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第28話 怒り狂う根鳥

「あのクソがぁああああああああああああああああああ!!」


 裕次郎から動画を送られた直後のこと。

 涙を流しながら、自室で大暴れする根鳥。

 部屋の中はグチャグチャになっており、窓ガラスも割れて外から冷たい風が吹く。

 壊す物が無くなり、次に根鳥は壁を殴り始める。

 壁は穴だらけになっていくが、彼の気は一向に収まる気配がない。


「許さねえ……許さねえ許さねえ許さねえ許さねえ許さねえ!! 絶対に殺してやる!」


 感情をコントロールできない根鳥であったが、ようやく涙を拭いて、携帯を取り出す。

 通話をしようとしており、その相手は星那。

 何度コールするも、星那が応答する様子はない。

 コール音さえが今の根鳥にはいら立ちを加速させる装置となっており、携帯を壊れたベッドの上に叩きつける。


「なんで出ねえんだよ、クソが!」


 頭を掻きむしり、星那に対しての想いが再びこみ上げ、、また涙が浮かぶ。


「星那……星那ぁ……。なんでなんだよ。俺には指一本触れさせてくれなかったのに……」


 膝を抱え、子供のように肩を震わせる根鳥。

 そんな時、携帯の着信音が鳴る。


「星那!?」


 バッと顔を上げ、携帯に出る根鳥。


「もしもし」

『あ、根鳥くん。私だけど』

「……恵か」

『あの、今からちょっと会えないかな』

「…………」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 根鳥の家の近所まで来ていた恵は、小さな公園で待っていた。

 夜空の月を見上げ、これからの自分の人生を思い、喜びと不安を抱く。

 そうしていると根鳥がやって来て、恵は笑顔を浮かべてた。


「根鳥くん」

「……何の用だ?」

「何って……うちの親に会ってもらいたくて」

「なんで?」

「なんでって、そんなの決まってるでしょ。親に挨拶しないわけにはいかないじゃない。これからのことも相談しないといけないし」


 裕次郎から送られてきた動画。

 そのことで心の底から憤慨している根鳥。

 それに対して、恵は幸せそうな顔で話す。


「まだ結婚はできないけど、これから一緒なんだからさ。お互いの親に会わないと――」

「会わねえよ」

「え……」


 根鳥の冷たい声に固まってしまう恵。

 すると根鳥は、裕次郎への恨みをぶつけるように彼女へ暴言を吐く。


「てめえなんかと一緒になるわけねえだろ、バーカ」

「ち、ちょっと……何言ってるの?」

「もしかしてこの間のこと本気にしてんのか? 本当にバカだよな。お前が妊娠したとか、関係ねえよ。育てたけりゃ一人で勝手に育ててろ」

「…………」


 言葉を失う恵。

 傷つく彼女を見て、根鳥は追い討ちをかけるように叫ぶ。


「最初からお前なんて遊びなんだよ! 本気になった瞬間なんて1ミリもねえ。彼女がいる男を苦しめるために近づいただけだ。まだ気づかねえのかよ」

「嘘……だって私のこと好きだって」

「リップサービスって知らねえの? 本当に呆れる。人が言った適当なこと信じて、笑えるぐらいバカだよな」


 恵を見下し、腹を抱えて笑う根鳥。

 その根鳥を見て、彼女は口を押えて大量の涙を流す。


「キショい顔でこっち見るんじゃねえよ、ブス! 何、被害者みたいな顔してんだ。お前も浮気してたんだから、同罪だろ? マジキモいよなお前」

「酷い……じゃあお腹の子の責任はどうするの?」

「責任? 取ってやろうか?」


 根鳥は人を殺すような目つきで恵に近づき、彼女はその異様さに後退する。

 だが距離を詰め、根鳥は恵の髪を掴んで耳元で怒鳴り付けた。


「痛っ……」

「責任取って子供殺してやろうか!? 腹を蹴り倒されるのと、包丁で腹刺されるのとどっちがいい? 走る車に轢かせてやってもいいんだぞ? どれがいいかハッキリしろや!!」

