表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/25

第7話 怒りの恵

 星那と別れた後の夜。

 俺は恵に通話を入れたのが、反応が無い。

 珍しいな。

 夜はほとんど家にいて、大概通話に出るはずなのに。

 

 俺は通話の代わりにメッセージを送り、星那と水族館に行ったことを報告しておいた。

 そこからゲームのために外を歩き、モンスターを倒していく。

 ゲームを始めてから一時間程経過したころだろう、繁華街を彷徨っていると恵からようやく連絡がきた。


「もしもし」

『ねえ、水族館に行ったってどういうこと? 誰と行ったの?』


 恵の声には怒りがふんだんに含まれている。

 嫌な予感はしていたが、どうやら的中したようだ。


「ちょっとした顔見知りなんだけどさ。色々あって水族館に行くことになったんだよ。別にやましいことはしてな――」

『やましいことをしてないって言っても、異性と二人で水族館とか浮気だよね!! 私に対しての裏切りって理解してる?』


 恵は感情のままに怒声を吐き出す。

 浮気って、そんなつもりは無かったんだけどな。

 でも水族館に行ったのは俺が悪い。

 浮気判定なんてきっと人それぞれで、恵からすれば異性と出かけるだけで浮気なのだろう。

 俺の認識では出かけるぐらいはどうでもいいと考えていたのだが。


「配慮が足りなかったのは謝る。だからそんなに怒らないでくれ」

『怒らせるようなことをしたのは裕次郎くんだよね? 全然反省してないじゃない!』


 キンキンと鳴り響く声に、俺は携帯を耳から離す。


「とりあえず電話じゃあれだから、今からでも会えないか? しっかりと謝罪したい」

『…………』


 何故か沈黙してしまう恵。

 なんで黙るんだ、ここで。


『い、今はちょっと無理』

「あー、もう遅いもんな」

『そう、遅い。こんな時間に、常識考えて! そういうところ治した方がいいと思う』

「分かったよ。肝に銘じておく」

『今回のことまだ終わってないから。また明日に会って話しよう』


 そう言って恵は通話を終了させる。

 まだグチグチ言われるのかよ……面倒くないな。


「ああ、あいつ!」

「え?」

 

 突然聞こえてくる叫び声。

 声の方を振り向くと――そこには今村がいた。


「ああ、今村くん」

「てめえ……」


 怒りと恐怖を混在させたような表情。 

 今村は青い顔でこちらを睨みつけていた。

 ムカつくけど手を出すわけにはいかない、そんなところか。


 しかし面倒な時にまた面倒なやつが現れたな。

 というかこんな偶然あるのかよ。

 それに今村は8人ほどのガラの悪い連中とつるんでいたらしく、全員の視線が俺に集中する。


「あれ誰だ?」

「いや、ちょっと……」


 モゴモゴしている今村。

 俺の脅しが通用しているようだ。

 一緒にいる連中はおそらく竜胆学園の生徒だろう。

 まさかこんな人が多いところで問題なんて起こさないよな。

 なんて考えるが、そんなこと気にしないだろうなと嘆息する。


「どうしたんだよ今村。あいつと何かあったのか? 俺が金でも巻き上げてやろうか」

「あいつはマズいから止めてくれ、頼むよ」


 絡まれるのは勘弁だぞ、頼むからそのまま帰ってくれ。

 俺はそう願いつつも、携帯を操作することに。


「なあ、携帯で何してるの?」

「え、ちょっとゲームを」

「知ってる顔と会ってゲームなんかするか、普通」


 俺の普通ではするんだよな。

 顔見知りと言っても、挨拶を交わす仲でもないし。

 

