全国大会決勝 桜見VS神上海7
「与一君、多分もう限界だよ。一度交代させた方が良いと思うけど……!」
遊子は与一が疲れてると見て、下げるべきかと考えていた。
しかし、神奈は首を小さく横に振って下げない選択肢を選ぶ。
「兄の代わりが務まるDFは居ません。まだ……もう少し様子を見ても良いかと」
「ううん……」
与一ぐらいのDFが桜見にいない事は遊子も分かっている。
なので、迂闊に交代させて守りが崩れ落ちたら取り返しがつかず、慎重になってしまう。
今はスコアレスのまま、此処は神奈の言う通りにしようと決めた。
1年女子マネージャーの言う事を聞く顧問は、全国を探しても桜見ぐらいかもしれない。
「(なんとか上手く一対一に持ち込んで先制点っと!)」
桜見の守備を翻弄し続ける沖田は止まらない。
此処も味方の出したパスへ瞬時な動き出しを見せると、ボールを左足でトラップ。
寄せて来た若葉をクルッと自らの体を盾にするターンで躱し、桜見ゴールへ向かって進む。
『止まらない沖田! 倉本の寄せを躱してゴール前チャンス!』
ガッ
そこへ与一が沖田の左側からショルダーチャージでぶつかり、互いの肩同士が激突。
「(まだ向かって来る気力が残ってるみたいだね!)」
再び自分を止めに来た与一に小さく笑みを浮かべると、沖田は切り返しての方向転換で躱しに行く。
それに合わせて与一も止まり、沖田を進ませない。
「(少しやり方を変えて来たかな……?)」
与一の動きに沖田は先程までのプレーと違う事に気づく。
なんとしてもボール奪取を狙ったり、防ぎに行こうとしてたのが先程までの与一だった。
しかし、今は無理に取りに行こうとはしていない。
自分の行く先に立ち塞がったり、ボールを狙いには行かず。
「……!」
何度も素早くフェイントを入れたりと、与一を惑わして躱そうとするが振り切る事は出来なかった。
これには沖田の笑みも消えていく。
『神明寺与一、天才仕事人の沖田を相手に粘りの守備で抜かせない!』
『良い食らいつきですね。鮮やかに奪うのも良いですが、こうやって泥臭く何度も抜かせまいと立ち塞がるのも、攻撃からすると嫌なんですよ』
「沖田ぁ!」
そこに後ろから土方の声がして、ボールを戻せと伝えるが沖田は与一とのデュエルを続行する。
「(楽には……させない……!)」
このプレーの前に与一は言われていた。
止められないなら止めない、と。
☆
「輝羅……何言ってるのさ? 止めなきゃゴールされるでしょ」
「あー、ちょっと言葉足りなかったかもねー」
与一が理解出来ない様子だったので、輝羅は少し考える仕草を見せた後に再び向き合う。
「ようは、シュートをさせても構わないって事。それを止めはせず僕が止める」
「だから結局キーパー任せで駄目だって──」
「その代わり、楽はさせるな」
与一の言葉を遮るように輝羅は伝える。
言われた言葉が与一には胸にズシリと伝わって、力強さが感じられた。
「楽なシュートと苦しいシュート、GKにとってどっちが防ぎやすいのか聞くまでもないよね?」
「……楽にシュートさせず、キーパーの取りやすい物にさせようって事?」
「そうそう、それをするのもDFの役目で守備戦術の1つ。あの仕事人を1人でなんとかしようと背負い過ぎだよ」
与一は1人で驚異の天才を封じようとしていた。
それが単独では勝てそうにないから、此処は双子で力を合わせて封じようと輝羅は伝えたかったのだろう。
「じゃあ、思いっきり苦し紛れにさせる……!」
「その意気だよ、あの仕事人には仕事を休んでもらおうか♪」
こうして双子で作戦を決めると、与一は守備のやり方を変えて沖田に挑む。
自分が奪うとかではなく突破やシュート等はさせても、決して楽にはさせないように。
☆
「(随分しつこくなってきたね!)」
キックフェイント等も入れて惑わそうとするが、与一は集中力を高めて沖田の動きをよく見ていく。
先程まで翻弄されていたのが嘘のようなマークだ。
沖田は左足でボールを蹴ろうとして、インサイドで右へ転がすキックフェイント。
これで右から与一を突破する。
「(楽にはさせない!)」
ガッ
「ぐっ!?」
ボールを狙わずに与一は沖田と肩同士をぶつけ、珍しくフィジカル勝負へと持ち込んでいた。
奪えはしないが沖田は体を強く当たられて、やり難そうな様子。
ゴール前での争いの最中、沖田の右足がボールを捉えてシュートを放つ。
バシッ
「(コース甘い!)」