「そんな……そんなの酷すぎるよ」

「酷いのはお前の顔だ! 気持ち悪いなぁ。気持ち悪すぎて反吐が出る」


 大泣きする恵。

 その表情は確かに美しいとは言い難い。 

 それを見下し、貶し、馬頭する根鳥。

 

「裕次郎くんに送った動画……私、協力したのに」

「協力ぅ? だから何で被害者面してんだよ。お前も共犯者だろ。それにあの動画はお前がやりたいって言ったらから、こっちが協力した側なんだよ」

「言い出したのは根鳥くんじゃない」

「人の所為にしてんじゃねえ!!」


 髪を掴んだまま、恵の顔面を殴り付ける根鳥。

 恵は地面に倒れ込み、痛みに顔を押させた。

 口から血が噴き出し、視界がぼやける。

 恵は現実を受け入れることができない、絶望した瞳で根鳥を見上げる。


「だからキショい顔で見るなって言ってんだろうが!!」


 激情している根鳥は、恵の腹めがけてつま先で蹴ろうとする。


 「止めて!!」


 恵は咄嗟に身を縮こませ、それを足で受ける形で回避した。

 顔と足の痛みに耐えながら、恵はお腹を押させて根鳥を見上げる。


「止めて……止めて……」

 

 根鳥は悪魔のような笑みを浮かべながら見下し、恵に言う。


「ガキを下ろしたかったらいつでも言ってくれ。責任持って、協力してやるからさ」


 そして根鳥は大笑いして踵を返す。


「ああっ……あああ……うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 癇癪を起したように泣き叫ぶ恵。 

 根鳥は若干、溜飲が下がったのか、口の端を上げながらその場を立ち去る。


 しかし、裕次郎と星那のことを考えると許すことができない。

 恵の鳴き声が聞こえなくなる程度の距離まで離れると、携帯を取り出して裕次郎に通話をかけた。


『はい』

「てめえ、絶対にぶっ殺す!!」

『あ、動画観てくれたんだ。最高だっただろ?』

「ああ、最高だよ。お前を本気で殺すだけの理由が出来たんだからな! いいか、明日指定した場所に来い。逃げるんじゃねえぞ。てめえを地獄に叩き落としてやるからな!」


 それだけを言って、根鳥は通話を終了させる。

 そしてすぐさま、別の人へと電話をかけた。


『どうした、根鳥』

「悪いけど、人数集めてくれないか?」

『どういうことだ?』

「どうしても殺したい奴がいる。手伝ってくれ」

『……分かった』


 電話をかけた相手は竜胆の友人。

 相手が快諾してくれたことを確認し、根鳥は憎しみを込めた目で闇を睨みつけた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 翌日の夜。

 とある廃ビルにいる根鳥。

 周囲には沢山の竜胆の生徒が集結していた。


「根鳥、集めれるだけ集めておいたぜ」

「悪いな……」


 昨日から一睡もしていない根鳥の目の下にはクマができており、憎しみを抱く裕次郎が現れるのを静かに待っていた。

 

 根鳥は周りを見て、その人数の多さにニヤリと笑う。


「でもよくこれだけ集めてくれたな」

「まぁな」


 ざっと200人ほどの男がおり、これで確実に裕次郎を殺せると思案する根鳥。


 殺すのは確定として、どうしてやろうか。

 これだけの人数がいれば、相手は戦意喪失してやる気も起こらないだろう。

 この間は調子に乗った態度を取っていたが、今回はそうはいかねえ。

 地獄を味わせてじっくり殺す。

 泣こうが喚こうが叫ぼうが、何が何でも殺す。


 心にそう決断していると、ビルの入り口に一人の男が足を踏み入れる。


 来た!


 静かだった根鳥の感情は、一気に頂点まで高ぶる。

 現れたのは当然、裕次郎。

 彼は平然とした様子で、ビルの中へと入ってくる。


「円城ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「お待たせ」


 怒り狂う根鳥は、現れた裕次郎に咆哮した。

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