 声をかけてきた男は、俺の隣に立ち肩を組んでくる。

 友達と肩を組んだことがないので、少し新鮮な気分だ。


「なあ、今村とどういう関係?」

「ただの顔見知りだって」

「でも今村のやつ、なんか困ってる様子だからさ」

「仲が良いわけじゃないし、いい思い出もないからな。あ、君たちって竜胆の生徒?」

「だったらなんだ? 悪いか」

「だったら怖いなーって思って」


 携帯を操作しながらそう言う俺に対して、男たちがゲラゲラと笑う。

 今村は彼らに釣られ、引きつった笑み浮かべていた。


「今からカラオケ行こうと思ってるんだけどさ、一緒に行かね?」

「いいね。友達とカラオケって行ったことないから楽しみだ」

「アホか。本気にしてんじゃねえよ。ちょっとついて来い」

「どこに?」

「いいから付いて来い!」


 俺の耳元で怒鳴る男。

 交番は……ここからじゃ遠い。

 逃げることもできるけど、恵に怒鳴られた後だからそんな気分じゃないんだよな。

 俺は溜息を吐き、携帯の操作を続けた。


「おい、携帯触ってんじゃねえよ」

「いや、だってモンスターが出てるからさ」

「危機感ねえのか?」

「それはひしひしと感じてる」


 携帯を取り上げられそうになったので、俺は仕方なくズボンにしまうことに。

 それから肩を組まれたまま、俺は男たちに連れ去られそうになる。

 今村は立場が逆転したと考えているのか、俺の顔を見てニヤニヤと笑っていた。


「おい、ちょっと待て。島崎さんから連絡が入ったぞ」

「島崎さんから……? 何かやったのか、お前?」

「いや、何もやってないはずなんだけど……」


 男たちの顔色が変わる。

 『島崎』という名前を聞いて全員が狼狽えていた。

 よっぽど怖い存在なんだろうな、とうかがえる。

 恐怖の人物から連絡が来たらしく、全員が何やら話し合いを始めた。

 

 そして話がまとまったのか、踵を返して顔だけこちらに向けてくる。


「運が良かったな、先輩から呼び出しがかかった」

「じゃあな」

「え、ちょっと……」


 男たちが一斉に走り出す。

 今村だけは少し戸惑っている様子だったので、俺は奴の手を掴んで引き止める。


「な、なんだよ!」

「昨日のこと、まだ理解してなかったみたいだからさ。もう少し話し合いをしたいと思ってだね」

「あっと……その」


 俺に対して怯える今村。

 仲間たちは走って行ってしまったので、彼が俺に捕まったのに気づいていない。

 こいつは仲間がいないと何もできないタイプなんだろう。

 キョロキョロ周囲を見渡すだけで、何もしてこない。


「じゃあ交番にでも行こうか」

「待ってくれ! 悪かった、今度からは皆にも止めるように言うから!」

「本当に? 嘘だったら今度こそ退学に追い込んじゃうよ」

「分かってる。次からはちゃんとするから」


 退学はしたくないらしく、必死な今村。

 だがもう少しだけこいつに対して脅しをかけておこうか。

 またこんなことがあったらたまったもんじゃない。

 俺は悪い顔を浮かべ、今村に話をし始めた。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇


「本当に反省してるの?」

「反省してる。反省してなかったら頭なんて下げない」


 日曜日の午後。

 ファーストフード店で俺は恵と会っていた。

 彼女は私服姿で、腕を組んで怒り心頭。

 一晩経っても怒っていられるなんて、ある意味で凄いな。

 大概の怒りは一日経ったら納まるんはずなんだが。


「それでどこの誰なの?」

「だから顔見知りなんだって。一緒のゲームやってて、たまたま知り合ったんだ」

「裕次郎くんがいつもやってるゲーム? あんなのやってるの、裕次郎くん以外にいるの?」

「それは偏見だ。アプリの売上だって、年間でベスト10に入るぐらいなんだぞ」

「そんなに売れてるんだ、あのゲーム」


 恵は俺がやっているゲームに興味を示さない。

 そんなことはどうでもいいが、人気が無いと思い込まれているの心外だ。


「まぁそういう知り合いだというのは分かった。でもいい? 次浮気したら絶対に別れるから」

「分かったよ。分かりました」

「浮気とか、最低の行為ってことは理解してよね」


 三十分ほど怒鳴り散らし、ようやく気が済んだのか恵はジュースを飲んでため息をつく。


「じゃあお詫びに、映画奢ってくれたら許してあげる」

「映画ね……何かやってた?」

「恋愛もののやつ。学校で友達が面白いって言ってたから、観たくなっちゃった」

「なら行こうか。時間の確認だけしとかないとな」


 機嫌が良くなった恵と、映画館に向かって歩き出す。

 こんなことになるなら、星那との付き合いも考えないとな。

 とりあえずは二人きりでデートっぽいことは止めておこう。

 また浮気なんて騒がれたら大変だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
何故浮気セックスしておいて彼氏に浮気だと怒れるのかな?主人公も動画見せて別れれば良くないかなぁ。映画とか付き合う必要あるように思えないけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