その5:新橋は世話焼き
「そういえば、昨日部屋の前に置かれていたワイシャツ」
「ん?」
「いつもより乾燥の質がいいじゃないか。風邪でも引いたか?」
「あ、いや…多分撫子が置いたんだと思う、けど。出来が悪いって怒られて、略奪されたから」
「撫子…ああ、鴉羽様の新米か。お前と仲がいいみたいだが、お前とは違って仕事ができるんだな」
「…てか、着替えもう届いてたの?」
「含みのある言い方だな。今まで通り部屋の前に置いてあったぞ。それが何か?」
「…私のワイシャツ帰ってきてない」
「お前、自分のも出来が悪かったのか?」
「撫子判定に引っかかった…」
「私のは雑にやっていることは分かっていたし、どうせ仕事ですぐ汚すからな。気にしてはいなかったが…お前は大問題だろ。自分の立場分かっているのか?」
「乾燥とか毎日する環境じゃなかったんで…機械に慣れていないだけだよ」
「これだから野蛮人は…言えば使い方ぐらい全員指導してやれるんだ。頼れ。お前はできるだろう」
「できないところを知られるのって恥ずかしいじゃん?」
「どこに羞恥心を見いだしているんだ馬鹿女。白藤とかでもいいだろ」
「昨日怒らせちゃってさぁ」
「どうせ鳩羽様とデキてるとかストレートに聞いたんだろ」
「何故分かる」
「適当に一番ふっかけたら不味い話を出したのに、なんで一番不味い話をふっかけているんだ。馬鹿か?馬鹿なのか?おつむが弱すぎやしないか?」
「よく言われる」
「言われるな恥さらし…」
新橋は椋が関わると頭がおかしい女だが、基本的には普通かつ一般常識と良識を持ち合わせている。
口が悪いが、技術力や面倒見はいい。
本人も気難しいので友達は萌黄だけだが、白藤や月白を含め、彼女を信用している籠守は多かったりする。
浅葱に声をかけているのも、新橋の心境としてどちらかと言えば嫌。
しかし、彼女の立場からして椋の近況を知っておいた方がいいのを理解している。
浅葱はまだ彼女のおかしい部分しかみれていないが、案外色々なことに目を配れる籠守なのだ。
「全く。お前、それでも激ムズの試験を通った籠守だろう」
「私、そういうの知らないよ?招集組だから」
「招集?」
「まあ大方知られているから新橋にも話しておくけど、これ以上朱鷺と椋がやらかすなら手を下せって命令と一緒に送り込まれたんだよね」
「あ〜、なるほどな」
「一応、最後に受けた試験では十一位だよ」
「家事成績が悪すぎて十位以内に満たなかったのか」
「そんな感じ〜」
「…楽観的に構えるな。頼れ。教えを請え。金糸雀様泣くぞ。お前の幼馴染だろう」
「くーちゃんは、私ができないことが得意!」
「例えそうでも今は主従なんだから。主に頼るなよ…」
「くーちゃんはそれでもいいと言ってくれるんだ」
「甘えるな!全く!お前は放置したらろくでもないな!私が面倒を見てやる!」
「げぇ!?」
「撫子や白藤では甘えるだろう。月白に差し出してもいいが」
「それだけは勘弁してください」
「私と月白、どちらがいいか選べ」
「…あんたで」
「賢明な判断ができる馬鹿で助かるよ。今日から面倒をちゃんと見てやる。立派な家事ができるまで逃げられると思うな」
「げぇ…」
その日から、夜になると浅葱の叫び声と新橋の怒鳴り声が響くようになった。
「違う!アイロンは一定方向にあてろ!左右に動かすな!右なら右!左なら左!」
「あいあいさー!」
その光景を、心配そうに白藤と撫子が見守っているのは…言うまでもないだろう。