全国大会決勝 桜見VS神上海9
『此処で後半終了! 中学サッカー全国大会決勝戦は0ー0と両チーム無得点のまま、試合はハーフタイムの後に前後半合わせて10分間の延長戦へ入ります!』
『両チーム共によく攻め合いましたよね。それでも互いの守備が奮闘したりと、決勝に相応しい大熱戦だと思います』
後半戦を戦い抜いた桜見、神上海の選手達がベンチに引き上げていき、皆が延長戦に備える。
「ふ〜、与一兄ちゃんが抜かれた時とかどうなるかと思ったけど──」
「おきたさんかっこいいー」
「おきたさんきれいー」
「って2人とも敵の方を好きになっちゃってる!?」
「ううん、与一おにいちゃんもすきだけどおきたさんもすきだから」
「どっちもすきなのー」
スタンドで観戦していた優人が息をつく隣で姫奈、姫香の2人は兄と戦っていた敵である、沖田のプレーが華麗で好きになったらしい
「まぁ、絶対に敵を応援しちゃ駄目って事は無いからね」
「そうそう、流石に彼のお嫁さんになりたいとかは聞き逃がせないとして♪」
絶対に桜見や兄を応援しろというルールにはしていないので、弥一も輝咲も娘達の応援は自由にさせている。
与一や輝羅は妹達を可愛がってるが、2人の応援が沖田に向いてると知ればショックを受けそうだ。
弥一は隠し事の通じないサイキッカーな息子達の未来を浮かべつつ、ハーフタイムを利用して優人と共に皆の飲み物を買いに行く。
☆
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ロッカールームの椅子に座ったまま、沖田は息を切らしていた。
疲労困憊で限界なのは誰の目から見ても明らかだろう。
「ハーフタイムと前半の5分、それまでに回復出来るか?」
水分補給をした後、源二が息切れを起こす沖田へ静かに問いかける。
休んで後半の5分をフルに戦えるのかと。
「……僕の体に聞いてみないと分かんないけど、やるよ……絶対回復して後半出るよ……!」
源二を見上げる沖田の目には絶対戻ってくる、そんな強い意志が宿った目をしていた。
何も仕事せず、何も出来ないままでは引き下がれない。
「なら、後半の5分まで休んどけ。そこまでは俺達が向こうの攻撃を守りきっておくからよ」
それ以降も得点させないけどな、と源二は強気な笑みを浮かべる。
自分が得点を許さなければ負けない。
今までもずっとそれでやってきて、これからも続けていくつもりだ。
「(にしても──延長戦なんてサッカーでもキックボクシングでも初めてだな)」
源二は延長戦を経験した事は無く、ずっと時間内に決着をつけて勝利を重ね続けてきた。
「(それだけ神明寺兄弟が、桜見が手強いって訳だ)」
此処まで来たのは理由は単純、桜見が想像を越える強さを持っていただけ。
なら、その強さを越えて相手に勝つ。
サッカーだろうがキックボクシングだろうが、源二は何時もそうしてきた。
「おっしゃ! 行くぜ延長戦!!」
源二の気合の掛け声から神上海は延長戦のフィールドへ向かう。
☆
「はぁ〜、生き返る〜♡」
与一は特製のはちみつレモンドリンクを再び飲み、疲れた体を癒していく。
「なぁ、与一。流石に交代して一旦休まないか? そこまで無理しなくても沖田のいない神上海の攻めなら俺達だけで行けると思うし」
先程まで相当疲労していた与一に、竜斗は交代を提案する。
今大会フル出場を続けて再交代システムがあるにも関わらず、与一は1度も使う事なく最後までフィールドに立ち続けていた。
この暑さと試合日程で体が壊れないか心配になる程だ。
「ううん、延長戦もフル出場で行くよ勿論」
「いやいや、無理したら駄目だって──」
「高校サッカーはこんなもんじゃないでしょ?」
楽斗の声を遮るように与一が言った言葉で、更に先を見据えている事を知る。
確かに与一の言うように高校では中学の60分よりも長い80分、場合によっては90分戦う試合もあって更なるスタミナが要求されるだろう。
「これでバテてたら高校、大学、プロには通じないって♪」
何時も通りの陽気な笑顔が、そこにはあった。
「彼、折れる気は無いみたいだからさ。何かあったら僕がカバーするよ」
輝羅は与一の出場を反対しない。
言っても出るというのは長い付き合いで分かっていた。
なら、何かあれば自分が支えようと心に決めている。
「与一兄さん──」
神奈が与一へ向かい、側まで来ると彼女も言葉をかける。
「──勝って」
「あはは、それ最高のエールだね神奈。本当に力出て来るよー♪」
