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第11話 根鳥、恵を攻略する

 根鳥と出会った翌日の放課後、恵は一人悩んでいた。

 

 私は裕次郎くんの彼女で、根鳥くんのことは気の迷い。

 そのはずなのに、なんで彼のことを考えてしまうのだろう。

 悩む必要なんて無いはずなのに……どうして私は。


 裏庭のベンチで黄昏ている恵の隣に座る女子が一人。

 庄司だ。

 彼女は恵の手を取り、笑顔で話しかける。


「何悩んでんの?」

「あ、別に大したことないんだけどね」

「根鳥のことっしょ」


 核心を突かれたように、恵の心臓はドキッと跳ねる。


「あ……あはは。昨日助けられたから、ね」

「あんな登場の仕方ならしょうがないよね。私だったら惚れてるところ」

「そう? でも私は彼氏がいるから。それに根鳥くんって、評判悪いでしょ」

「噂ほどじゃないって。案外いいやつだよ、あいつ」

「え……英美里、根鳥くんのこと知ってるの?」


 驚く恵に笑う庄司。

 まさかの繋がりに恵は困惑していた。

 そんな恵に庄司は笑顔のままで会話を続ける。


「あいつは変な噂は確かに多いけど、昨日助けてもらったみたいに、良いところも沢山あんのよ。人間って色んな側面があるっしょ? 悪い噂もあいつの一部でしかない。本当の根鳥は優しくて頼りがいのある男だって」

「そう……なんだ」

「うん。それを確かめるために、今から会いに行かない? この後約束してるんだ。彼氏に悪いって思うなら、その気持ちを吹っ切るつもりでもいいし。どっちにしても、今のままじゃ宙ぶらりんっていうか、中途半端でしょ?」


 庄司が言うことに、恵は確かにと納得してしまう。


「そうした方がいいよ。このままじゃ恵が可哀想。悩んでる恵は見てられない。だって友達なんだもん」

「ありがとう、英美里」


 このままでは裕次郎くんに悪いし、自分の気持ちに決着をつけるという意味でも根鳥に会うのはいいかも知れない。

 彼のことを考えてしまうのは一時的なもの。

 それを確かめるために根鳥くんに会いに行こう。


 庄司は根鳥の友人で、彼のサポートをする役目を担っている。

 その理由は『金』だ。

 恵を落とすのに協力すると、根鳥からお金を貰える手はずになっている。 


 友情なんてクソくらえ。

 一番大事なのは金なのよ。


 うつむいたままの恵を見下ろし、庄司は密かに鼻で笑う。

 こうして恵は根鳥と会うこととなり、それは彼女の想定より早くその直後であった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「よお恵。昨日ぶりだな」

「あ、うん……」


 時刻は夕方。

 恵は庄司とともに、根鳥に会いにファーストフード店に来ていた。

 根鳥は恵が来ると立ち上がり、彼女の為に椅子を引く。


「ありがとう」

「紳士っしょ、根鳥って」

「そうだね」


 見た目は怖いが、だが優しいところがある。

 女はこういうのに弱いことを理解していて、根鳥はあえて優しさを振りまく。

 恵に対しても効果は大いにあり、そのギャップにまた胸を弾ませつつある。


「ほら、奢ってやるから好きなもん注文してこいよ」

「え、でも……」

「いいから。行って来い」

「根鳥がこう言ってるし、いいじゃん。ほら行こ」


 根鳥から手渡されるお金。

 恵は躊躇しながらも、庄司に促されてレジの方へと向かう。

 もちろん、これも根鳥の計算だ。

 施しを受けると、受け取った人は与えてくれた人に対して、何かを返さなければならいないという心理が働く。


 恵は気づいていない。

 毒蛇に足元をかまれ、確実にゆっくりと毒が全身に回り始めていることを。


 それからの会話は普通のものであった。

 友達と何をしただとか、最近食べたものだとか。

 変哲もない話。

 恵は根鳥のことを、思っていたより普通だと認識しつつあった。


「あー、私約束あるんだった。先に帰るね」

「え、ちょっと英美里――」

「なあ恵。今から面白いもん見せてやるよ」

「え……」


 根鳥と二人きりにするために、さっさと帰って行く庄司。

 恵は腕を根鳥に掴まれてしまう。

 少し抵抗感はあるが、だが根鳥に対しての警戒はほとんど解けていた。


「まぁ、少しぐらいなら」

「じゃあ行くぞ。ついて来い」


 強引な根鳥。

 それは裕次郎にはない部分で、恵はさらに惹かれつつある。

 

