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第32話 根鳥への制裁

「「「ご苦労様です、円城さん!!」」」


 兄貴の登場に、竜胆の生徒たちが声をそろえて挨拶をする。

 しかし兄貴はそれを無視し、こちらを睨みようにして見ていた。


「裕次郎ぉ! お前が言ってたのはどいつだ!?」

「どいつだろうな。ちょっと探してみなよ」

「出て来い! 世界で一番可愛い小百合ちゃんに文句言ったやつ、出て来いやぁ!!」


 まるで獲物を探す獣のように、漲った視線で周囲を見渡す兄貴。

 視線が合った竜胆の生徒は、全力で首を横に振って自分ではないとアピールする。


「お前さ、俺の妹のこと、ブス呼ばわりしてたよな?」

「え、あ……あれは口癖みたいなもんで……」

「そんなの関係無い。ブスって言ったことが問題なんだよ。とりあえず、妹に文句を言ったってだけにしておいてやってるけど……殴りかかったことと、ブスなんて言ったこと知ったら、間違いなく殺されるだろうな」

「…………」


完全に腰を抜かしている根鳥は、歯を鳴らしながら兄貴に背を向ける。


「こ、殺すなんて大袈裟だろ」

「殺すって言うのは喧嘩や言い合いで使う言葉じゃなくて、正真正銘、殺人の話だけど、兄貴なら普通にやると思う」

「あいつには常識なんて通用しないぞ。小百合にブスなんて言ったのを知られたら、本気でお前を殺すだろうな。刑務所とか少年院とか、敏郎にとっては問題じゃないんだよ」

「まだ知らないなら、黙っててくれ! 頼む……し、死にたくねえよ!」


 とうとう泣き出して懇願してくる根鳥。

 兄貴は犯人を捜すため、自転車を押しながら、爬虫類のような目で周りを見ている。


「いいよ。俺だって家族が殺人犯になるのは喜ばしくないから。でも条件がある」

「じ、条件?」


 俺は根鳥の前で膝をつき、とある条件を提示した。

 根鳥は涙を流しながら、だがそれを受け入れられないのか首を縦に振らない。


「それは……無理だ……」

「あっそ。『ブス』って言ったの、兄貴に報告するから。なあ、兄――」

「――待ってくれ! 分かった、分かったから……条件を飲む」


 俺が本気で兄貴に言うと思ったのだろう、根鳥は嗚咽を漏らしながら条件を飲むことにしたようだ。

 そして根鳥は俺の足にしがみついて、情けないほど泣きながら哀願してくる。


「助けてくれ……条件を飲んだんだから、助けてくれよぉ」

「だから、それはブスって言った件を黙っておく交換条件だろ? 妹のことをブスって言ったの、俺だってムカついてるんだ。後のことは兄貴と交渉してくれ。少しぐらいなら話を聞いてくれるかもだぞ」

