表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/30

第22話 根鳥、初対面

「お前はお前で誰だよ?」

「私は星那ちゃんの友達。あんたこそ誰?」

「俺は星那の彼氏だ」

「? このゲロみたいな男、本当に彼氏?」

「う、うん……」


 小百合の問いに、星那は恥ずかしそうに俯いてしまう。

 こんなのが彼氏でごめんなさい。

 そんなことを語っている表情だ。


「誰がゲロだ」

「え、あんただけど」

「なめんな、このブス‼」


 根鳥が拳を振り上げる。

 どうやらこいつは、男女関係無く暴力を振るえるタイプの人間のようだ。

 

 これは想定外だったが――俺は焦ることはなかった。

 何故なら我が妹は、強いからだ。


 根鳥の拳を軽く腕でいなす妹。

 当たらなかったことに唖然とする根鳥ではあったが、さらに怒りを露わにして妹に掴みかかろうとしていた。


「小百合。もういい」

「え、こんなのいつでも倒せるけど」


 根鳥の伸びてくる手を簡単に弾き、小百合は相手のみぞおちに拳を叩きこもうとする。

 俺はそれが決まる前に、妹の腕を掴んで阻止した。


「倒さなくていい。段持ちの小百合がこいつを倒したら、問題になるぞ」

「はぁ!? 俺に勝てるつもりか、このブス!」

「ブスブスうるさいな。俺の妹はブスじゃない」


 妹を下がらせ、俺は根鳥の前に出る。

 相手は鼻と鼻がくっつくほど近づき、睨みつけてきた。


「それで、ブスの兄貴のお前は誰だ?」

「円城。お前と同じ学校の生徒だよ」

「……円城?」


 自分の名前を語ると、根鳥はキョトンとする。

 そして何を考えたのか、今度はニヤニヤと笑い出した。


「そうかそうか、お前が円城か。話には聞いてるぜ」

「話って、どんな話?」

「教えてやろうか?」

「是非とも」

「教えねえよ、バーカ」


 こちらを挑発したつもりなのだろう。

 だが俺は平然を保っている。

 というか、こんな挑発に乗るほど馬鹿じゃない。

 

 俺は別に有名人でもなんでもないので察するに、恵とのことで優越感に浸ているというところか。

 

 根鳥は俺が反応しなかったことに腹を立てたのか、舌打ちをする。


「それで何で円城くんが俺の彼女と一緒にいるのかな?」

「星那とは友達だからな」

「星那のこと呼び捨てにしてんじゃねえよ!!」


 大激怒。

 根鳥が俺の胸倉を掴んでくる。


「ちょっと根鳥、止めてよ!」

「うるせえ、黙ってろ星那!」


 止めに入ろうとする彼女にもキツイ言葉を吐き出す根鳥。

 激情していて周りも見えていないのだろう、視線が集まっていることにも気づいていない。


「だから止めなってば」

「なんで止めるんだよ。こいつとは普通の友達なんだろ?」

「だから止めてんの。普通の友達だったとして、何が悪いの?」

「悪いに決まってんだろ! 俺の女と遊んでやがるんだからな」

「浮気でも何でもないのに?」

「それでもぶっ殺す!」


 メチャクチャな奴だな。

 俺は呆れ返って、ため息を吐き出す。

 星那は根鳥に触れようとはしないが、必死で止めようとしてくれている。

 

