最終話+おまけ 本気の
「こ、、これ、何?」
星那が唖然としている。
時刻は午後に入ったばかりで、天気は言うことがないぐらいに良い。
彼女は俺のマンションの玄関まで来ていたのだが……
入り口が派手にデコレーションされていた。
まるでカジノの入り口ように派手な造り。
ライトは何色も付いているようだが、昼なので分かりにくい。
大きな電光掲示板には『SARURI』と表示されている。
掲示板の下には手書きで『いらっしゃいせいな』と書かれていた。
「……多分、兄貴の仕業だ」
「お、お兄さん、噂通りの人なんだ。それにあれ、文字間違えてるんじゃない? 『さるり』になってるんだけど。さゆりだよね」
「名前も平仮名で書いてるしな。ごめん、これが俺の兄貴なんだよ」
マンションの入り口には住人が集まり始めており、入り口を見て大騒ぎ。
よそから来て、写真を撮っている人も多くいた。
「とにかく中に入ろう。小百合が待ってるから」
「う、うん」
俺は辟易しながら、コソコソ逃げるようにして玄関ロビーを抜ける。
やったのは兄貴だとバレているから、後で管理人が家に来るだろうな。
「そういえば、根鳥から別れようって連絡があった」
「そうなんだ」
「裕次郎が何かしたんでしょ?」
「そうかもね」
「ねえ、何をしたか教えて」
根鳥に持ちかけた取引。
それは星那と別れること。
根鳥は渋っていたが、だが約束通り、別れを切り出したようだ。
メッセージが来たらしいが、病院のベッドの上で送ったのだろう。
大怪我を負っているのに送るとは、それだけ兄貴と博くんが怖かったんだろうな。
「知り合いに協力してもらったんだ」
「ふーん。根鳥と東さんが付き合ってるの調べたり、凄い知り合いが多いんだ」
「ああ。頼りになる人たちなんだ」
部屋の前に到着すると、星那は深呼吸する。
「2回目だけど、緊張する」
「前は小百合もいなかったからな」
「うん。友達の家は初めてだし、楽しみ」
「俺と来たことあるでしょ」
「裕次郎は友達じゃないし? ちょっと違うの」
同じ家なのに違うって……そんなものなのだろうか。
俺は肩を竦め、家の扉を開いた。
「いらっしゃい」
「小百合ちゃん。こんにちは」
玄関先では小百合が待ち構えていた。
星那が来るのを楽しみにしてたんだな。
小百合の友達が家に来るのも、そういえば初めてか。
「えーっと……お兄さんは?」
「敏兄には出て行ってもらった。朝から大騒ぎしてたし、うるさい」
「あれ、マンションの入り口改造してたんだぜ」
「恥ずかしい……アホな兄ですいません」
兄貴は小百合に追い出されたようだ。
妹が友達を連れてくると言うものだから、大はしゃぎしていたのは安易に想像がつく。
だがあれはダメだ。
後で怒られろ。
リビングには昼食が用意されており、俺の隣に小百合が座る。
俺の正面の席に星那は座ろうとするが、やはり除菌スプレーを散布した。
「お箸、星那ちゃん用の買っておいた」
「え、ありがとう」
「それなら使えそうか?」
「うん、嬉しい」
「これからもいっぱい来てもらうつもりだから、裕兄と一緒に買って来た」
まだ封されたままのお箸。
星那はそれを愛おしそうに見下ろしていた。
「我が家は鶏肉が多いの。皆、空手やってるから」
「今日は親子丼。昨日は唐揚げだったよ」
「運動してたら、鶏肉多い方が良いの?」
「良いって言われてるな。まぁ家の事情は置いておいて、ご飯を食べよう。もう腹がペコペコだ」
手を合わせ、食事を開始する。
柔らかい鶏肉を包む優しい卵。
出汁が利いていて旨い。
白飯とのバランスも良く、満足のいく一品だ。