『沖田のシュートもキーパー正面! 神明寺輝羅が止める!』
これは輝羅が正面で受け止めてキャッチに成功。
今のは沖田にしては甘いシュートとなり、止めるのは容易かった。
「ふぅっ……!」
暑さもあって滴り落ちる汗を沖田はグイッ左腕で拭うと、一息ついてから走り出す。
「さっきより守備が安定してきたか?」
「沖田に対して結構食らいつけているのが大きいかもね。楽な体勢のシュートを許してないから」
ベンチでは一度下がった室岡と出番を待つ海東が会話を交わしていた。
後半に入ってから控え選手の動きが活発となって、次々と交代で試合に出て来る。
まさに決勝は総力戦だ。
「(よし……!)」
兄達が奮闘して神上海の攻撃を止める姿を見た神奈は、小さく右拳を握り締めて密かにガッツポーズ。
クールで落ち着きのある彼女も、根っこは桜見の勝利。
兄達の勝つ所が見たいと願う。
『沖田にボールが渡って神明寺与一とまたしてもデュエルだ!』
『後半だけで何度も2人は激突してますね』
味方からのパスが通り、沖田の前に与一が立ち塞がると2人は正面から向き合う。
「っ!」
「くっ!」
目線や体の向きを使っての巧みなフェイント、それに惑わされる事なく与一は沖田に食らいつき続ける。
相手を楽にさせない、その1点の為に。
「(右と見せかけて左! ここで切り返す!)」
与一の集中力は益々高まっていき、沖田の鋭い切り返しにも対応していく。
「沖田!」
デュエルを続ける最中、耳に飛び込んだのは2トップを組む斎藤の声。
これを聞いた沖田はチラッと一瞬、斎藤の位置を見てから右足の踵で左へ短く出す。
パスが来た斎藤はトラップせずにダイレクトで前へ蹴って、沖田がボールに飛び込む。
ショートパスのワンツーで与一を引き剥がし、左足でシュートを狙う。
「っ!?」
その瞬間、与一が下から突き上げるように右からショルダーチャージ。
再び肩同士が激突し、沖田は急な衝撃を受けながらもシュートを放つ。
「(ナイス与一!)」
正確に捉えきれなかったせいか、これもコースが甘くて勢いもあまり出ていない。
輝羅にとっては甘いシュートで、難なく正面でキャッチする。
『これもキーパー正面! 沖田のシュートが後半に入って増え続けるもゴールを奪うまでには──』
「カウンター行けぇ!!」
輝羅は息をつかせる暇を与えず、右足のパントキックで前線の竜斗を狙う。
低空飛行の速く正確な球が向かい、竜斗が胸でトラップ。
「(若葉!)
後ろから近藤のマークを受けながらも、竜斗は左サイドから走る若葉の姿に気づいて左足でパスを出した。
「(突破させるか!)」
伊東は若葉の突破が来ると見て、ドリブルを警戒する。
「!?」
だが、伊東の予想を裏切り若葉は左足で大きく右へのサイドチェンジ。
これをトラップせずダイレクトで出してきたのだ。
『赤羽から倉本、大きくサイドチェンジ! 霧林抜け出して迫る!!』
ゴール前付近、その上空をボールが舞っていくと霧林が神上海のDFラインを抜け出していた。
ボールを取ればGKとの一対一に持ち込める。
「(させるかよぉ!!)」
「!?」
思い通りにはさせんと、飛び込んで来たのはGKの源二。
エリアの外へ飛び出せば手が使えない源二は跳躍して、ヘディングでタッチラインへボールを出す。
若葉のサイドチェンジから瞬時に反応すると、全速力で霧林まで迫ってチャンスを潰してみせたのだ。
『井上通さない! 神上海、カウンターのピンチを凌ぎました!』
『桜見攻められてばかりじゃありませんね。反撃のチャンスを隙あらば狙って来てますから神上海の守備も気が抜けませんよ!』
「んぐっ……ぷはっ、はぁ……はぁ……」
厳しい暑さの中、プレーを続けてきた沖田はタッチラインにボールが出たタイミングで、すぐに近くの水を取って水分補給。
後半から出場し、20分程のプレーで結構スタミナは削られていた。
その証拠に沖田の息は乱れている。
「(これは……思わぬ弱点を教えてくれたね)」
与一がしつこく何度も行った成果が出て、輝羅は沖田の様子にニヤッと笑う。
神奈「この暑さで後半も時間経ってるから、皆体力が相当削られてるね……」
輝羅「そうだねー、何時もは暑さが敵だけど今回ばかりは味方してくれたのかも」
神奈「味方?」
竜斗「変わらず俺達にとっては敵だろ暑さは」
楽斗「めっちゃ暑い!」
輝羅「(気づいてなさそうだなぁ〜)次回は与一と沖田、お互いに限界間近の状態で激突していくよー!」




