厄介なライバル現る!?
「お風呂上がりの楽しみっと〜♪」
神明寺家のキッチンにて、与一は冷蔵庫を開けて鼻歌混じりにコーヒー牛乳の大きなパックを取り出せば、そこに用意したコップへ並々と注いでいた。
これが部活帰りで入浴を済ませた与一の楽しみである。
「あれ、神奈ー?」
コップを持ってリビングに向かうと、ソファーの上でタブレットを夢中で操作する神奈の姿が見えた。
頭にタオルが巻かれているのを見れば、彼女も風呂上がりというのが分かる。
「(気づいてないのかな……)神奈ー」
改めて兄が妹に呼びかけるも、それに応える様子は見られない。
すると与一にイタズラ心が芽生えたのか、ニヤッと笑ってみせた。
彼は神奈へ忍び寄ると側まで迫り、彼女の左頬にコーヒー牛乳が入ったコップを近づける。
「きゃっ!?」
よく冷えたコップが神奈の頬に触れた瞬間、可愛い声が出てビックリしてしまう。
「あはは〜、ビックリした〜?」
イタズラ大成功な与一は満足そうな笑顔を見せていた。
「〜〜与一兄さん!」
顔を真っ赤にさせながら、神奈は手元にあったクッションを思いっきり与一に投げると、それを与一は難なく避ける。
「また悪戯でもしたの与一?」
クッションが風呂上がりの輝羅にまで飛んでいき、流石GKと言うべきか反応すれば右手でキャッチしてみせた。
「妹の可愛いリアクションが見たくてつい〜、それに何か僕には気づいてない感じだったから〜」
与一はゴメンと神奈に頭を下げて謝れば、顔を赤くさせながらも妹の目は再びタブレット画面に向く。
「神奈、何か調べ物でもしてた? あまり根を詰め過ぎて体調を崩すのは良くないから程々にして休んだ方が良いよー」
家に帰ってからタブレットとにらめっこを続けている妹を見て、輝羅はタオルで頭を拭きつつ神奈の体調を気遣う。
「大丈夫、関東大会に出てくるチームを調べてて一通り終わった所だから」
「関東大会かぁ〜、東王とか柳石より強い所出て来るのかなー?」
神奈が関東のライバル達をチェックしていたと聞いて、与一は都大会で戦った面々を頭に思い浮かべる。
関東大会で彼らを越えるチームが出て来るのかと。
「与一兄さん、関東大会は中学サッカーで一番の激戦って言われてるぐらい厳しいから。強いチームは東京以上に沢山出て来るよ」
「やっぱ皆が此処まで勝ち上がって出場決めた強豪だから、そうなるかぁ」
関東大会は各地の大会を勝ち上がって来た、関東の強豪達が集結して戦う。
無論彼らだけでなく、決勝を戦った柳石とも勝ち上がれば再戦もあるかもしれない。
「全国大会に行くにはベスト4進出、東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、群馬、栃木、山梨と16チームの代表校でのトーナメントで、2勝が必要になってくる……」
「関東のチーム勢揃いって感じだねー」
神奈が改めて関東大会の概要を調べている横で、与一もタブレット画面を覗き込む。
「色んな強豪がいるけど、その中でも手強いのは埼玉の石立中学。此処は過去に何度も全国制覇してて、石立1強って言われてた時代もあったみたい」
画面を動かし、神奈は石立中学の試合を双子に見せた。
「決勝で5ー0って派手にやってるなぁ〜」
「ショートパスが速くて正確、これは結構レベル高いねー。流石は中学の現王者って感じ」
与一も輝羅も石立のレベルを高いと感じ、決勝にも関わらず大差をつけて勝っているのも頷ける。
「昨年は全国制覇を逃してるけど優勝出来る力は充分に持ってるし、関東大会も優勝候補筆頭って言われてるから。優勝を狙うなら此処が1番の壁になると思う」
「そっかぁ、此処が1番強い……」
この時、神奈の言葉を受けて与一と輝羅は共に同じ考えが浮かぶ。
☆
神明寺兄妹は3人揃って今日の放課後の部活を休み、埼玉の大宮へ来ていた。
駅の周辺には制服を着る3人と同じく、何人かの学生らしき者達が帰宅する姿が見える為、彼らが特別目立つような事は無い。
「まさか本当に埼玉まで来るなんて」
「行くって言ったでしょー♪行かないとか変更した事が今まであったっけー?」
「うん──1回も無くてブレなかった」
昔から双子の兄が行動に一切迷う事なく、突き進む姿を神奈は見てきた。
急に明日、埼玉に行くとなって正直驚かされたが、直に見た方が画面越しで見るよりも得るものはあると見て、此処まで同行している。
「けど兄さん達、いきなり来てサッカー部以前に学校入れるのかな? 私達思いっきり桜見の制服着てるから」
