都大会決勝 桜見VS柳石5
「ああ〜! 何かもう見ててハラハラする〜!」
ベンチで大人しく試合を見守ってきた遊子だが、均衡の破れない接戦が続いて落ち着かない姿を見せていた。
「ああ危ない!」
目の前にはゴール前、相手FWが右足でシュートを放つ姿。
しかし足元が狂ったのか浮かしてしまい、枠を捉えられなくてゴールマウスに立つ輝羅は冷静に見送る。
「ふぅ〜、良かったぁ〜」
ホッと一息つく遊子の隣で神奈は全く慌てる事なく、フィールドの選手達を観察するように見て、落ち着いた様子。
簡単にはゴールされなくて負けないと思っているからだ。
「(相手は凄い才能を持ってるけど、兄さん達なら大丈夫)」
神奈は双子の兄の勝利を信じて見守る。
「両方ともDFやGKが奮闘してるって感じですねぇ。柳石の小島君、桜見の神明寺君の2人がいなかったら、とっくにスコアは動いてるはずですから」
泉は此処まで見てきて守備の目立つ試合になってるという感想。
語りながらもカメラを構え、タイミングを見てシャッターを押す事は忘れない。
「確かに両キーパーの好セーブが光っている。それでこの決勝は接戦になってると思うが、あそこの攻防戦次第で状況が全く変わるかもしれないぞ」
村田の見つめる先には互いに攻守で動き、譲らない攻防戦を繰り広げる与一、星夜の姿。
彼らの勝敗が結果に左右されるかもしれないと、そう村田は考えている。
「本当凄い争い見せてますよね彼ら……特に片方は小学生ぐらいちっちゃいのに動きが凄いし」
泉のカメラは既に何枚か、彼らのデュエルが行われる姿を撮っていた。
「それはそうだろ。彼とあのGKは──日本の生きる伝説、その血を引いているんだからな」
村田の中で確信へと変わる。
あの双子が何者なのか、その答えは既に出ているようだ。
「上がれぇ!」
霧林から上がったクロスを直接キャッチした小島から、声と共にジェスチャーで上がれと伝えた後、右足のパントキックで前線にボールを送る。
「(ここ!)」
走る星夜の頭上に球が迫れば跳躍に入り、与一は相手が跳躍に集中している所へ、低い体勢で下からのショルダーチャージを仕掛けた。
ガッ
「っ!?」
ジャンプに集中していた所へ不意を突くような与一の当たり。
肩同士がぶつかり合った時、ズシリと重い衝撃が星夜に伝わる。
飛ぶことが出来なくてボールは流れて行くと、輝羅まで行って抑えていた。
「嫌なタイミングで当たってくるね君は!」
「褒め言葉って思っとくよ!」
言葉を交わしながらも2人は足を止める事なく、激突が繰り広げられる。
「だっ!?」
左から上がって室岡を追い越し、若葉は懸命にチャンスを作ろうと走っていた。
左サイドへ影二がパスを出した所へ反応するも、追いかけて来た影丸が若葉の出した右足より速く、自身の右足でボールをカット。
若葉の足が空を切ると転倒し、影丸の前に封じ込まれてしまう。
「(よし、右からは影丸が封じてくれる。後は得点か)」
サイドの攻防戦を見ていた小島。
影丸が守備で積極的に動いてくれているおかげで、サイドの守りに不安は無い。
後半も時間は経過して来て、得点は変わらず0ー0。
このまま行けば延長戦となってくるが、その前に決着をつけたい所だ。
「はぁっ……きっつ……!」
楽斗はプレーが止まったタイミングで、フィールド脇に置いてある水を取りに行って水分補給を行う。
「大丈夫か楽斗。結構走り回って消耗してるだろ」
竜斗も同じように水筒の水を飲み、僅かでも体力を回復させていく。
「平気、あっち見てたらバテてる場合じゃないなって思ってさ」
「ああ……」
楽斗の視線の先を竜斗も見れば、すぐに納得していた。
そこには与一と星夜、2人の姿があって高レベルの攻防戦を続けている。
他の選手による立ち入りが禁止されているような、2人の間にそんな空気が流れてるのかと錯覚させる程だ。
「(今0ー0でいられんのは、ああやって与一が何よりも危険な古神を抑えている事がデカい。けど何時まで持つか……)」
それだけではないが、今のスコアレスは星夜を与一が自由にさせていない。
これが大きいだろうと竜斗は見ていた。
「っし、もうひと踏ん張り行くか!」
「おおー」
エースをあれだけ封じてくれて自分達がバテてる場合じゃない、竜斗、楽斗の2人は気を引き締めると再びフィールドへ戻っていく。
「(延長戦かな……?)」
「 (多分このまま終わりそうか……)」
1点を争う攻防戦が続く中、後半終了の時間が迫って来れば延長戦になるかもしれない。
