夏祭りを満喫する
「いよいよ後2日かぁ〜」
「あっという間に時間が経った感じするね」
与一、輝羅、神奈の3人は今日の練習を終えた帰り道、関東大会まで残り僅かだという事を話す。
その帰り道は坂道となって疲れた体には辛い道程にも関わらず、3人とも全く辛そうな顔は見せていない。
更に言えば坂道を登った先には長い石段も登らないといけないが、それでも神明寺兄妹にとっては日常茶飯事で辛い内には入らなかった。
「夏休みだから授業無くてサッカーだけだから夏良いねー♪」
「宿題はあるけど、与一兄さんやったの?」
「……え〜、自分のペースで少しずつかなぁ」
与一は痛いところを神奈に突かれたのか、一瞬黙り込むと先に坂道を登って行く。
「(絶対終わってない)」
「(丸々残ってるよね)」
輝羅と神奈は与一が宿題を全く終わらせていない事を察する。
ちなみに神奈は初日に終わらせ、輝羅は少しずつ進めていた。
「それより明日お祭り行こうよー!」
あまり勉強には触れたくないのか、与一は話題をすかさず逸らす。
「お祭り? 何かあったっけ」
「知らないのー? あの桜見の大きな公園で夏祭りやるんだよー」
「あー、前に行った桜見運動公園ね」
道を歩きながら3兄妹は以前行った公園の事を思い出し、そこで行われる祭りに与一は2人を誘っていた。
「僕は良いけどー……」
「私も行けるし、お祭りは興味あるけど……宿題してない状態でお母さん許すかな?」
「う……」
輝羅、神奈の2人が同時に思うのは母である輝咲の事。
勉強に関しては合気道の稽古よりも厳しく、与一が宿題を全くやっていない状態で祭りに行きたいとなったら、おそらく良い顔をしそうにない。
「輝羅! 一緒に勉強やろうー!」
「何で僕も巻き込むんだよー!?」
「丁度良いと思う。輝羅兄さんもあまり終わらせていないから、この機会にやった方が良いし」
少しでも勉強を進めようと与一は輝羅に泣きついていた。
輝羅としては思わぬ形で巻き込まれてしまい、2人は神奈の監視の元で夏休みの宿題を進める事となる。
流石に全部は無理だったが、祭り当日の夜までに2人揃って一気に80%ぐらいは進む。
祭りへ絶対行ってやろうという執念からか、与一は気づけば宿題の進みが輝羅に追いつく底力を発揮。
無事に輝咲から祭りに行く許可が下りて、3兄妹は桜見運動公園の祭りへ参加する事となった。
☆
「うわ〜、すっご……!」
「おまつりだー♪」
「おまつりー♪」
祭りの会場に青い甚平の優人、赤い浴衣を着た姫奈、オレンジの浴衣を着た姫香が姿を見せる。
「お祭りは逃げないから皆走らずゆっくり歩いてー! ママから離れちゃ駄目だからー」
「「はーい!」」
白い浴衣の輝咲は幼い息子と娘へ自分の近くに居るよう言い聞かせ、子供達は揃って返事した。
神明寺家は多くの出店や人で賑わう、夏祭りの会場と化した桜見運動公園に子供達全員が来る。
「あ〜、これが解放感ってヤツかな〜♪」
黒い甚平を着た与一は勉強から解放され、思いっきり羽根を伸ばす。
「本当もうギリギリだったなぁ〜、その分夏祭りを楽しまないと割に合わないや」
輝羅は黒い浴衣を着て、男子組の中で唯一の浴衣を選択している。
「何処の屋台に行こう……?」
神奈は桃色の浴衣を纏い、右手に団扇を持つ立ち姿は双子の兄から揃って可愛いと沢山言われた。
「たこ焼きあるよー。わたあめとかリンゴ飴にイカ焼きとか定番の並んでるー♪」
「お祭りの出店だと何時もより美味しそうに見えるし、どれから行こう〜?」
「(候補が多過ぎて絞りきれない……!)」
祭りで定番の食べ物が並ぶのを見れば今見えてる雰囲気がそうさせているのか、何時もより惹かれやすくなってしまう。
中学生の予算は限られているので何を食べようか、3人は考えさせられる。
「ね、あれはどうー?」
与一が目を付けたのは射的の出店。
数多くの景品が的として並ばれており、その中には当たって倒れるのかと思う大きな景品まであった。
「あっ……あれ、欲しい……」
景品を見ていると神奈は白い猫のぬいぐるみに惹かれる。
あれが魅力的で可愛いと思えて欲しいとなったようだ。
「任せてー、僕が一撃で取るから♪」
これに輝羅が挑戦すると言い出して射的の店主に100円を払い、コルク銃と弾を3発貰う。
そして妹の欲しいと願う猫へ銃口を向けると、輝羅はスナイパーを思わせるような鋭い目をしていた。