「それなら僕が向こうに行くって昨日連絡しておいたよ♪」
まず石立中学自体に入れるのか、という疑問が浮かぶ神奈に対して輝羅は既に前もって連絡済み。
「アポは取ってあるって事で堂々と行って良いからねーっと、すんごい立派な校舎見えてる〜」
先頭を歩いていた与一の足が止まると、大きな校舎が敷地外から見えていた。
石立中学は埼玉随一のスポーツ名門校として知られ、サッカーだけでなく様々な部活で全国出場を決めている。
その中でもサッカー部の存在が群を抜く。
「絶対王者の学校って感じ〜、ちょっとしたお城だよこれー」
正面に見える正門の立派さといい、自分達の通う桜見中学とは全然違う。
輝羅は城のような外観の中学を見上げていた。
「すみませーん」
3人は正門にある警備員の詰所へ向かい、代表して輝羅が1人の警備員に声を掛ける。
「ん? その制服……君達、うちの学校の生徒じゃないよね。駄目だよ部外者が勝手に入るのは」
普段から石立中学の制服をほぼ毎日見ている警備員からすれば、3人が違う学校の制服なのは即分かった。
「あのー、僕達は桜見中学からサッカー部の見学に来たんですよー。神明寺って言って確認してもらえれば分かると思いますー」
「神明寺? 変わった苗字だなぁ……確認するから少し待ってて」
珍しい名だと思いながらも、警備員は連絡を取り始める。
それから少し待つと向こうから3人に声が掛かった。
「迎えに来るから待たせるようにってさ、何か慌てた感じだけど……」
「慌てたって忙しいのかな?」
「さあ〜、とりあえず待とっか」
首を傾げる神奈に与一が言うと、校舎の見える前方を眺める。
「いや、待たせて申し訳ない! 石立サッカー部監督の松川篤史です」
急いで駆け付けて来たのは帽子をかぶった黒いジャージ姿の男。
「はじめまして、神明寺輝羅です」
「同じく与一です」
「神奈です」
3人それぞれ監督の松川へ頭を下げて挨拶する。
「いや、驚いたな……此処で神明寺弥一の子供達に会えるなんて、連絡貰った時は驚いたよ」
「こっちも結構あっさり許可下りるもんなんだって正直驚いてますよー」
「そりゃあね。君達の都大会の活躍も聞いてるから門前払いって訳にもいかないし、全国制覇を目指す部員達の良い刺激としてプラスに働くかもしれないからね」
「(ああ、この人は結構計算してるなぁ)」
親しげな笑みを見せながら歩き、与一と会話を交わす松川を見て輝羅は彼の心を読む。
父親が有名人というだけで許可した訳ではなく、自分達の部をさらなる成長に導く為に今回の見学が実現。
この時点で与一は松川に対し、したたかな印象を抱く。
「松川監督ー」
「なんだ海斗、今うちへ見学に来た客人を案内しようと伝えたばかり──」
そこへ石立サッカー部のジャージを着た短髪、桃色髪の少年が駆け寄る。
「職員室から呼び出し来てましたよ」
「え? このタイミングで……まいったな……海斗、任せられるか?」
「はい」
松川にとって予想外の呼び出しに、どうしようか悩んで海斗という少年に後を一度託す事にした。
「急に済まない、用事を済ませてすぐ戻るから! 彼はうちのキャプテンで社海斗、代わりに案内してくれるんで、じゃあ!」
そう言うと松川は急ぎ足で校舎の方へと向かって行く。
「何か慌ただしい感じで悪いね、改めて俺は石立中サッカー部のキャプテンで3年の社海斗……」
3人へと振り返り、海斗が改めて自己紹介しようとした時。
「……あの、どうしたんですか?」
「え? ああ、いや。失敬、何でもないよ。よろしく」
海斗の目は神奈に向けられており、その視線に本人が気づくと彼は何でもないように振る舞う。
だが、この時に海斗の考えている事は与一、輝羅の2人にはバッチリ見えていた。
「(ヤバ、すっごい可愛い! 何この天使!? いや、女神!)」
彼は神奈の姿を見て一目惚れしたらしい。
「……」
愛する妹を守る為か、双子の兄2人は守るように神奈の前へ立つと、揃って厳しい目を海斗へ向ける。
与一「絶対神奈を1人にしないようにしよう」
輝羅「当たり前だよ、極力近づけさせないように立ち位置を気をつけて自然に……」
神奈「兄さん達、お仕事」
与一「ゴメン神奈ー、今大事なお兄ちゃん会議してる所ー」
輝羅「ちょっと今回は本当大事だからねー」
神奈「もう、しょうがない……次回は石立中サッカー部の見学となりますので皆さん良ければ見てください。よろしくお願いします」




