家は道場!?
「何でお前ら全員来てんだよ」
「そういう竜斗こそ何時もの朝錬どうした〜?」
朝早くから竜斗や楽斗、桜見サッカー部の中学生達がゾロゾロと歩く。
その姿は早い時間、仕事へ向かう者達の目を向けさせる程に目立つ。
何時もはグラウンドに行って日課の朝錬をしている時間だ。
だが、今回は予定を大幅に変更して与一と輝羅の2人が住む、神明寺家へと一同は向かっていた。
「あいつらってどんな家に住んでんだろうなぁ?」
「まぁ普通の一軒家とか?」
「 多分マンションじゃね?」
「実は大豪邸に住んでるとか!」
部員達の間で双子がどんな家に住んでいるのか、予想が繰り広げられる。
「家の場所、ちゃんと分かってるか?」
「分かってるって、あいつらとは連絡先を交換してるし、教えてもらったからな」
楽斗から住所を把握してるかと聞かれれば、竜斗は大丈夫だと先頭を歩く。
「えー、この坂を上がるそうだな」
竜斗達の前には長い坂の道、緩やかな道からいきなり厳しい道に突入していく。
とはいえ彼らはサッカー部で日々体を動かしている身。
これくらいの坂を登るのは朝飯前だ。
「あいつら部活帰りでこんな道通ってんのかー、疲れた体でこれしんどいんじゃね?」
「けど練習こなして平気そうだったぞ、どっちも」
坂を登りながら話す楽斗に、竜斗は昨日の部活が終わった彼らの顔を思い出す。
どちらも疲労の色は特に無いと記憶している。
そして彼らが坂を登り切ると、次の道に絶句してしまう。
「……住所、間違えてない……?」
「竜斗ー、マジで合ってんのかよ〜!?」
「いや、確かにあいつらメッセージでそう言ってたから……」
桜見サッカー部の前に現れたのは、先程の坂以上に長い石段。
これを見て大半が寺にでも住んでいるのかと疑ってしまう。
「とりあえず登るぞ、これも良いトレーニングだ」
「朝からこんなん登るなんて思ってなかった〜」
「……彼らの家、遊びに行くの一苦労……」
竜斗達は長い石段を登り、頂上にある場所を目指す。
彼らとしては坂や石段で、ちょっとした足腰を鍛えるトレーニングとなっている。
「ふ〜、此処が頂上っと」
竜斗が一番に辿り着くと、そこへ楽斗、影二と続いてサッカー部は次々と石段を登り切っていた。
登った彼らの見る先に一軒家と隣接する道場らしき建物がある。
道場の看板には『神明寺流道場』と確認。
「何だこれ……?」
「神明寺って事は此処、だよなぁ? 別の神明寺って事はない?」
道場の看板に神明寺の名があって、楽斗がこの場所なのかと疑う横で竜斗は道場の意味を考える。
「あ、皆来たんだおはようー♪」
「ようこそ我が家へ〜♪」
そこに明るい声が2人分聞こえ、そこには家の扉から出て来た与一と輝羅の姿があった。
「え、お前らその格好は?」
竜斗や部員達は双子の今の姿に目が止まる。
いずれも上は白い道着で、下は袴という格好だ。
「これから道場に行って朝練をするから、その為の服だよー」
「朝練する人はそのまま動きやすい格好で良いからー」
与一と輝羅でサッカー部を道場へと案内。
「わー、人が多いー! 兄ちゃん達の友達ー?」
そこへ双子と同じく道着を纏う小学生ぐらいの男の子が、興味深そうにサッカー部へ近づいて来る。
双子と同じく活発そうな感じだ。
「こら優人、まず挨拶しないと駄目だよー」
輝羅は自分と同じ紫の髪をした少年へ、挨拶をするよう軽く注意。
「小学校3年生、神明寺優人です! よろしくお願いします!」
「あ、こちらこそ初めまして……」
「ご丁寧に、よろしくお願いします……」
元気よくかつ、礼儀正しく頭を下げてくる子供に竜斗や楽斗達は同じく頭を下げて挨拶する。
「もう朝練始まるから、早く来ないとママが来ちゃって遅刻だよ〜!」
「はいはい、一緒に行こうね優人ー」
優人を連れて輝羅は神明寺道場とある道場の方へと入って行く。
「朝練って、それでその格好……まさか合気道か?」
「キャプテン大正解〜♪」
竜斗が思い浮かんだ事を伝えると、与一は明るく笑いながら正解と拍手を送る。
「あいつら合気道やってるのか」
「その朝練で来てなかったんだなぁ」