サッカーの時と同じぐらい真剣に見えるのは気の所為ではないだろう。
パンッ
コルク弾が発射されてコースはターゲットのぬいぐるみへ飛び、見事に命中すれば棚から落ちていく。
「やったー! 輝羅はやっぱ器用だねー♪」
「はい神奈、お望みの景品♪」
一発で命中した事に与一は拍手を送り、店主から景品を受け取った輝羅が白い猫のぬいぐるみを神奈に渡す。
「可愛い……ありがとう」
「(天使だぁ〜♡)」
ぬいぐるみを腕に抱く神奈の姿に与一も輝羅もメロメロ状態となる。
「神奈お姉ちゃんいいな〜」
「ぬいぐるみいいな〜」
そこへ羨ましそうな目で姫奈、姫香が見てきた。
「任せなさい姫奈、姫香。2人の分もちゃーんとお兄ちゃんが取ってあげるから♪」
輝羅は残り2発を双子の妹の為に使い、2人の望むぬいぐるみをそれぞれ命中させる。
一発目と同じくスナイパーを思わせるような目で狙って。
姫奈にはリスのぬいぐるみ、姫香にはキツネのぬいぐるみが渡された。
「わー、ありがとうー♪」
「ありがとうー♪」
「(うちの妹達可愛過ぎるって〜♡)」
「(癒やされる〜♡)」
ぬいぐるみを腕に大事そうに抱えて喜ぶ妹達の姿に、双子の兄達は神奈の時と同じくメロメロとなる。
「良いなぁ、僕も〜……って弾が無いから駄目かぁ」
これを見た優人も羨ましくなって欲しいとなったが、3発の弾を使って終わりと理解していて、双子の妹達が喜んでるから自分は兄として我慢。
その心が与一に見えて彼は行動を起こす。
「優人、もう1回やろうと思ってたから言ってよ景品♪」
「え、良いの!?」
今度は与一が店主に100円を支払い、コルク銃と弾を手にすると弟の望む景品へ銃口を向けて構えた。
流石は双子と言うべきか、鋭い目つきで見据える与一の姿は先程の輝羅を思わせる。
そして与一は優人の欲しい菓子を一撃で叩き落とし、景品を弟へ差し出す。
「与一兄ちゃんありがとうー♪」
「うん、後で兄ちゃんにも一口頂戴ねー♪」
欲しい菓子を手に持って優人は嬉しそうに笑うと、与一は弟の頭を優しく撫でてあげた。
『(やっぱうちの妹と弟、可愛いよねぇ♪)』
『(マジでそれ! 祭り来て良かったよー♪)』
妹や弟の可愛さに与一も輝羅も癒され、テレパシーで気持ちを伝え合う。
残りの2発で与一の食べたい菓子を狙って撃ち落とし、いずれも一撃。
「やったー♪これお菓子全部取っちゃうー?」
「良いね、そうしよっか──」
追加で景品を狙いに行こうとしていた双子だが、それを止める者がいた。
「こら、取り過ぎだし他に射的やりたい人がいるんだから此処まで!」
「「ごめんなさ〜い」」
根こそぎ景品を狙おうとした2人に母の輝咲が注意をして、射的は強制終了を迎える。
ちなみに一部始終を見ていた射的の店主は、今日現れたスナイパー2人の百発百中に呆然しっぱなしだったという。
「お前ら、たいした腕だな」
射的を終えた2人に声を掛ける赤髪で長身の男。
出店の者なのか、彼らと同じ法被を着ている。
「良い物をみせてもらったサービスだ。とっとけ」
「わ、美味しそう〜♡」
「焼きそばだ〜♡」
男の右手には焼きそばの入った容器を持っていて、食欲を唆る美味しそうな匂いが2人の鼻を刺激。
「ちょっと待って、知らない人から物を貰ったら駄目だよ」
そこに神奈が駄目だと、ぬいぐるみを脇に抱えながらも片手を出して制する。
知らない大人に対して警戒心を持つ時、それを解いたのは教えた輝咲自身だった。
「彼は良いんだよ、そうだよね間宮君?」
「しっかり教育してんな笹川、っと今は神明寺だったか」
180cm程ある長身の輝咲と同じ高さの男へ、知り合いのような感じで話す。
「え、この人お母さんの知り合いなのー?」
「ちょっと格好良い人だー♪合気道繋がりかなー?」
母の知り合いと聞いて驚きつつも、与一と輝羅は赤髪の男を揃って見上げる。
それが後に『間宮啓二』という、かつて父の弥一と共に高校時代、伝説を築き上げたメンバーの1人と気づくのだった。
与一「お祭りは良いな〜♪」
輝羅「美味しそうなのが並んで魅力が増して困っちゃうよ〜♪」
神奈「少し値段高いけどね」
与一「とりあえず知り合いって事で焼きそばは貰って良いよね!? 食べ物粗末にするの勿体ないし!」
輝羅「次回はお父さんとお母さんの友人、間宮さんとの話となりますー! 高校時代の武勇伝が主かなぁ?」




