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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

なびく

作者: 壱原 一

蒼天に白雲が眩しく、吹き渡る風になびく新緑が目に沁みるほど瑞々しい。


両側を延々の畑に、周りを山々に囲われた、一車線の罅割れた舗装路を、薄汚れた軽トラックに追い越されながら独りとぼとぼ歩いている。


巻き上げられた砂埃が、ゆっくり靡いて流れた先に、茂る木立へ埋もれ建つ立派な民家が窺える。


彼方あちらのお宅では先般、白黒縦縞の鯨幕と、縦の楕円の提灯と、無彩色の大振りな花輪が、静かに風に靡いていた。


以来、時おり見聞きしていた、無尽に三輪車を乗り回し、元気にはしゃぐ姿や声を、めっきり見聞きしていない。


進み行く視界の傍らに、見るともなく其方そちらを収めていると、視線のずっと上の方で、忙しなくカラカラと音がする。


強くもない風にひるがえり、絶え間なく煽られ続けて、軽い車輪の回る音が、微かに頼りなく鳴っている。


見上げると、金と赤色の、きらきら艶やかな矢車が、空に高々と立てられた、アルミの竿の頂で、吹き流しと鯉共を従え、誇らしげに日射を照り返し、風に巻かれカラカラ回っている。


足を止めて見入る間に、やおら増してゆく風を含み、黒と桃と青色の順に大小ならぶ鯉の3尾が、はたり、ぱたぱたと靡き出す。


直ぐにごうごうびゅうびゅうと極まる風の勢いに、矢車がカラカラと騒ぎ、鯉共がバタバタと跳ねて、黒と桃と青色が激しく入り乱れる合間に、黒と白と緑色と、少しの肌色が覗く。


時おり通り掛かる度、見付けるなり朗らかな大声で、こんにちは、ばいばいまたねと律儀に挨拶してくれた、黒色のふわふわした髪と、お気に入りの白いプリントシャツと、緑のズボンが良く似合った、小さな姿が垣間見える。


姿は此方こちらに背を向けて、竿に縄で留まる布の鯉のように、いとも軽やかに、滑らかに、柔らかく風に靡いている。


おっとりと手足を垂らし、俯きがちに此方へ背を向け、じっと、彼方のお宅を見下ろし、鯉共とバタバタ靡いている。


やがて、風が吹き止むと、最後の閃きの中に、姿はふぅっと掻き消えて、後にはカラカラ、カラリ、カラリと、矢車の惰性の音が残る。


再び風が吹く前に、通り過ぎたお宅の中から、最近、聞かれるようになった、元気な犬の甲高い声が、宥める家人の優しげな声と、一緒になって聞こえて来る。



終.

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