部員達は双子が朝練に来ない理由を納得していた。
家の朝練をこなして、あの道を行き来してきたのだと。
「他のスポーツをやるのも良い勉強だ。合気道へ触れてみるか」
「面白そうだし、俺もー」
「僕も……」
竜斗を筆頭に楽斗、影二達が次々と合気道の参加を志願してきた。
「おー、やる気満々だね? じゃあ道場に行こう♪」
全員が合気道をやると言って嬉しく思えば、与一はサッカー部を道場へと案内する。
道場内に来ると明るかった双子や優人が黙り込み、場には静寂が訪れていた。
彼らの他にも小学校低学年ぐらいの女子2人の姿が見える。
片方が黒髪のツインテールで、もう片方は紫髪のショートボブ。
後は与一や輝羅と同じ年ぐらいの紫髪のショートヘアの女子も居て、3人とも同じ道着と袴を身に着けている。
そこへ道場に子供達と同じ道着、袴を纏う長身の女性が現れた。
紫髪のショートヘアで美しい立ち姿に、見惚れる男子が何人か続出。
「ようこそ桜見サッカー部の方々。息子の与一、輝羅がお世話になってます。母の神明寺輝咲です」
礼儀正しく頭を下げる母親に、サッカー部の面々は揃って頭を下げて返す。
「此処に来るまで大変だったでしょう? 学校まで時間はあるはずだから、ゆっくりしていってね」
穏やかに微笑む彼女にサッカー部の何人かの顔が赤くなる。
「(ちょ、与一と羅輝のお母さんめっちゃ美人じゃん!?)」
「(あ、ああ……)」
小声で楽斗は竜斗と話していた。
共に双子の母、輝咲が相当の美人である事に驚いたらしい。
「じゃあ皆は何時も通り始めましょうか、まずは正座から」
輝咲が畳の上で正座すると与一、輝羅、優人、それに女子3人が彼女と向かい合う形で正座して目を閉じる。
それぞれが姿勢正しく綺麗な座り方だ。
「……聞いた事ある、正座って……体幹とかインナーマッスルを鍛えられて良い……」
「ええー、足痺れるからしてないや」
「折角来たんだ。体幹とか大事だから俺らもやってみるか」
影二はボソボソ正座が良い効果を生み出すのだと、呟くように言う。
すると竜斗も真似して畳の上で正座を開始。
それに他の部員達も続き、全員が気づけば正座で座っていた。
「(結構きっつ〜、久々にやったけど〜……!)」
「(どんくらい座るんだこれ? 1時間とか無理だぞ……!)」
普段正座を全然しない者にとって、この体勢で座るだけでも辛い。
「はい、終わりー」
「え」
輝咲から正座の終了を告げる声がすると、双子を筆頭に皆が立ち上がって正座を止めていた。
「長い時間やったら足壊れて逆効果なんだよー、慣れない人とかこれぐらいで良いからー」
こんなんで良いのかと思う部員達に、与一はこれで良いという事を説明。
「次は丹田呼吸、皆で鼻から4秒息を吸って〜、丹田を膨らませる事を意識して〜」
輝咲がその呼吸をすれば子供達もそれに続き、息を吸って呼吸をする。
「丹田……って?」
「……おへその下にあるやつ……あれ丹田だから……」
丹田の事を楽斗は隣の影二に聞いて教えてもらう。
「(合気道って聞いたから投げまくるかと思えば、こういう事してんのか。正座に呼吸法……)」
思ってた合気道のイメージと違い、特に動きの無い地味なトレーニングをしてるなと竜斗は与一と輝羅を見る。
双子は真剣に、この地道な特訓へ取り組んでいた。
「(あれが意外な効果あったりするかもしれない、だとしたら積極的に取り入れるべきか)」
竜斗はどうやっているのか双子の動きを観察。
「せいっ! せやっ!」
ビシッ バシッ
朝練は合気道の組手に突入し、与一が輝羅に対して拳による突きや蹴りを放つ。
それを輝羅は手で払い除けて防いだりと、ヒットを許さず捌き続けている。
「はぁっ!」
ガッ
与一が足を踏み込んで右の鋭い突きが輝羅に伸びると、その前に輝羅は与一の右手首を左手で掴み取っていた。
「っせぇ!」
「だっ!」
ダァンッ
与一の勢いを利用して輝羅は一気に投げへと転じ、与一を畳の上に叩きつける。
「お、おい! 与一大丈夫か!?」
かなり強めに畳の上へ叩きつけられたのを見て、竜斗は心配になって駆け寄る。