「おっと悪い。急ぎ過ぎだな」

「あ、ううん。別に」


 根鳥は強引に手を引くが、だがそれに対してのケアを忘れない。

 彼の優しさが際立ち、恵の気持ちは急速に根鳥に傾いていく。


 根鳥が恵を連れてきたのは、とあるバー。

 未成年である根鳥たちでは入れない店なのだが、そこは根鳥の知り合いの店で、入店はすんなりと許可される。

 戸惑う恵であったが、根鳥に手を引かれるままに店へと入って行く。


「大丈夫なの、ここ」

「問題無いって。知り合いの店だから。酒は飲めないけどな」


 奥に通され、二人が案内されたのはカップルシートと呼ばれる、横並びで座る席。

 狭い席に二人で座り、そして眼前に広がる景色に恵は感嘆の声を上げる。


「うわぁ……綺麗」

「だろ。これを恵に見せたかったんだよ」

「ありがとう」


 根鳥はさりげなく、恵の腰に手を伸ばす。

 抵抗しない恵。

 完全に場の空気に飲まれている。


「根鳥くんって、彼女いるよね?」

「……もう別れるつもりなんだよ。あいつは全然合わないから」

「そうなの?」

「ああ。会って間もないけど、マジになれるやつ見つけたしな」

「それって……」


 根鳥に見つめられ、恵はトロンとした顔をする。

 店の中にはローズの香りが漂っており、これはロマンチックな気分を高める効果があった。

 恵は根鳥の罠に完全にはまっていたのだが、気づいたところでもう遅い。

 根鳥の顔が近づき、恵は静かに目を閉じるのであった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「なあ聞いたか。根鳥のやつ、東もう落としたって」

「マジ? 早くね?」

「軽い女だったんだろうな」

「はは。マジでちょろい女だったぜ」


 根鳥と恵が関係を持って数日後の昼休み。

 ゲラゲラと学校の屋上で会話をする根鳥たち。

 根鳥はその中で一番、醜悪な笑顔を浮かべていた。


「吊り橋効果っての? 竜胆の連中に頼んで女ビビらせて助けに入る。毎回あれに引っ掛かってくれんだよ」

「本当に悪い男だよね。それよりお金」

「ああ、ほらよ」


 庄司に金を手わす根鳥。

 金額は5万。

 脅迫で手に入れた金なので、根鳥からすれば惜しくともなんともない。


「これで計画の第一段階は完了ってわけだ。で、次はハメ撮りだろ?」

「それがちょっと警戒心が強そうでな。それに彼氏に対してもまだ気持ちがあるみたいなんだよ」

「じゃあ少しづつ計画を進めていかないとね~」

「英美里からも言っておいてくれ。ハメ撮りぐらい誰でもやってるってな」


 根鳥の言葉に全員が大笑いする。

 屋上は生徒の立ち入りが禁止されているので、誰かに聞かれる危険もない。

 そう高をくくって、根鳥たちは思っていることを次々に口にする。


「相手の男は円城。恵がいつ完落ちして、そいつを振るのがいつになるか賭けでもするか?」

「いいね。一ヶ月以内に落とせたら5千円払う」

「俺は2か月以内なら1万」

「私はパス。賭けなんて不確実なことはしない主義なんだ」

「冷めること言うなよ。お前だって楽しみにしてんだろ、恵が落ちるのを」


 クスクス笑う庄司。


「ああいう真面目なのが堕ちていく姿、面白いよね。金の次ぐらいに楽しめるかな。でも賭けは別」

「んだよ。つれねえな。まぁでも楽しみにしてろよ。これからもっとグチャグチャにしてやるからさ」


 裕次郎と恵のことをバカにするような会話を広げる根鳥たち。

 そして根鳥は知らなかった。

 この会話を、彼女である星那が聞いていたことに。


「…………」


 屋上の入り口まで聞こえてくる根鳥たちの声。

 星那は息をひそめて、彼らの会話に耳を傾けていた。


「円城……?」


 全ての話が聞こえるわけではなかったが、裕次郎と恵の名前を聞きとることはできた。


 きっといつものことだ。

 また最悪なことを計画しているに違いない。


 星那は歯をかみしめながら、その場を後にするにであった。

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