしないように自分を必死で抑え込む。
「(落ち着け……落ち着け……落ち着け……! 指令塔がカッとなったら終わりだろうが……!)」
自分へ何度も落ち着くようにと心へ呼びかけ、なんとか気持ちを静めさせる。
「(別にそのままキレて自分を解放してくれても良かったのになぁー)」
海斗の心を与一は把握済みで、彼の心を乱させて指令塔としての彼を機能停止に追い込もうとしていた。
自らの持つ能力、それを活かしての心理戦。
正々堂々が好まれる日本では褒められた戦いではない、中学生にして与一は狡賢さを身に着けている。
「(よしよし、良い感じで崩れてくれてるな)」
それは同じく海斗の心を読み取る輝羅にも言える事だ。
『前半、やや石立がボールを持つ展開が多くなって来ましたね』
『ええ、しかし桜見も上手く守ってますよ。極力彼らにとって要注意となる社君へのパスを許していません』
時間が経過すると桜見の陣地でのプレーが多くなり、チームとしての地力の差が出始めてくる。
「此処が正念場だぞ! 守り切ろう!!」
それでも竜斗の闘志溢れる皆への励まし。
「中央来るよー! ワカバ寄せてー!」
「コースしっかり切るー!」
与一、輝羅の双子による指示。
そして各自が懸命に走り回って、押し寄せて来る石立の攻めを弾き返していた。
「何やってんだぁ!」
これだけ仕掛けても得点が入らず、0ー0の展開が続いて苛立ちが頂点に近づきつつあるのか、海斗は味方のミスを怒鳴りつけている。
「……交代、準備しろ」
海斗の様子を見ていた石立の監督、松川は厳しい表情を浮かべたまま交代の指示を伝えた。
ボールがタッチラインを割ったタイミングで石立の交代準備が出来て、電光式の交代ボードが掲げられる。
「!」
10の数字が見えた時、海斗は自らが下げられる事に驚く。
『石立は大胆な選手交代に出ましたね。キャプテンで天才ゲームメーカーの社を下げて太田が入ります』
『先程から社君が目立った動きを見せていないので、松川監督は一旦下げたんでしょうね。再交代のルールがありますから、温存させて勝負所で改めて出て来るかもしれません』
「何だ、もう下がっちゃうんだ? 折れるの早いねー」
「すぐ戻るに決まってるだろ!」
「落ち着けよ海斗!」
下がる所を見た与一は再び煽り、海斗は我慢しきれず振り返って言い返す。
それを見た米沢が間に入って止めたおかげで、大事までには至らない。
「っ……俺が戻るまで頼んだ……!」
海斗は右腕のキャプテンマークを外すと、押し付けるように米沢へ渡してからベンチへ向かう。
その顔は不満に満ちていた。
「何故下げられたのか、理解してなさそうな顔だな海斗」
「……」
ベンチに下がって腰掛ける海斗に振り返らないまま、試合を見守る松川は語りかける。
「簡単だ。頭に血の上った指令塔は足手まといでしかない」
今の海斗は王者石立の指令塔として何の役にも立たない、ハッキリと切り捨てるように指揮官から言い渡されてしまう。
これを聞いて海斗はギリッと歯を食いしばる。
松川が前へ出て選手達へ声を掛けに行った時、突然タオルが海斗の方へと投げられて頭にかけられた。
「今のあんた、滅茶苦茶ダサいんだけど」
「なんだよ……お前まで説教か?」
美怜から投げ渡されたタオル、そこから見える海斗の目は鋭い物となっている。
「桜見のおチビちゃんに何を言われたのか知らないけどさ、それでいちいち腹立ててもしょうがないじゃん。プレーで思い知らせれば良いんだし」
ベンチから見た限り、与一から何か腹の立つような事を言われたのは、美怜だけでなく松川にも伝わったのだろう。
でなければ、わざわざ交代はさせないはずだ。
「あんたが惚れた桜見の可愛い子、そんなイライラしたプレーを見ても勝敗関係なく惚れそうに無いでしょ」
「っ……」
幼馴染の言葉を前に海斗は返す言葉も無い。
「というか海斗のサッカーそんなんじゃないでしょ。どんなにやられてもプレーでやり返すサッカー、それがあんたじゃないの?」
幼き頃から海斗のサッカーは見てきた。
相手に止められたら次は抜き返し、点を決められたら決め返す。
それが天才ゲームメーカーと言われる社海斗のサッカーだと、美怜は思っている。
「少なくとも、そんな海斗……あたしは見たくないって思ってるから」
「……」
美怜の言葉に耳を傾けながら、海斗は今行われている試合へ目を向けた。
『ゴール前! 桜見が左サイドから切り込む!』
左から上がってきた新田から中央の楽斗、そして若葉へと連続でパスが繋がっていく。
石立のゴール前まで近づき、一瞬エリアの中へ若葉は目を向けた。
「(高くは駄目だ!)」
長身DFの米沢が近くにいるのが見えて、高いクロスは高確率で跳ね返されてしまう。
大胆にも若葉は1人で石立の守備陣を相手に、左からドリブルで侵入。
「(通すかってぇのチビが!)」
DFの松崎が迫り、若葉のドリブルを阻止しようと襲いかかる。
「っ!」
大柄な体格を活かして、激しく左肩からぶつかっていく。
だが、それを若葉はターンで巧く躱して左足を振り抜いた。
『鮮やかなターン! 若葉シュート! GK登山弾き出しました!』
持ち前の個人技から得意の左足でシュートを放ち、ゴール左隅を突いたボールに登山が両腕を伸ばして、外へ弾き飛ばす。
「厄介なの居ないから今が攻め時だよー!」
キャプテンの海斗が不在の間、やってしまおうと与一はどんどん声を掛けて、攻めるように伝える。
関東王者のキープレーヤーは海斗、だからこそ与一は潰そうと本気になって姑息にもなっていた。
0で勝つ為なら悪になろうが構わない。
与一、そして輝羅にとって完封勝利が最優先なのだから。
影二「何となく雰囲気的に……向こうが主役っぽい匂いがしてきたかも……」
与一「というか忘れないでほしいなぁ〜、向こうもうちの後輩をケガさせてるからね? そのオトシマエはつけてもらわないと♪」
霧林「さらっと怖い事言ってんな! あの負傷ムカついていたのかよ!?」
輝羅「何やら色々な匂いが桜見や石立から感じさせる中、次回からは雨が降ってきまーす! 辛い環境が来るよ〜」