愛する妹からの声援に与一は明るい笑顔で神奈の頭をポンッと撫でた。
妹からのエールを受けて負けるわけにはいかない、与一は輝羅と並んで決戦のフィールドへ向かう。
☆
中学サッカーの延長戦は10分で前後半5分ずつ行われる。
両チームの選手達が戻り、そこに輝羅と源二の2人が同じタイミングで入場口から出てきた。
「──PK戦になる前に決着つけた方が良いよ?」
「!」
その時、輝羅が忠告するかのように源二へ声を掛ける。
「まるでPKになったら俺達に勝ち目は無い、みたいな言い方だなそれ」
「事実を言ったつもりなんだけどねー」
源二は口元に笑みを見せながらも輝羅を見る目が鋭くなっていく。
「言っとくけどな──俺はPKだって全部止める自信は持ってるぜ?」
「そりゃキーパーは自信なきゃ始まらないって」
「生意気って言われるだろお前」
2人が言葉を交わした後、互いのゴールマウスへ向かう。
同じGK同士で輝羅と源二の間に火花が散っていた。
☆
『延長戦に入って桜見は攻撃のフルメンバーが戻り、桜見優勢で神上海は防戦一方だ!』
ハーフタイムで互いに休憩をしっかりとって条件は同じはずだが、前半でゲームを支配しているのは桜見。
「右が隙だらけだよー!」
与一が序盤の時と同じく積極的に攻撃参加してるおかげで、神上海を翻弄出来ていた。
霧林が右サイドから攻めに出ると武田とのデュエルに入り、これを制して突破する。
中央の楽斗へ折り返し、受けるかと思えばスルーで相手守備陣を惑わす。
流れた球を影二が取って右足のトラップから左足で正確なシュートを放つ。
しかし源二が反応すればボールを正面で受け止め、桜見の攻撃を断ち切ってみせた。
「5分! 此処、正念場だぞー!」
桜見が立ち上がりから攻め込むも、源二の牙城を崩す事が出来ない。
「流れこっちにあるよー! 強気にガンガン攻めまくれー!」
輝羅が後ろから声を掛け、その後押しが効いたのか源二のパントキックから競り合い、零れ球を与一が取ってみせた。
『神明寺与一が取った! 疲労が激しいにも関わらず鮮やかな中央突破だ!』
与一は追撃してくる斎藤のタックルを躱し、中央からドリブルで再び神上海ゴールを目指す。
続く土方もターンで躱そうとした時──。
「わぁっ!?」
与一の足が土方の足にかかり、転倒してしまう。
ピィ────
これには主審が素早く笛を吹いてファールの判定。
土方は与一が勝手に自分の足に当たって転んだと言うが、判定は覆らず近藤が抑えていた。
『桜見、ゴール正面の良い位置でFKのチャンスを得ました!』
『これは与一君の見せ場が延長戦で巡って来ましたね。問題は彼に蹴る体力が残ってるのかどうかですが』
「(あのキーパー相手には曲げて……いや、効きづらいかなぁ)」
セットされたボールの前に立つ与一は、イメージで源二からどうやってゴールしようか考え続ける。
『(此処、行くっきゃないでしょ与一!)』
「!」
聞こえてきたテレパシーによる声、振り返れば輝羅が向かって歩いてくる姿が見えた。
『おっとこれは!? 神明寺輝羅が上がって来た! 関東大会では石立戦で決勝ゴールを決めており、再びそれが起きるのか!?』
『輝羅君のキックも与一君に劣らない、もしくはそれ以上のを持ってますからこのFK大注目ですよ!』
スタンドからは驚きの声が多く、皆の視線が大胆に上がって来たGKへ向けられる。
「(マジかよ、此処でGK蹴って来るのか……!)」
「(けどチャンスだぞ。俺達で弾き返せばゴール行ける)」
壁に立つ神上海の選手達がヒソヒソと話し、逆にチャンスだと見ていた。
GKが上がるという事はゴールが無人の状態。
守りきって速いカウンターを仕掛ければ得点出来ると。
壁の選手達が自分達で守ろうと決めた時──。
「どけ! 壁はいらねぇ!」
「 え……」
「はぁぁ!?」
そこに源二が壁をどかせと指示が飛び、神上海の選手達を驚かせていた。
片方が上がってくれば片方は壁無し。
与一、源二の両守護神とも大胆な策に出る。
弥一「いやー、どっちも強気で若いって良いね〜♪」
輝咲「年寄りぶるのは早いだろう弥一君」
弥一「FKを蹴るGKはともかく、壁をどかし合うGKは珍しいからさー。今の中学生は平気でこういう大胆なのやれるんだなぁ〜」
姫奈「オレンジー」
姫香「アップルー」
優人「お父さん、お母さん、飲み物どうするのー?」
輝咲「皆がとってからお母さん達飲むから先に飲んでて」
弥一「可愛くて優しい子に育ってます僕の子供達♪次回は与一、輝羅と井上の対決! そして沖田が再び動き出す!?」




