都大会準決勝 桜見VS東王2
「ビビって引いたら駄目だよー! 押し上げて行こうー!」
輝羅はスローイングで影二へ出した後、相手の開始から飛んで来た先制シュートに怖気づくなと、手を叩いて声を出す。
こういう時こそ守備は強気でなければならなくて、相手の攻めに怯んだら一気に深く攻め込まれてしまう。
それは相手が強ければ強い程、起こり得る事だった。
「キックオフシュート来たからって何も恐れる事は無いからー! どんなシュートも入らなきゃ0点に変わりないしー!」
輝羅に続いて与一も積極的なコーチングで、味方の守備陣を鼓舞していく。
「(確かに相手は積極的な攻撃をしてくるけど……!)」
「(いくら東京最強でも今までみたいに、ゴール許さなきゃ負けないよな!)」
「(此処まで連続で完封してるから行ける!)」
影二だけでなく大橋、新田、西村といった守備陣も双子のコーチングを受けて、引かずに前を向くとDFラインを押し上げていく。
日々の練習や地区大会や都大会の戦い、接戦を勝ち上がった事で自然と彼らの中に自信は付いてきた。
「……!」
影二は楽斗にパスを出そうとするが、彼をマークしている剛源の姿に気づく。
「(点を決めるエースよりもアシストする指令塔の方を抑えに来たかぁ。後ろは後ろでゴツいDF揃ってるみたいだけどね)」
与一はDFラインの位置から東王の守備陣を見る。
180cm以上を行く剛源と同じく、DFも長身揃いで高さを兼ね備えた選手が多い。
2人ぐらいしか長身選手がいない桜見とは大違いだ。
「(東京最強チームのキャプテン直々に俺をマークなんて、出世したもんだよ!)」
マークをされている楽斗は引き離そうと走り回るが、抜群の運動量を誇る剛源は難なく付いていけば離れない。
数々の相手チームの切り札を潰してきた剛源はエースキラーとして、相手チームから恐れられている。
その剛源から今回、楽斗は狙われていた。
影二から右サイドの霧林にパスが渡り、上がって行くと彼の前に素早く飛び込む存在。
「(速っ!?)」
光流の俊足を活かした守備で霧林からボールを奪う。
そこから東王のカウンターに入った。
「11番の前を空けるなー! 切ってー!」
輝羅がゴール前から叫べば相手のドリブルコースを切れと、コーチングが入って光流のドリブルを防ぎに守備陣が動く。
ただ、その前に光流が左サイドを突破、
桜見のゴール前へ左から迫っている。
「(行かすか!)」
そこへボールを取られた霧林が自ら取り返そうと、光流に向かう。
体で止めに行くが、光流は右肩からの突進をスルッと躱していた。
西村も向かう前に光流は低いクロスをゴール前へ左足で蹴り、エースの秋城が走り込む。
「通さないっとー!」
通れば大チャンスという場面で与一が光流のクロスを左足で弾き、自軍ゴールから遠ざけていた。
中盤に高く舞い上がる球、そこに楽斗が落下地点に走って取ろうとするも、剛源が跳躍から頭で弾き返す。
「セカンド──!」
竜斗から弾かれた球を抑えろと、声が飛ぶ中で取ったのは影二だ。
「(中央堅い、右は林野が居て厄介……それなら左……!)」
影二は東王相手にパスの先を考え、目をつけたのは左から上がる室岡の姿。
左サイドを走る2年の後輩へ頼って影二は右足でパスを出した。
これが通れば室岡の目は前を向いて、ドリブルでサイドを抉りに行く。
「(中央の折り返しは無理そうだから、このまま行く!)」
一瞬見えた中央、何時もは頼れる指令塔が今日は剛源にマークされている。
室岡は単独で左サイドを突き進んで行った。
「こっち!」
竜斗がボールの無い所で動き回り、相手のマークを振り解いてゴール前で右手を上げる。
ボールを要求する姿に室岡が気づき、左足のクロスを上げるも東王DF木川が飛び込んで球を弾き返す。
「(来た! セカンド!)」
自分の方へ転がってくるボールに楽斗が走り、波状攻撃を仕掛けようと狙っていた。
だが、その思惑も剛源に見抜かれていたか、楽斗と同じタイミングでダッシュすれば長い右足が先に追いつく。
剛源がボールをキープして右足で大きく蹴り出してのクリアとなる。
桜見に思うような攻撃をさせない、東王の堅い守備だ。
「結構互角じゃないかな桜見? 東京の1番強いチーム相手にやれてるよ!」
ベンチから選手達に「頑張れー!」と声援を送る遊子。
形としては顧問で監督という立場だが、向こうの落ち着いて静観している東王の監督とは大違い。
戦術面に関しては主に生徒達が担当する。
「(互角……スコアはそうだけど、攻め込まれてる数が違う)」
遊子の隣でタブレット端末を片手に見守る神奈は、桜見が押され始めている事を感じ取っていた。
「だぁっ!?」
再び左サイドからドリブルで進む室岡だが、東王DFは何度も彼の突破は許さない。