そう考える者が桜見と柳石の両チームに出てくる。
その時、突然動き出す者が現れた。
「!?」
側にいた星夜の目が見開かれる。
与一が自分から離れて猛然と柳石ゴールを目指し、走って行く姿が見えたせいだ。
「(まだあんな走る力があったのか!)」
此処まで60分近く試合に出続け、最も体の重くなる後半の終盤とは思えないスピードで上がって行く。
底の見えない与一に対して星夜も後を追う為に駆け出した。
「ヤミー!」
「!」
ボールを持つ影二の耳に届く自分を呼ぶ声、隣を見れば与一が走って来ている。
影二からパスが出て与一は左足でトラップ。
「! 6番ドリブルあるぞ!」
与一にボールが渡ったのを見て、小島がドリブルに警戒しろと味方に指示を出せば、すぐに与一の近くにいた森本が止めに走った。
「(速!?)」
立ちはだかる森本の守備を無にするかのように、与一は減速せずスピードで抜き去っていく。
「(これ以上1人で進ませるか!)」
そこに大塚が楽斗のマークを岡井に任せて与一へと向かう。
自分に向かって来る姿が見えていたのか、マークが迫る前に右足でのパスが出された。
左サイドには若葉とマークする影丸の2人が走る。
「(長い、あれラインを割るね!)」
影丸から見て与一の出したパスは勢いが強過ぎて、このまま左のタッチラインを割ると読む。
その隣で若葉は懸命に出されたパスへ向かっていた。
「(与一先輩の出したパスならきっと!)」
何かある、そう信じて走る若葉の前に与一のパスはバウンドするとラインを割らず、真上に跳ね上がる。
「!?」
通ると信じて走った若葉の方がボールに一瞬速く到達し、影丸は一瞬驚きながらも若葉に迫って来た。
このままトラップしたら影丸に取られると思ったか、若葉は左足のダイレクトパスで中央へ折り返して影丸を躱す。
これがパスから前に走っていた与一の元へ向かい、ワンツーの形となる。
「(此処からドリブル!)」
ワンツーからドリブルに入ると読み、大塚が与一のトラップを読んで寄せに行く。
「!?」
だが、大塚の予測は外れで与一はトラップせず、左足で右にパスを出していた。
そこには楽斗が向かっていて、マークする岡井よりも一歩速い。
「(また!?)」
目の前で見たプレーに岡井は驚愕する。
楽斗でトラップするかと思えば彼も右足で折り返していたのだ。
ボールは走る与一に返ってきて、ワンツーの連続で柳石ゴール前まで近づくプレーに観客達から、ざわめきが起こる。
「(驚かされたけど、此処までだ!)」
与一の目の前には先回りして待ち構えていた星夜。
此処でドリブルに来るだろうと、距離を一気に詰めてトラップした所を狙う。
だが、与一はまたしてもボールを右足でダイレクトに蹴ると、星夜の右頬を球が通過していく。
その先には柳石ゴール前で待ち構える竜斗がいた。
「!」
ゴールに背を向ける竜斗はボールの来る姿と共に、与一が星夜の横を通り抜けて走って来る姿が見えた。
これを見て迷わず左足で、ゴール前の空いてるスペースへ軽く出す。
竜斗もまたワンツーで返していた。
ボールを一切止めない連続ワンツーに柳石は翻弄され、マークが追いつかない。
与一はフリーの状態で走り込むと右足を振り上げる。
「させるかぁ!!」
唯一追いついていた星夜が後ろからスライディングで滑り込み、左足が与一の蹴ろうとしているボールへ伸びていく。
それを与一は右足で軽く蹴って浮かせてから、自身も左足で地面を蹴って跳躍すると、ボールと共に星夜のスライディングを飛び越える。
「(マジかこいつ!?)」
驚きながらも身構える小島に、与一は空中で左足を高く上げれば、思いきってゴールに蹴り込む。
放たれた左足のジャンピングボレーはゴール左上隅へ、弓矢から放たれた矢のような速さで飛ばされる。
「うおおっ!」
小島が反応してダイブすると共に右腕を伸ばすが、触れる事は出来ず豪快にゴールネットへ突き刺さり、大きく揺らす。
中学サッカーの都大会で衝撃のゴールが生まれた瞬間、会場は大きく沸いていた。
「取れたぁぁぁ!!」
自身の決めたゴールに与一は天へ向かって大きく叫ぶ。
与一「という訳で、やっと僕のゴールとなりました♪」
輝羅「初ゴールが派手だってー、連続ワンツーからあれは目立ちまくりだねー!」
神奈「ちなみに調べたら海外にも3連続のワンツーから得点ってあったみたい。勿論滅多に無いゴールだけどね」
与一「借りを返す事も含め、ド派手にやってやったよー!」
輝羅「桜見と柳石の試合も終盤! 次回は古神の意地の猛攻が来る!?」




