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第29話 開戦

「覚悟は出来てるんだろうな?」

「覚悟? 何の覚悟?」

「死ぬ覚悟だよ」

「まぁ人間はいつか死ぬんだろうけど」

「今日死ぬんだよ、てめえは!」


 暗がりの中で怒声を上げる根鳥。

 根鳥を中心として、フロアいっぱいに竜胆の生徒たちがいる。

 俺は落ち着いたまま、根鳥の方に近づいていく。


「顔色悪いみたいだな。寝れなかった?」

「ああ、おかげさまでな。お前も震えて寝れなかったんだろ?」

「惜しい! 確かに寝れなかったんだけど、星那の匂いが枕にしみ込んでて、興奮して寝れなかったんだ」

「てめぇ……」


 ブチッと聞こえてきそうなほど、根鳥の表情が怒りに染まる。

 俺を睨みつけて、だが冷静を装いながら話す。


「周りを見ろ。全員でお前を殺してやろうか?」

「一人で来れないのかよ」

「はっ! ビビってんだろ」

「なんでビビる必要があるんだ。相手はお前一人だろ」

「ああ? 竜胆の生徒たちがいるだろうが。てめえには目が付いてないのか?」

「二つ付いてるよ。ほら」


 大きく目を見開き、自分の目を根鳥にみせてやるが……相手はイライラを募らせていた。


「いいか、今から殺すぞ」

「あ、その前にちょっと待って。お前に用事があるって人がいるんだよ」

「はぁ? 俺に用事?」


 根鳥は思い当たる人物がいないらしく、怒ったまま眉を顰める。

 まぁ分かるわけないか。

 今日が初対面だろうし、根鳥はまだ何をやったのか理解していない。


「あの人だ」

「?」


 ビルに入ってくる人物。

 彼が中に来ると、周囲にいる竜胆の生徒たちが一斉に頭を下げる。


「「「ご苦労様です!!」」」


 体格のいい男がやって来て、根鳥はゴクリと息を飲む。

 そしてその正体を知り、顔を青くした。


「よお。お前、俺のこと分かるか?」

「し、島崎博文……さん」


 島崎博文。

 現れた男は兄の友人である――博くんだ。


 彼は竜胆学園の二大巨頭と呼ばれる人物の一人で、博くんを知らない人間はこの辺りにはいないだろう。

 そんな博くんを見た根鳥は、唖然とした顔で彼を見ている。


「な、なんであんたがこんなところに?」

「裕次郎が言っただろ。用事があるってな」

「裕次郎って……そいつとはどんな関係なんだよ」

「お前、何も知らないんだな。裕次郎はうちの敏郎……『竜胆学園大炎上』の弟だぞ」

「な……大炎上のぉ!?」


 驚愕の顔で俺を見てくる根鳥。

 どうやらうちの兄貴のことも知ってるようだ。


 円城敏郎――

 数々の問題、そして火災事件を起こしたことがある人物。

 その火災事件と、自身の苗字である『円城』とかけて『大炎上』と呼ばれているようだ。

 竜胆学園二大巨頭の一人、それが俺の兄貴である。


 ワル代表の博くんと、バカ代表の兄貴の弟である俺。

 その二人を前にして、根鳥は足を震わせていた。


「ち、ちょっと待ってくれ……俺はあんたには何もしてねえだろ? もしかして、友達の弟のために出っ張って来たのか?」

「……俺はカッコ悪いことが大嫌いでな、そんなダセーことしねえよ」

「じ、じゃあ何であんたが来てるんだよ!」

「個人的にお前に用がある」


 根鳥は博くんからこちらに視線を切り替え、焦るような顔で続ける。


「お、お前も卑怯なやつだよな。個人の喧嘩に知り合いを呼び出すなんてよ!」

「だから、博くんはお前に用があるって言ってるだろ。何回同じこと言ったら分かるんだよ。それにこれだけの人数集めたお前が言えたことじゃないだろ。さっきは全員で殺すとか言ってたし」

