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第33話 これまでのこと①

 これまで俺がどんなことをしていたのか、話をしておきたいと思う。

 時は恵の浮気が判明した翌日まで遡る。


 晴れた空の下、俺は竜胆学園の校門前まで来ていた。

 授業を抜けて、到着したのは放課後ぐらいの時間。

 校舎の方から、ゾロゾロとガラの悪い生徒たちが流れてきていた。


「君ぃ、誰か探してんの?」

「あ、うん。知り合いに呼ばれてさ」

「知り合い? 俺もそいつのこと知ってるから、案内してやるよ」

「本当? 悪いね」


 俺に絡んできた竜胆の生徒。

 人数は12名ほど。

 これは俺に暴力を振るうつもりだろうな。

 俺は嘆息し、呼び出された相手のことを言おうとするが、向こうが先に口を開いた。


「で、お前は誰? ここが竜胆って分かってて来たのか?」

「お前みたいな雑魚が来ていい場所じゃねえんだよ」

「こいつの知り合いとか、どこの誰だ。陰キャと付き合いだから、同じくショボいやつなんだろうな」

「えっと、三年の島崎くんだけど」


 俺がそう言うと、俺に絡んで来たやつらが一斉に道を開ける。


「失礼しました!」

「まさか島崎さんの知り合いとはつゆ知らず……どうかこのことは内密にお願いします!」


 どれだけ博くんのことを怖がってるんだよ。

 俺はポカンとしつつ、だが無駄に人を傷つけたいわけではないので、相手の要望を飲み込むことに。


「分かった。その代わりじゃないけど、島崎くんのところまで案内して」

「かしこまりました!」


 校内を案内されるのだが……廊下を歩く俺を全員が睨みつけてくる。

 誰かは知らないが、とりあえずは喧嘩でも吹っ掛けてやろう、そんな思考でもしているのだろうか。

 この辺の人たちの考えは分からないけど。


「ここです」


 案内されたとある教室。

 俺を案内してくれた生徒は、一目散に退散する。

 教室の扉を開き、中に入ると博くんがいた。


「よお、来たか」


 博くんの後ろでは、痛々しい姿になって直立不動している生徒たちが数人。

 俺は彼らを見ながら、博くんに聞く。


「この人らは?」

「ああ。裕次郎が言ってたやつの、クソダセーことに付き合ってたやつらだ」


 どうやら根鳥の友人たちらしく、ボコボコの顔で怯えている様子。

 博くんは人としてカッコ悪いことするやつが嫌いだからなぁ。


「それより浮気調査の件だが、お前の予想通りこいつが知ってたぜ。一瞬で吐いてくれたぞ」

「仕事が早くて助かるよ」


 そう。

 俺は恵の浮気のことを、博くんに調べてもらっていた。

 そして博くんが指差しているのは今村。

 彼は真っ青な顔で、博くんの顔色を窺っている。


「島崎さんに聞かれたことなら話すに決まってるじゃないですか。俺が知ってることなんでも話しますし、何でもやりますよ」

「ってことだ。どうする、裕次郎」


 今村は俺に向けて、媚を売るような引きつった笑みを浮かべる。

 何故なら彼は、俺と博くんとの関係を知っているからだ。


 あれは今村と二回目に会った時のこと。

 竜胆の生徒たちに囲まれ、俺は博くんに連絡を入れていた。


 『竜胆の連中に絡まれてるから助けてくんない? 多分二年』


 博くんから『少し待ってろ』と短い返事が来て、それからすぐに竜胆のやつらの元に博くんからのメッセージが入る。


「おい、ちょっと待て。島崎さんから連絡が入ったぞ」

「島崎さんから……? 何かやったのか、お前?」

「いや、何もやってないはずなんだけど……」


 博くんが連絡がつく二年に対して、集合するように一斉送信したようだ。

 もちろん、博くんに逆らうことができないから、絡んできていた奴らはその場から立ち去って行く。


「運が良かったな、先輩から呼び出しがかかった」

「じゃあな」

「え、ちょっと……」


 逃げようとする今村の腕を掴み、少々脅しをかけておこうと考える。


「島崎くん、俺の知り合いなんだよ。竜胆の皆に連絡が入ったの、俺が頼んだからからなんだ」


 博くんとのやりとりを見せてやると、今村の表情は真っ青になる。


「し、島崎さんの知り合いなら先に言っておいてよー」

「あはは」


 博くんの名前を使ったりするのはあまりしたくなかったのだが、面倒が続くのはごめんだ。


「ということで、次回からは絡んで来ないようにしてくれ。で、俺のことは誰にも話さないように。よろしく頼むよ」

「はい……」


 今村にはこうやって釘を刺しておいたので、俺と博くんとの関係は理解している。

 だから俺がここに現れても、彼は驚いていないというわけだ。


「これから君には情報収集を頼む」

「情報収集?」

「ああ。どんな些細なことでもいい。一番いいのは証拠を残すこと。喧嘩の場面でもなんでもいい、とにかく撮影をしておいてくれ。根鳥を追い詰める手札ができるだけほしい」

「分かったな?」

「はい、分かりました!」


 こうして今村は俺の指示に従い、証拠集めをスタートさせることとなる。

 とりあえず彼には洗いざらい知っていることを聞かせてもらったが、動画の話もこの時に聞いた。


「マジのクソだろ?」

「だね。だから後ろにいる人たちもボコボコにしたってわけだ」


 先に話を聞いていた博くんは、背後にいる男たちを見下すように視線を向ける。

 根鳥が女を落とす手伝いをしていた連中のようだ。

 彼らは博くんの視線に震え、俯いてしまい、縮こまっていた。


「裕次郎、俺も今回のこと混ぜろよ。カッコ悪いやつは許せねえんだわ」

「分かった。博くんと根鳥の接点、どこかで作らないとな」


 それから少しして、今村が根鳥たちがイジメをしている動画の撮影に成功する。

 他にも傷害、脅迫、窃盗、飲酒など、数多くの証拠が集まり、俺はそれを材料に山本たちと交渉することにした。


 学校の近くの公園で、山本たちに撮影した動画を見せる。

 ドラマなんかで証拠を突きつけられた犯人のように、相手の顔は青くなっていた。


「こ、これをどうするつもりだ?」

「然るべき所に報告しようと思ってる。これ以外にも犯罪を犯してる証拠動画もあるから」

「おい、今村! どういうことだ!?」


 一緒に来ていた今村に怒りをぶつける山本たち。

 今村は申し訳なさそうに、しかし開き直った様子で山本たちに言う。


「ごめん。今回の件、島崎さんが絡んでるんだ。俺には逆らえないよ」

「し、島崎……悪魔の!?」


 山本たちの手が震えている。

 こんなところでも博くんの名前は役に立つな。


「お願いだ、なんとか許してくれないか。頼むよ!」

「俺、捕まりたくねえよ!」

「うーん……俺の頼みを聞いてくれたら、俺は(・・)報告はしないけど、どう?」

「皆も彼の言うこと聞いた方が良いと思うよ。島崎さんがバックにいるんだからさ」

「……分かった。なんでもする」


 山本たちはあっさりと俺の味方をすることを選んだ。

 俺は未だにだ怯える山本らの顔を見ながら、彼らにミッションを与えることに。


「根鳥のことは逐一報告してくれ。後、恵のことは常に伺うように。他にも根鳥に関することは、全部話してもらう」


 これで根鳥が何をやっているのか、恵とはどうなっているのかが分かるようになった。

 だがそれから一ヶ月が経過しても動きは無い。

 ただ庄司を抜いてこの時点で、根鳥の周りには仲間はいなくなっていた。

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