表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/28

第23話 根鳥、新たな標的

「くそっ。何なんだよ、あいつは」


 曇り空の下、学校の屋上でイライラしている根鳥。

 裕次郎と対面した翌日のことだが、まだ怒りを露わにしていた。

 

 星那に何度もメッセージ、電話をかけているが返事がないことでそれに拍車をかけている。

 それを宥めるように、山本が根鳥の肩に手を置く。


「まぁそんな怒るなよ。ああいうのは考えないようにして、楽しいことしようぜ」

「だけどぶっ殺さねえと気が済まねえ」

「気持ちは分かるけどさ……それより、東のことはどうなったんだ?」


 山本がそう聞くと、根鳥の目元がピクッと動く。

  

 根鳥は計画がとん挫していることを話すのを恥だと考えている。

 これまで失敗したことがなく、自慢だったはずのなのに上手く行っていない。

 事実を話したがらない根鳥は、適当な言葉で誤魔化すことにした。


「まぁそれなりにな」

「ふーん。それより新しいネタがあるんだけど、どうよ?」

「新しいネタ?」

「ああ。最近男ができたって女がいるんだよ。横島高校(ここ)に通うやつでさ、幸田(こうだ)って女。知ってるだろ?」

「幸田ぁ? 確か緩そうな女じゃなかったか?」


 幸田という女性の名前を聞いて、バカにするように笑う根鳥。


「そうなんだけどさ、彼氏が出来たの初めてらしいぞ。男もここに通ってる地味な奴がらしいから問題も無し。顔はいいし、標的には丁度いいんじゃないか?」

「やろうよ根鳥。私も小遣い欲しい」


 根鳥たちの話を横で聞いていた庄司がそんなことを言う。


 あの男のことでムシャクシャしてたし、恵のことも上手くいかない。

 憂さ晴らしに新しい玩具で遊ぶとするか。


「分かった。やるか」


 邪悪な笑みを浮かべ合う根鳥たち。

 こうして新しい標的を狙うことになったのであった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 根鳥と庄司の行動は早く、庄司はすぐに幸田に接触をする。


「これ落としたよぉ」

「あ、ごめーん。ありがとう」


 廊下で物を落とし、幸田に拾わせることに成功する。

 幸田という女性は茶髪にパーマを当てた、ゆるふわな女子であった。

 

「確か幸田だったよね?」

「うん。私のこと知ってるんだ」

「ちょっとだけね。私は庄司英美里。よろしくね」

「よろしく~」


 庄司はずば抜けたコミュニケーションスキルで、幸田と球速に仲を深める。

 すぐに一緒に出掛ける関係になり、次の休日には行動を共にしていた。


 可愛らしい恰好をしている幸田と、ギャルの服装の庄司。

 二人が出かけていたのは、地下アイドルのイベントであった。


「へー、幸田ってこういうの興味あるんだ」

「うん。普通のアイドルより、地下アイドル応援するのが好き~。距離が近いのがいいんだよね」

「ふーん」


 暗く狭いイベント会場には、数十人の女性が集まっていた。

 そこでコンサートをする男性五人。

 その男性グループの中央に位置する男は一段と目立っている。

 オレンジ色に染め、時間をかけてセットされた髪。

 王子をコンセプトにしたグループなので、まさに王子様といった恰好をしている。


 キャーキャー大歓声が上がる中、冷ややかな目で見ている庄司。

 こんなのどこがいいんだか。

 隣で騒ぐ幸田のことも見下すように見ていた。


「彼氏いんのに、ああいうのに熱上げていいの?」

「英美里は好きなタレントとか、配信者いない?」

「いるっちゃいるけど……」

「それと同じ~。彼氏の好きとはまた違う好きだよ」


 妙に説得力がある幸田の言葉に、頷いてしまう庄司。

 そしてコンサートが終わり、アイドルたちとの触れ合い時間が始まる。

 恋人のような距離感でやりとりをし、甘いひと時が楽しめるという、彼らのファンからすればたまらないサービス。


竜心(りゅうしん)くーん。ハート作って」

「幸田ちゃん。今日も来てくれたんだ、ありがとね」


 甘い甘いフェイス。

 幸田をお姫様のように扱うオレンジ頭の竜心。

 二人の手でハートを作り、写真を撮ってもらう。

 幸田の楽しそうな顔を見て、庄司は少し考えが変わる。


 割と悪くないのかも?


