正確無比なキラーパス
『桜見と真白の準決勝は前半0ー0、互いに攻めましたが得点までには至ってません!』
『此処まで真白のキーパー赤松君の活躍が光ってますね。これはひょっとしたらPK戦まで行くかもしれませんよ』
現在、試合の方は後半戦が始まってスコアに動きは相変わらず無い。
桜見が6本、真白が2本と桜見の方が多くシュートを撃っているものの、真白のGK赤松によって阻まれ続けている。
『室岡、左からのクロス! 赤松、判断良く飛び出してキャッチ!』
『好セーブで乗って来ましたね赤松君。こうなると、どんどん止めたりしますから桜見の得点は難しくなりそうです』
左サイドから室岡がドリブルで攻め上がり、得意の左足によるクロスを上げるが、ハイボールとなった球は赤松が飛び出してキャッチ。
輝羅の跳躍力には及ばないとはいえ、彼よりも高い身長と長い腕がボールを届かせていた。
「結構良い感じで攻めてるんだけどな」
今日試合に出場しない竜斗は交代した選手へ水やタオルを配り、マネージャー達と共にサポートする。
「んぐっ……ぷはっ! 結構DF堅いってのもあるけど、あのGKがでけぇわ」
竜斗から水を受け取って喉を潤すと、霧林は真白ゴールを守っている守護神に目が向く。
「これガチでPKまで行くんじゃないスか……?」
同じくベンチへ下がり、タオルを頭にかぶって休む海東は何本かシュートを撃ち込んでいたが、赤松やDFの前に跳ね返され続けたまま疲労を迎えてしまう。
海東の言うように、このままのリズムで試合が進めば0ー0のPK戦も見えてくるかもしれない。
「出来る事なら体力の消耗を避ける為にも、60分で試合を決めたい所ですが……」
「そいつはもう、あいつら次第になっちまう」
神奈も竜斗も今、フィールドで戦う桜見イレブンを見守るしかなかった。
「(疲れを知らねぇのかよ……!?)」
真夏の猛暑に襲われながらも走り続け、交代した真白の攻撃陣は汗が滴り落ちて息が乱れ、体力をかなり消耗していた。
彼らは恨めしいような目で小柄な選手達を見る。
「相手もう疲れてフラフラになってるからー! 押せ押せー!」
「今度は左来るよー!」
桜見のDFライン、ゴール前から与一や輝羅が仲間達へ声を出し続けるだけでなく、再交代で1度も下がらず2人とも疲れを見せていなかった。
何故交代無しで動きが鈍らないんだと、真白の攻撃陣には信じられない光景。
シュートは2本止まりの上にいずれも決定的とは程遠く、輝羅が正面で難なくキャッチしている。
「(全然チャンスが生まれない……! 何でこの小さい奴らが守って此処まで堅いんだよ……!?)」
彼らは強大な壁を前に感じていた。
自分達より小柄な双子に対して、ゴールを奪えるイメージが全く沸かないという絶望感を。
『(与一、相手良い感じで折れてくれてるみたいだよ)』
『(うん、ボキボキって折れてるのが分かったねー)』
相手の心を読んだ与一、輝羅はテレパシーで会話をする。
『(後は向こうの守備とGKから得点しないと。PK戦でも負けはしないけど、これが最後じゃないから出来る事なら決めたいな)』
『(この暑さだもんねぇ……)』
共に試合が長引く事なく、決着をつけられれば理想と考えていた。
その為には赤松やDFの壁をどうにか越えなければならない。
「ヤミー! ちょっとー!」
「え……?」
与一が影二を呼ぶと彼に作戦を伝えていき、試合の方は後半20分を過ぎていた。
『試合は0ー0が続き、PK戦も見えてきました準決勝! 桜見は再交代で攻撃陣を揃えて、真白エリアに攻め込む!』
残り時間が少なくなって真白の方は得点を諦めたのか、守備を固めて終盤を乗り越えようと、1人を前線に残して後の選手達が自陣へ下がる。
ゴール前は桜見、真白の選手達が大勢来て激しい攻防戦が繰り広げられた。
『室岡、左サイドから切り込んでシュート! DFのブロックから赤松がキャッチ!』
左の室岡が多少遠くても狙おうと、ミドルレンジからシュートに行くが真白の壁に阻まれてしまい、最後に赤松がキープする。
「後少しだ! 此処が踏ん張り所だぞー!」