「ふん。でも残念だが、ここに集まったのはこいつのためじゃねえけどな」

「え?」

「裕次郎が言っただろ。相手はお前一人(・・・・)だって」


 竜胆の生徒たちを見渡す根鳥。

 今、自分が置かれている状況を理解したのだろう、さらに顔色が悪くなる。


「おい、嘘だよな……お前ら、俺の味方だよな?」

「…………」

「何とか言えよぉ!!」


 彼は友人であったはずの男に向かって叫ぶが、相手は視線を前に向けたまま何も言わない。

 そう、周りにいる生徒たちは、根鳥のために集まったのではない。

 博くんの命令で集結していたのだ。


「てめえみたいなカスのために200もの人間が集まるか、バカが。全部俺の指示に決まってんだろ」

「ううっ……」


 四面楚歌。

 現在の根鳥は、多くの敵に囲まれた状態である。

 圧倒的優位に立っていたと思っていただろうが、それが逆転した。

 根鳥は大きく目を開いて、ゴクリと息を飲む。


「……へ、へへへ。あんたらは確かにヤベーかもだけどな……でも俺はもっとヤベー人知ってるんだぞ? その人に助け呼んでもいいんだぜ?」


 根鳥は急に開き直ったかのように笑い出し、そんなことを言い出した。


「おー呼べ呼べ。さっさと呼べ。時間の無駄だ」

「じゃあ望みどおりに呼んでやる! 知ってるだろ、加東(かとう)さん。竜胆の卒業生で、あんたらの5つ上だ。熊みたいなゴツイ体で、この界隈では『破壊王』の呼び名で通ってる極悪人。高校生のあんたら程度がどうこうできる相手じゃねえぞ」

「いいから呼んだら? 博くんの言う通り、時間の無駄だし」

「……後悔させてやる」


 含み笑いを浮かべながら、根鳥は電話を始める。

 ご丁寧にスピーカーで通話するらしく、暗い空間の中に発信音が鳴り響いた。


『根鳥か、どうした』

「お世話になってます、加東さん。実は少々面倒な相手ともめまして……」

『そうか。今すぐ行ってやる、待ってろ。おい、人数集めろ』


 通話の相手はその場にいるであろう誰かに、そう声をかけていた。

 根鳥は嬉しそうに、そして媚を売るような顔をしている。


「ありがとうございます、助かります!」

『で、どこのバカだ、今から俺に殺されるのは?』

「はい。加東さんの後輩で、竜胆の円城と島崎ってやつです」

『……は?』

「あの、だから円城と島崎です」

『……おい根鳥』

「はい?」

『俺を巻き込むんじゃねえ!!』


 プツンと通話を切られ、根鳥は茫然とする。


「え、あの、加東さん? もしもし、もしもし?」

「残念だったな、ヤベー知り合いは助けに来てくれねえってよ」

「え……あれ?」


 携帯と博くんを交互に見る根鳥。

 何が起きたのか理解できていないような、そんな様子だ。


「加東って言えば、巷でも悪くて有名な人だな」

「俺も聞いたことはある」

「けどあいつ、俺らが一年の頃にヤキ入れだってやって来てな。でも連れてきた仲間もろとも敏郎がぶっ飛ばしたんだよ」

「ああ……兄貴ならやりそうだな」


 俺たちのそんな会話を聞いた根鳥は、大量の冷や汗を流し始める。


「その後、加東のやつ敏郎に土下座で詫び入れてな。傑作だったぜ」


 博くんは口角を上げながら根鳥の方に視線を向ける。

 根鳥は体をビクッとさせ、怯えきった表情を浮かべていた。


「で、他に頼りになる先輩はいないのか?」

「……いません」


 後ろ盾を失ってしまった根鳥は、危険を察知して博くんに敬語を使い始めていた。


「んだよ。つまんねーな。もう少し面白くなると思ったのによ」

「博くんたちとやり合おうって相手いないでしょ」

「俺たちっつーか、敏郎とだろ。あいつは規格外だからな」


 根鳥に近づいていく博くん。

 相手はどうすることもできず、硬直したまま博くんの顔を見ている。


「俺がここに来た理由、分かるか?」

「分かりません……分かりません」


 190もある高身長から見下ろされる迫力はすさまじいらしく、根鳥は顔面蒼白で彼を見上げるしかない。

 博くんはそんな根鳥を見て、くつくつと笑い出した。


「分からないなら分かるように説明してやる。おい、来いよ」


 ビルの入り口の方を見る博くん。

 すると外から、ひょっこりと女性が顔を出す。


「え……え?」


 闇の中から現れた女性。

 それは俺と同じ高校の女子、幸田であった。


 彼女の顔を見て、根鳥は唖然とするばかり。

 あまりのことにパニック状態に陥り、頭を抱えて彼女を見ている。


「え、何で幸田が……え?」

「根鳥く~ん。こんばんは~」


 気の抜けるような幸田の声。

 彼女は博くんの隣に位置し、根鳥に手を振る。


「…………」


 根鳥は完全にフリーズしたまま、幸田に視線を向けている。

 博くんは唐突にそんな彼女の肩を抱いた。


「お前、俺の女に手を出したってな?」

「私たちのこと彼氏にバレちゃった~」

「は……はぁあああああああああああ!?」


 さあ、法で裁かれる方がマシだと思えるほどの、制裁を始めようか。

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― 新着の感想 ―
な、ナンダッテー!兄貴が大炎上ダナンテー! な、なんだってー!幸田さんの彼氏がそこぉ!
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