星那も美味しいのか、目を細めて食べている。
備え付けの味噌汁も味が良く、最高の昼食であった。
「裕次郎」
「ん?」
「私、バイオリン続けてるんだ。前は好きかどうか分からなかったけど、好きなこと分かってきたから。最初は親に命じられるままやってたけど、今は結構楽しい」
「それは良いことだ。星那が好きなことなら、全力で応援する」
「私も応援する。と言うか星那ちゃんのバイオリン聞きたい」
「じゃあ、今度弾くから聞いてくれる?」
俺と小百合は、星那に向かって親指を立てる。
星那も笑顔で親指を立て返していた。
それから俺たちが子供の頃のアルバムを引っ張り出してきて、星那と妹が話に花を咲かせる。
俺は横で二人の様子を眺めながら、幸せな時間を過ごした。
◇◇◇◇◇◇◇
夕方になり、小百合は買い物に出かけてしまった。
本当は星那と行きたかったらしいが、晩御飯を妹が作るらしく、内容を内緒にしたかったようだ。
俺は星那と自室で二人きりになり、彼女はソワソワした様子で部屋を見渡していた。
「この前はちゃんと見る余裕なかったけど……ここで裕次郎が生活してるんだね」
「何も無いだろ」
「うん。でも裕次郎で充満してる。何も無いけど、全部ある」
星那は本棚にある漫画に触れ、表紙を確認する。
しかし内容は見ることなく、また元に戻してこちらに振り返った。
「私の幸せ」
「うん」
「前、一緒に散歩したでしょ。あの時分かったの。特別なことをしなくても、裕次郎がいてくれるだけで幸せになれる。私の幸せは裕次郎といること。裕次郎がいるだけで、全部特別になるんだ」
「それは俺も同じ気持ちだ。星那がいるだけで、それだけでいいって思える。俺の特別は、星那なんだ」
星那と散歩していただけで、天国にいるような幸せを感じていた。
それは彼女がいるから。
ただそれだけのこと。
でもそれだけで全てが特別になり、世界が輝く。
ファーストフード店も、海も、普通の通路も、星那がいるだけで楽しくて、至福の時間になる。
優しそうに微笑む星那。
俺は突然緊張してしまい、何度も深呼吸する。
彼女は俺の緊張に気づいたのか、少し頬を染めてこちらに向き直った。
今しかない。
告白をするなら、今だ。
息を飲み、言葉を口にする。
「星那」
「はい」
「……好きです。付き合ってください」
「……ヤダ」
「え?」
まさかの玉砕!?
俺は放心し、星那の顔を見る。
「責任、取ってくれるって言ったよね?」
「言った」
「じゃあ、そんなのじゃヤダ。チ、チューもしたんだから、もっと違うのがいい」
星那にとってキスは俺が思っている以上に特別なものだったようで、ただの告白では納得いかないと。
恋人関係ではない、もっと特別な関係を望んでいるようだ。
まだ振られていなかったことに、とりあえずは安堵する。
しかし告白以上のことか……
いや、難しく考えなくていい。
最大級の告白、それでいいんだ。
俺の想いを全てぶつけろ。
「……一生大事にします。俺の人生をかけて幸せにする。星那と死ぬまで一緒にいたい」
「それって、プロポーズ?」
「え、いや……」
恥ずかしいそうに半目で俺を見る星那。
俺の気持ちを確認しているのだろうか。
星那は予想以上に重いようだが、俺には覚悟がある。
重たいぐらいどうということはない。
浮気なんてしない。
『本気のつもり』じゃなくて『本気」で星那のことが好き。
だからこんなんじゃまだダメだ。
俺は彼女の肩に手を置き、真剣な顔で見つめる。
心臓がバクバクだ。
頭は沸騰したかのように熱い。
手は震えるし、喉が渇く。