「あ、受け身を取ったから全然平気だよー♪」
「これ受け身の稽古だからねー」
何でもないように与一は笑顔で立ち上がり、輝羅は受け身の稽古だと竜斗に説明。
「(合気道こんなの出来るのかよ!?)」
初めて見る生の合気道に竜斗だけでなく、他の部員達も驚かされるばかりだ。
「神明寺姫奈です!」
「神明寺姫香です!」
合気道の朝練が終わると部員達の前へ幼い女の子2人が揃って、ペコッと挨拶をする。
いずれも元気よく礼儀正しい姿だ。
「兄さん達がお世話になっています、神明寺神奈です」
長女である彼女は母譲りを思わせるような気品ある挨拶。
「あ、こちらこそご丁寧に……」
「よろしくお願いします……」
年下から丁寧に挨拶をされていなかったせいか、硬くなりながら部員達も頭を下げていく。
「(つか兄妹多くない!?)」
「(俺一人っ子だから今すっげぇ新鮮だわ……!)」
双子が実は6人兄妹である事を知って楽斗が驚きの顔を浮かべると、一人っ子の竜斗は兄妹達と共にいる双子を見つめる。
「与一、輝羅、お友達が待ってるから支度しなさい。神奈も」
「「は〜い」」
「はい、お母さん。兄さん達がちゃんとやってるか見張っておきます」
「酷いな神奈ー、学校サボってるみたいに言わないでよー」
母親からの言葉を受けて与一と輝羅は支度へと向かい、神奈も後を追う。
兄妹で性格の違いが結構あるようだ。
「あの、与一君と輝羅君は何時も毎朝、こうして合気道してるんですか?」
輝咲と話すタイミングを見つけ、竜斗は双子が何時もこの朝練をしているのかと聞く。
「そうだね、我が家ではイタリアにいた時から日課でやってる事だよ。朝に体を動かした方が美味しくご飯を食べられるからってね」
「日課……」
その日課を崩したくないから朝練を断ったのかと、竜斗は輝咲の話で改めて理解。
「ああ、合気道ってインナーマッスルや体幹に良いから、サッカー部の皆も機会あればやって損は無いと思うよ」
「──なるほど、考えてみます」
先程、輝咲達がやっていた正座と呼吸法。あれなら真似して取り入れる事が出来そうなので、竜斗は練習メニューの1つとして加えておく。
「お待たせー」
そこへ袴から制服へと着替えた与一と輝羅の姿。
更に神奈も桜見の女子制服姿となって、それぞれ学校へ行く用意が整う。
「あれ、ひょっとして妹ちゃんもうちの生徒?」
「神奈は風邪だったから当日来られなくて、今日からなんだよー」
楽斗の言葉に輝羅が妹は今日が初登校と皆へ教えていた。
2人の妹は1年で、この春から中学生だ。
「あの、この機会に皆さんへお聞きしたいんですが」
「? どうかしたのかい?」
何か質問があるのかと楽斗は神奈を見る。
「サッカー部って女子マネージャーの方は現在募集してますか? 良ければ入る事を希望したいです」
「え!? マジで!?」
まさかの女子マネージャーとしての入部者が新入部員の家で現れ、副キャプテンを驚かせていた。
「大丈夫だよな竜斗!?」
「まぁ、今すぐに正式な手続きは無理だけど放課後に部の方来て書類を書いてくれれば。先生には俺から言っとく」
部の長である竜斗からはOKの返事、問題無く入部は出来るようだ。
「なになにー? 1人で学校は寂しいから、兄さん達と一緒にいたいんだー?」
「兄さん達が部に迷惑かけてないか心配だし、与一兄さんが赤点取らないか心配だから」
「妹手厳しい〜、これ反抗期来てる〜!?」
笑顔の与一にズバッと言い切る妹の神奈。
これにはマイペースな兄も崩れ落ちてしまう。
「お友達を待たせない! ほら、学校行って来なさい!」
「「行ってきま〜す」」
母に見送られて与一と輝羅は多くの仲間達と学校へ向かい、神奈もそれに続く。
「歴史は繰り返す、か」
輝咲は彼らの後ろ姿を見て、昔を思い出せば小さく微笑む。
神奈「という訳で桜見サッカー部マネージャーとなりました、妹の神奈です」
与一「可愛い妹でしっかりしてます〜♪」
神奈「兄さんがだらしないだけだから」
与一「妹が厳しいよ〜(涙)」
輝羅「次回はサッカー部へ練習試合の申し込み! やっと試合が出来そうかなー?」