「それで幸田ちゃん。そっちのお姫様は?」

「この子は英美里ちゃんって言うの。私の友達だよ」

「始めまして、英美里ちゃん」

「はぁ……」


 日本人離れした竜心の容姿に、庄司はごくりと息を飲む。


「じゃあ初めての英美里ちゃんには大サービス。お姫様だっこだ!」

「わっ」


 いきなりお姫様だっこをされる庄司。

 眼前にある竜心の顔にときめきを覚え始める。


「いいな、お姫様だっこって値段が高いんだよ。羨ましい~」

「あはは……」


 カメラに向かってピースをする庄司。

 まんざらでもない顔だ。


 まるでテーマパークに来たように、夢のような時間を過ごす幸田と庄司。

 庄司は浮かれてしまっていたが、だがそこで我に返る。


 そうだ。私には仕事があるんだった。


 頭を振り、竜心のことを思考から払拭する。

 携帯を取り出し、これから外に出ることを根鳥に伝えて幸田の方を見た。


「楽しかったね」

「うん。また来ようね~」


 これから起こることを知らずにのんきな女。

 お小遣いいただきまーす。


 そう明るくない階段を上がって行くと、外は夕方。

 景色は赤に染まっていた。

 ビルの地下から出て来た庄司たちは、駅の方角に向かい始める。

 そして最初の角を曲がったところで――竜胆の生徒たちが待ち構えていた。


「美人さん二人発見」

「これから一緒にご飯なんてどう?」

「やめておきます」


 迫る竜胆の生徒たち。

 幸田は踵を返して走り出す。


「待ってよー。デートぐらいいいじゃん」

「ちょっとだけ話するだけでいいから。8時間ぐらい」


 笑いながら幸田を追いかける男たち。

 そこでいつもの如く根鳥が登場し、幸田のことを抱きしめる。


「お前……幸田だったよな」

「根鳥くん?」

「ああ。お前ら、俺の連れになんか用か?」

「んだよ、男連れか。おい、帰るぞ」


 根鳥の顔を見てニヤッと口元を歪ませる竜胆の生徒たち。

 幸田は根鳥に抱きしめられるまま動かないでいた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「で、どうだったよ?」

「今回もヨユー。幸田ってやっぱ緩いよな。チョロ過ぎもチョロ過ぎだ」


 根鳥たちのたまり場、屋上に大爆笑が巻き起こる。

 幸田を簡単に攻略した根鳥は、皆の前で得意げに語り始めた。


「やっぱ女は押しに弱いんだよ。それにロマンチストだろ? だからいつものコンボであっさり陥落だ」

「羨ましいな。できるなら俺がやってみたかったけど……根鳥だからできたんだろうな」

 

 山本は根鳥を称賛するよう、肩を叩く。


「お前も今度やってみるか? 竜胆の連中も、お前になら手助けしてくれるだろうし、バーも紹介してやるよ」

「マジ? じゃあ一回チャレンジしてみようかな」

「でも山本じゃあ、ちょっと迫力が足りないかもな」

「どっちなんだよ! やっぱり俺じゃ無理か!?」


 再び笑いに包み込まれる屋上。


 だが根鳥の胸の中はカラカラに枯渇していた。

 自分の欲望を満たすには全然足りない。


 自分の知り合い以外の友人が星那にいたことが許せず、そしてその友達である裕次郎のことが許せなかった。 

 腐ったことはしている根鳥であるが、彼なりに本気で星那を思っている。

 他の女は遊び、本気なのは星那だけ。


 だが根鳥の気持ちは空回るようにして、星那に伝わらない。

 誠実さが皆無なので仕方ないことであるが、それがさらに彼の飢えを加速させていた。

 最近は星那と話をする機会が減り、焦燥感をも覚えている。

 

 星那に男の影があることが我慢できず、裕次郎をどうにかして叩きのめしたいと考える根鳥。

 ただ殴るだけじゃ気が済まない。

 恵を落とし、裕次郎に対して絶望を与えなければ、この渇きは癒えないだろう。


 どうやって恵を落とせばいいのか……

 笑い声が響く中、根鳥はイライラしながらそのことばかりを思案していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