「いいんだよ。星那の彼氏は頭に血が上って普通に話もできない状態みたいだから」

「おい、呼び捨てにするなって言ってんだよ」

「悪い悪い。俺が悪かった。川島。これでいいか?」

「いいと思うか?」

「良しとしてくれたら嬉しいけど」


 なんとか穏便にことを済ませようとした俺は、笑顔で根鳥に対応していた。

 が、それは逆に相手の感情を逆なでしたようで、頭に血管が浮かぶほどに怒り狂う。


「いいわけねえだろ!」

「裕兄、やっぱり私が倒そうか?」

「小百合は下がってなさい。これはお兄ちゃんとこいつの問題だから」

「分かってんじゃねえか。ちょっと面貸せ。今からボコボコにしてやるからよ」

「ごめん。それは勘弁して。痛いのは嫌だ」

「根鳥、本気で止めなよ。裕次郎に暴力振るうなら、絶対に許さないから」


 星那が言ったことに、根鳥は怒りながらも信じれないといった表情を浮かべる。

 俺から手を放すことなく、星那の方を見てやつは言う。


「なんでこんなやつを庇うんだよ?」

「喧嘩なんて止めるに決まってるでしょ。周り見て。皆注目してるよ」

「そんなのどうでもいいんだよ」

「どうでも良くはないでしょ。警察来るよ?」

「警察なんて怖くねえ!」


 頭に血が上り過ぎて、根鳥は冷静な判断もできないようだ。

 山本たちの方を見ると――彼らは青い顔でこちらを見ていた。


「なあ、このままじゃ本当に警察が来ると思うけど」

「そ、そうだよな。おい根鳥、退散だ。警察は流石にマズい」

「放せ!」


 山本たちが、俺から根鳥を引き離す。

 根鳥はまだ暴れるつもりらしく、山本たちに抑えられながらも俺に腕を伸ばしてくる。


「普通の友達だって言ってるからいいじゃないか。浮気してるわけでもないんだし」

「そ、そうだぞ。お前も女友達ぐらいいるだろ?」

「俺はいいけど星那はダメなんだよ! それにあいつは気に食わねえ。ぶっ殺すから離せ!」

「だからダメだって。もう行くぞ」

「放せ、放せ、放せぇええええ!!」


 友人たち数人に引きずられていく根鳥。

 まだ大騒ぎしているが……彼女が友達と会ってるだけで、こんなに怒るものなのだろうか。

 それに山本たちが言ったように、自分には女友達がいるのにそれを許可しないとは。

 自分も女友達がいないならまだ分かるが、流石に束縛がきつすぎる。

 そしてあいつ自身、浮気までしているのだから、とんでもないよな。


「ごめん、裕次郎」

「別にいいよ。怪我は無いし」

「私に任せてくれたら、倒してあげたのに」

「小百合。喧嘩はダメだぞ。兄貴みたいに停学になってもいいのか?」

「裕兄のためなら喜んで」


 ダメだこいつ。

 妹も変人だから、自分思考で行動してばかり。

 常識が通用しない。


 星那は目の前で喧嘩が起きそうになったことに怯えているのか、手が震えていた。

 変なことに巻き込んでしまったなと、俺は少し罪悪感を覚えてしまう。


「こちらこそごめん。でももう大丈夫だから、そろそろ帰ろう。晩御飯も食べに行きたいところだけど、門限もあるだろ」

「あ、そっか。そうだね」


 門限のことを思い出し、腕にある小さな時計に視線を落とす星那。

 すでに時間がギリギリだったようで、慌て出す。


「間に合うとは思うけど……」

「走るなら付き合うけど?」

「そこまでしなくてもいいかな」

「とにかく家まで送るよ。小百合もいいよな?」

「うん。後でしゃぶしゃぶ奢ってくれるんだよね」

「その予定」


 星那の家の方角に向かって歩き出す俺たち。


「いいな。私もしゃぶしゃぶ行ってみたい」

「じゃあ今度行こう。でも星那と一緒だったら、菜箸を使わないとだな」

「それは面倒。でも星那ちゃんと食べに行くなら致し方無し」

「ごめん……でもそれでも一緒に行きたい」


 ハッキリと自分の気持ちを伝えてくる星那。

 妹と話をして、自分らしくいることを意識しているのか。

 そして俺たちがそんな星那のことを受け入れているのを理解しており、彼女が笑顔なのが嬉しい。


「うん、一緒に行こう。あ、連絡先教えて」

「やった。私も小百合ちゃんの連絡先教えてほしかったんだ」


 連絡先を交換する二人。

 そんなやりとりを見て、俺は溜息をつく。

 とりあえずは星那も落ち着いたみたいだ。


 そうこうしているうちに、星那の家に到着する。

 彼女の家は屋敷と言っても過言でもないほどの大きな造りで、広い庭もあった。

 自身のマンションと比べるものでもないが、しかし本当に大きいな。


「星那ちゃんって、お嬢様?」

「そ、そんなことないって。普通だよ、普通」

「普通じゃないでしょ、これは」

「そう、なのかな……友達の家とか行ったことないから分かんないな」

「じゃあ今度私たちの家に来たらいい」


 妹の提案に表情を明るくする星那。

 

「行く! 裕次郎と小百合ちゃんの家に行く」

「うん、おいで。でもアホの兄がいることだけは謝っておきます」


 兄貴の存在を先に謝罪する小百合。

 そんな小百合を見て、星那は可愛らしく苦笑いを浮かべるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