声を出して味方を励まし、赤松は前線に残っている味方へとボールを強く蹴り出す。
これを相手より早く落下地点に向かっていた与一が取ると、そのままドリブルで進む。
「(ロングシュート!)」
赤松は与一がボールを持った時、既に構えへと入っていた。
桜見の試合は見てきて、彼がロングシュートで隙あらば狙って来るのは分かっている。
だが、与一はシュートを撃たずにドリブルで赤松の守るゴールへ迫って、中々ボールを出そうとしない。
「(そんなゴール前に引きこもってプレスに来ないなら、遠慮なく上がれるねー!)」
両選手共に終盤戦で体力が限界に近く、満足に動ける者は少なかった。
その中でまだ余力を残していたのか、与一は迫って来た1人を左右へ瞬時に動くフェイントで抜き去る。
『鮮やかなドリブルを魅せる神明寺与一! この終盤でも動きが鈍らない!』
「(ロング撃たせるか!!)」
気力を振り絞ってDFが寄せて来ると、与一はターンで躱してから真白ゴール前へ右足のパスを出した。
敵や味方の間をボールがすり抜けていき、狙っていた選手の前へ正確無比なコントロールで届けられる。
その選手は与一にゴール前へ居てくれと頼まれた影二だ。
「(本当に来た……!)」
影二の足元にピタリと収まって前を見据える。
「(!? スルーパス!?)」
人の隙間から急にボールが出現したかと思えば、何時の間にか目の前に人がいた事に赤松の目が見開く。
影二の左足が振り抜かれると、赤松の右肩を掠めながらもゴールへ向かい、ネットが大きく揺れ動いた。
『闇坂決めたぁ! 後半28分、ついに桜見が赤松の牙城を打ち破って先制点ー!』
『与一君の蹴ったボール、あの密集された中でよく通りましたね。そして闇坂君も良い所に走っていましたよ』
「ヤミー! やったじゃんー、美味しい所を奪っちゃってさぁ〜♪」
「行けって言ったの与一でしょ……!」
影二の元へ仲間達が集うと、一緒になって殊勲の影二を手荒く与一は祝っていた。
終盤に失点して真白は反撃に出るが、消耗した状態で満足の攻めが出来ないまま試合終了の時を迎える。
『試合終了ー! 桜見中学が関東大会初の決勝進出!』
主審の笛がフィールドに鳴り響いた瞬間、桜見は勝利に喜び合うと真白は芝生の上に倒れ込む選手が続出。
明暗がハッキリと分かれた。
「神明寺」
「「え?」」
一通り勝利を仲間と喜び合ってから、ドリンクを飲んで水分補給していた双子は呼ばれて振り返る。
そこには真白GK赤松が立っていた。
「あ、いや……輝羅の方で」
輝羅を呼んだつもりが側に与一も居たので、赤松は小さなGKに用があると訂正しておく。
「うちの攻撃陣を完璧に封じられてPKに持ち込もうと思ったんだけどな。今回は負けだ」
「続きは全国で、だよね? 真白もベスト4で行けるし当たるかもしれないしさ♪」
負けを認める赤松に輝羅は彼の顔を見上げると、明るく微笑んだ。
「まぁな。うちとしては石立の連覇を止めてから全国行くつもりだった……」
「じゃあ代わりにブッ倒して来るよー」
赤松や真白としては関東最強の石立を倒せないまま、敗退する事は心残りだったが、輝羅は彼らに代わって優勝すると言いきる。
「って言っても勝ち上がるのが石立、とは限らないけどねー」
そこへ与一が口を挟むと決勝に来るかもしれない、もう一つの学校が思い浮かぶ。
桜見1ー0真白
影二
マン・オブ・ザ・マッチ
闇坂影二
☆
『先制点ー!!なんと石立中学が前半5分で今大会初失点!』
関東大会で未だゴールネットを揺らされた事のない、石立のゴールが初めて揺れ動く。
決めたのは柳石中学の天才プレーヤー古神星夜。
今大会No.1と言われるストライカーが関東最強を相手に、その強さを見せつけていた……。
与一「結局PKまでは行かなかったねー」
神奈「それでも真夏での試合は相当辛かったと思う。与一兄さん達だけでなく、闇坂さんもフル出場なの凄かったし」
輝羅「本当にヤミーって何気にタフな所あるんだよなぁ〜。次回は波乱の開幕となった石立中学VS柳石中学! 勝つのはどっちだー!?」
与一「僕達主人公が珍しく不在になっちゃうかも〜!?」