「ううう……ううううっ」


 痙攣を起こしたように、根鳥の全身が震えている。

 抜けた腰のまま、俺の足を離そうとしない。


「頼む頼む頼む頼む頼む……一生のお願いだ。金ならいくらでも払う。これまで迷惑をかけてきた奴にも謝罪する。犯してきた罪も全部償う。だから助けてくれよぉ」


 俺は足を抜き、根鳥の体を引き放す。


「これまでやってきたこと、自分の行いの結果だ。皆の痛みだと思って、兄貴の制裁を受けるんだな」


 俺の説得は不可能だと悟ったのだろう、根鳥は次に竜胆の友人に向かって叫ぶ。


「頼む、助けてくれ! 俺たち友達だろ!?」

「悪いけどお前のために命かけるほど、仲がいいわけじゃない。円城さんと島崎さんには逆らえないんだ」

「お願いだ、金なら払うから、何でもするから! 何とかして俺を助けてくれよ!」


 根鳥の言葉はむなしく、闇の中に飲み込まれていく。

 友人たちはもう根鳥に関わりたくないらしく、目を合わせようともしない。


「覚悟決めろ。これ以上時間をかけたら敏郎が暴れ出す。周りに被害が出る前に行ってこい」

「お願いだぁ……助けて……誰か助けて」

「兄貴、こいつだよ、こいつ」

「どいつだ!?」


 兄貴の声に根鳥の体が飛び上がるほどに反応を示す。

 俺が指差す根鳥に向かって、兄貴は歩き出した。


 根鳥は股間を盛大に濡らし、涙でグチャグチャになった顔で兄貴の方を見る。


「は、はは、話を聞いてください。俺は決して――」


 自転車のフルスイング。

 兄貴がハンドルを持って自転車を振り回し、それは根鳥の顔面にめり込む。

 根鳥の体は野球の球のように吹き飛ぶ。


「わ~、本当に人が宙を浮いてる~」


 兄貴のバカげた腕力により自転車は半壊し、それを持ったまま根鳥に近づいて行く。

 根鳥は地面を転がり、数メートル吹っ飛んだところで止まる。

 彼の鼻は完璧に潰れたようで、顔を押させてジタバタもがく。


「痛いっ、痛い……いてぇよぉ……」

「チャリが壊れただろ、弁償しろ!!」


 兄貴は地面に倒れる根鳥の前に立ち、自転車で殴り付ける。


「小百合ちゃんは繊細なんだぞ、傷ついたらどうしてくれる! 小百合ちゃんを傷つけようとしたお前は、まんしに値すんぞコラ!」

「万死な、万死。本当にアホだな、あいつ」


 某ハンターゲームのハンマー使いを連想させるような攻撃。

 自転車を左に持ちあげ、右に持ち上げ、全力で何度も打ち下ろす。


「痛い! 痛いです! 勘弁してください!」

「人はそんな簡単に死なない! でも小百合ちゃんは寂しさで死んでしまうほどに繊細!」

「そんなに繊細じゃないけどな、小百合。ってか図太いはずなのに、兄貴の目には妹がどう映ってんだか」


 自転車が完全に壊れてしまったので、兄貴は自分の拳に切り替えて殴る。

 何度も殴打され、根鳥の顔面は痛々しいほどに腫れ上がっていく。


「お前が小百合ちゃんに謝るまで、殴るの止めねえからな!」

「すいません! 喧嘩売ってすいませんでした、妹さん! がはっ!!」


 謝罪しても殴るのを止めない兄貴。

 殴られながら、根鳥は呆然とする。


「謝ったら殴るの止めてくれるって……」

「そんなこと誰が言った! お前は俺をバカにしてんのか!」


 小百合のことで頭に血が上っている時は、3秒前に自分が言ったことを忘れてしまう兄貴。

 まだまだ容赦なく、彼の攻撃は続く。


「がはっ! げほっ! んぐっ……止めてください……もう無理です……」

「まだ大丈夫!」

「大丈夫じゃないって――ぐわぁあああああああああああ!!」


 根鳥の顔を掴み、膝蹴りを何度も繰り出す。


「これは小百合ちゃんの分! そしてこれも小百合ちゃんの分!」


 根鳥は手で防ぐが、兄貴の凶悪な膝が骨を折った。

 相手が痛みに手をどけると再び拳を使い、顔面を全力で殴り続ける。

 公開処刑をされる根鳥を見て、幸田が合掌していた。


「死なないでね、根鳥く~ん」

 

 兄貴の拳に根鳥の頭が何度も激しく上下する。

 血が周囲に飛び散り、歯がいくつも地面を転がり、腕などは曲がってはいけない方向に曲がっていた。

 その轟音と威力、そして容赦ない鬼のような兄貴の姿に、竜胆の生徒たちは戦慄していた。


「これで終わりかな」

「まだまだ。金を回収しないといけねえだろ」

「そうだった。後のことは博くんに頼むよ」

「ああ、任せとけ。俺がとことん絞り取ってやる」


 そう言って笑う博くんはやはり悪魔的な怖さを秘めており、俺は苦笑いをする。

 この二人とは敵対したくないな。


「小百合ちゃんの痛みを思い知れ! あの子が受けた痛み、こんなもんじゃねえぞ!」


 全力で根鳥を何度も踏みつける兄貴。

 腫れ上がった瞳から涙を流し、鼻と口から血を拭き出し、終わらない地獄に悲鳴を上げる。


「痛い……助けて、誰か助け……かぁちゃん助けて……痛いよぉ、助けてくれよぉ……誰か、助けてくれぇええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 廃ビルの中に根鳥の絶叫と暴行を加えられる音がこだまする。

 その地獄は1時間以上も続き、終わる頃には根鳥は悲惨な姿となっていた。

 竜胆の生徒たちは、大型トラックに轢かれたかのような姿となった彼を見て、恐怖に震えるのであった。

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― 新着の感想 ―
やはり暴力…!! 暴力は全てを解決する…!!
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