でも中途半端な言葉ではなく、真摯に想いを伝えなければ。
「プロポーズ。受けてくれますか?」
「…………」
頷く星那。
そして嬉しそうにはにかみ、俺を見つめ返してくる。
「仕方ないなぁ。一生一緒にいてあげる」
星那は耳を真っ赤にし、顔も紅潮させる。
まさかこんな早くにプロポーズまでするとは思いもしなかった。
でもそれでいい。
早いか遅いか程度の違いだ。
責任を取ると言ってしまったし、その言葉に嘘は無い。
初恋は、お互い苦い思い出になってしまった。
だが俺たちの最後の恋は、お互いを幸せにする。
俺はそう確信し、胸に幸福を抱く。
ただ愛おしい彼女を見つめる。
そしてどちらからともなく、俺たちは唇を重ね合わす。
この先の人生を共にすることを誓うように、願いと心からの想いを込めながら。
きっと俺たちはずっと一緒なのだろう。
何故なら互いを真剣に、真摯に、本気で想っているのだから。
俺たちの絆は不滅だ。
どんな誘惑が訪れようと、俺たちの強い繋がりは崩れることはない。
おわり
---------------------------------
おまけ・兄弟喧嘩
「裕次郎ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「何?」
夜の空手道場にて。
道着姿の裕次郎に迫る敏郎。
敏郎も道着を着ており、キレた様子で裕次郎に言う。
「お前、小百合ちゃんとしゃぶしゃぶ行ったって本当か?」
「本当だけど」
「何で俺を誘わないんだよ!」
「何で誘わないといけないんだよ」
「俺だって小百合ちゃんとしゃぶしゃぶしたかったの! 羨ましいの!」
呆れてため息をつく裕次郎。
そんな彼の態度、そして小百合としゃぶしゃぶに行ったことに怒りを覚え、敏郎は裕次郎に向かって拳を突き立てる。
「おい、何だよ!」
「何だよはこっちの台詞だ! 小百合ちゃんとのしゃぶしゃぶは美味かったんだろうな!?」
「ああ、美味かったよ。豚肉だけだったけど美味かったよ」
「俺なら牛肉食わしてやったわ! なんなら特上栄光ランクの肉食わしたわ!」
「栄光じゃなくてA5だろ!」
怒りと悲しみを含んだ瞳で拳を振り続ける敏郎。
もう何度目かも分からない、黙って小百合と食事に行った事実。
それに対して怒りを爆発させていた。
「お前は彼女がいるんだから、そっちと行けばいいだろ!」
「お前がアホだから、小百合が相手してくれないんだろ――アホ!」
鈎突き――フックのようなモーションで敏郎の横っ腹に拳を叩きこむ裕次郎。
その一撃は通常なら骨が粉砕するほどの威力。
しかし敏郎は異常なまでに打たれ強く、鈎突きを食らっても動きを止めることはない。
「やったなてめえ!」
「お前がやり始めたんだろ!」
「先に小百合ちゃんと飯に行ったのはてめえだろ!」
ブンブン拳を振り回す敏郎であったが、裕次郎はその全てをかわす。
ギリギリのところで見切り、そしてカウンターを放つ。
「ぐっ……避けてんじゃねえ!」
「じゃあ殴りかかってくるなよ!」
毎度毎度バカを言う兄に対し、裕次郎の堪忍袋の緒は切れていた。
二人とも頭に血が上り、喧嘩に発展する。
「おいおい……円城兄弟が喧嘩始めたぞ!」
「誰か止めろよ!」
「誰が止めれるんだよ、あの化け物兄弟を」
「……師範か小百合ちゃん呼んでこい!」
大騒ぎする道場生。
二人の喧嘩に巻き込まれないように離れ、数人は助けを呼びに道場を飛び出して行く。
裕次郎と敏郎の戦いは、裕次郎が有利に進めていた。
敏郎の攻撃を全て避け、的確に急所に拳を叩きこんでいく。
「いてぇな……このっ!」