激しいショルダーチャージを受けると、バランスを崩して転倒。
ファールによる笛は鳴らなかった。
「カウンター!」
剛源の声がフィールドに響き渡り、東王の選手達が一斉に桜見ゴールへ目指して走る。
素早い攻守の切り替えで東王はショートパスを中盤で繋ぎ、桜見の選手達を躱していく。
「(此処で11番が中央来てるから……!)」
影二は光流に繋いでくるだろうと、そちらへ密かにマークしていた。
狙い通り、パスは光流の方に来れば影二が動き出してカットを狙う。
「見えてるよ君の事」
「!?」
何時もは相手に気づかれ難い影二だが、光流の目は彼をしっかり捉えている。
その声と共に光流の右足が影二より前へ伸ばされると、ボールを取った直後にターンで反転。
影二のマークを振り切って桜見ゴールの方を向いた。
「10番マークー!」
楽斗から相手のエースに気をつけるよう、コーチングの声が飛ぶ。
光流は前を向いたまま左足の踵を使って、ヒールパスで右へ転がす。
ボールが向かう先には走り込んで来た剛源の姿が見える。
右足を振り上げ、足の甲で押し上げるようにボールを蹴り放つ。
球は弾丸となって桜見ゴールへ勢い良く飛ばされた。
「っ!」
直後、与一がシュートコースに飛び込むと右足でボールに当ててブロックで弾く。
「(コーナーか!)」
高く上がった球の行方を輝羅が目で追い、ボールは自分の守るゴールマウスの頭上を越えて、空中でゴールラインを割る。
与一が触れて出たので東王ボールのCKだ。
「(セットプレーは不味いかも……東王の選手は長身選手が多くて桜見は少ないから)」
ベンチで試合を見守る神奈は高さがあまり無い桜見だと、相手に長身選手が多い東王相手に不利だと考える。
ターゲットが多く、誰に的を絞ればいいのか守備としては守り難い状況だ。
中でも高さと跳躍力を兼ね備える、剛源の高さが最も厄介だろう。
「(此処は剛源先輩でいいっしょ、分かってても止められないだろうし。あのチビDFとGKじゃ高さには何も出来ないはず)」
キッカーを務める2年エースの秋城。
長身揃いの東王が多い中、狙いはキャプテンの剛源と彼に目を向ける。
高確率でバレるかもしれないが、桜見なら高さに抗う術は無いとシンプルな作戦を取っていた。
東王の左コーナーからセットプレーが始まると、秋城は右足で相手ゴール前に高く蹴り上げる。
桜見の長身DF大橋が競り合うも、それを超える剛源の高さ。
跳躍すると頭がボールを捉えようとする。
「(誰が何も出来ないって!?)」
「!?」
剛源が信じられない物を見たかのように空中で驚愕。
自分より遥かに小さいはずのGKが自分と同じぐらいの高さまで飛び、右拳でボールを弾き飛ばす。
輝羅のパンチングが剛源のヘディングを阻止していた。
「っとぉ!? ナイス輝羅ー!」
弾かれた球が転がってくると、楽斗がこれを取って桜見のカウンター。
剛源から逃れてフリーになれば前を向いて、ドリブルで突き進む。
「くっ!」
「わっ!?」
速攻を決めさせんと楽斗の後ろからユニフォームを掴む荒木。
これに倒されると主審の笛が鳴ってプレーは止まる。
『(簡単には速攻決めさせてくれないなぁー)』
『(相手は都内No.1だからね。今のはカードを貰ってでも止めるべきって判断して実行出来る辺り、流石だなって思うよ)』
テレパシーの中で与一と輝羅は東王の強さを感じた。
いざという時は反則してでもプレーを途切れさせて守る方法に。
ファールした荒木にはイエローカードが主審から提示された。
「(上手いキャッチングを見せたかと思えば、あんな思いきった飛び出しのパンチングも上手い……何よりあの跳躍力……!)」
剛源は輝羅のプレーが頭から離れない。
身長の低さが驚異の跳躍力で補われ、剛源の高さを凌ぐ程。
あんなGKは今まで見た事が無かったので、彼の中では大きな衝撃だった。
「(さっきのDFのブロックもそうだ。急に目の前に現れてシュートコースに飛び込んできた……)」
CKよりも前、自分のシュートを与一にブロックされた時を思い返す。
良い感触でシュートが出来て決まるかと思えば、察知されたかのように止められてしまう。
「(王坂が完封される訳だ。この試合──1点決めた方がそのまま決勝点になるかもしれない)」
改めて簡単な試合ではない、手強い相手との戦いだと感じれば、1点勝負になるだろうと剛源は判断。
東京覇者が桜見を強者だと改めて認め、試合は続く。
影二「僕の姿見られてたんだ……!」
楽斗「何でちょっと嬉しそうなのヤミー、やっぱ東王強いわぁ」
与一「剛源って人が結構強めだねー。彼のシュート痛い〜」
輝羅「次回も続く東王との試合! 桜見に大きなチャンスが転がってくる……!?」