裕次郎は殺人的な正拳突きを避け、相手の顎に肘打ちを入れる。
カウンターで決まった肘は、流石に敏郎でもよろけてしまう。
「っ……」
「これで――倒れてろ!」
回転しながら踵を入れる胴回し回転蹴り。
よろける敏郎に対して、裕次郎はそれをこめかみに炸裂させた。
「お……おおっ!?」
クラクラする敏郎。
裕次郎はすぐさま立ち上がり、拳の連撃を繰り出した。
人中、顎、喉、みぞおち、月影、容赦なく人体急所に突き刺し、敏郎の反撃もあるが冷静に対処して、次にローキックを決める。
それからふくらはぎにカーフキックを入れ、機動力を殺しにかかった。
幼少の頃から鍛え上げてきた技の数々。
さらに裕次郎は目が良く、当て感もある。
そして相手の動きを予測する経験と頭脳、それら全てを駆使し、化け物であるはずの敏郎と渡り合うことができていた。
論理的に試合を組み立てるようにして、敏郎を追い詰めていく。
敏郎は着実にダメージを負い、今にも倒れそうな様子を見せていた。
しかし。
「ぐっ――」
敏郎は野性的な勘で、裕次郎の鈎突きにカウンターを合わせ、顔面に拳を決めた。
裕次郎の体は8メートルほど吹っ飛び、道場の壁に叩きつけられる。
「くそっ……相変わらずメチャクチャだな」
「ははは、まだまだ甘いな。俺の方が小百合ちゃんに相応しいと証明してやろう!」
裕次郎がこれまで組み立てて来たものを、たった一撃でひっくり返してしまう敏郎。
彼には贈り物と呼ばれるほどの身体能力があり、その圧倒的な腕力の前には、裕次郎の技術が霞んでしまう。
その上化け物じみた打たれ強さに、野性の勘を持ち合わせた、まさに最強に相応しい超ハイスペック。
しかし裕次郎も負けじと立ち上がる。
視界がぼやけ、平衡感覚がおかしいがまだ戦う気力は失われていない。
裕次郎も長年培ってきた勘で、直撃は免れていた。
攻撃が当たる瞬間に顔を逸らし、ダメージを受け流していたのだ。
だがそれでもバカみたいな威力の拳はどうしようもなく、まだまともに動けない。
次の攻撃をどうするか……裕次郎は息を整え、敏郎の動きを観測する。
周囲は息を飲み、敏郎はゆらゆらしながら裕次郎に近づいて行く。
決着の時は近い。
その場にいる誰もがそう考えていた。
「裕兄」
「小百合……」
決着の寸前、道場にやって来る小百合。
彼女は裕次郎を心配し、彼の元に駆け付ける。
「小百合ちゃん!? 俺の方が怪我酷いよ! 見て見て、お兄ちゃんの怪我も見てちょうだい!」
見た目からすれば、敏郎の方が酷い怪我をしているように見える。
しかし小百合は、敏郎の心配をすることは欠片も無かった。
「裕兄に怪我させる敏兄、キライ」
「……ガーン」
ガーンと言って、その場で倒れる敏郎。
そのまま起きてくることはなく、無効試合となって二人の喧嘩は終わった。
敏郎の戦績。
対裕次郎―8勝2敗。
対小百合―勝負にもならず、無条件で全戦全敗!
おしまい
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
楽しんでいただけましたならば幸いです。
おかげさまで小説家になろう様とカクヨム様の両サイトで日間1位になることができました。
全ては読んでくれている読者様のおかげです。
本当にありがとうございます。
本日より新作
一度目の人生は魔王、二度目は勇者、三度目は平凡に生きたいおっさん、うっかり最強冒険者を倒し伝説へ~実力を隠して美女たちと冒険者生活をしていたが、次々と周囲にバレていく~
を投稿しました。
よろしければこちらよろしくもお願いします!




