その30:萌黄と翡翠の午睡
今日もなだらかに、一日が過ぎて行くっす。
繰り返し、繰り返し、何度も幸せだった時期の夢を見る。
けれど、いつしかその時間にも終わりはやってくる。
———ここを離れる時が来たのだ。
「くわー」
「翡翠様、すげぇ欠伸っすね」
「まあ、最後だしなぁ。これ以上何を出しても怒られはせんだろ」
「そうっすね。最後っすからね」
はじまりがあれば、終わりもちゃんとあるっす。
私達はこれをもって、終わりとするっす。
「しかし、なんか凄いことになっているっす」
「まあ「こう」なってからの方が本番だからなぁ…」
「何を持ってあいつが本番としているのかは私達には預かり知らぬところっす」
「儂たちには、無関係だからな」
「っすね〜」
そう。私達には無関係。
鳥籠が燃えていようとも、私達には無関係。
名誉の為に告げておくと、これを引き起こしたのは、私達じゃないっす。
けれど、私達にも少なからずきっかけがあるっす。
「さ、萌黄。そろそろ時間だ。儂たちが行くべき場所に行こう」
「そうっすね。じゃあ、いきましょうか、翡翠様」
「その呼び方はやめてくれ。儂はもう、役目を終えたんだ」
「じゃあ、以前と同じように…煤竹様。行きましょう」
「勿論。しかし、今更聞くのも何だが、萌黄はいいのか?」
「いいとは?」
「儂に、ついてこなくたって」
「行先は同じだろうが、同じじゃなかろうが…私は煤竹様のおそばにいたいっす。貴方は、私の人生の恩人なのですから」
「…儂の十六年は、少なからず人を一人救えた。無駄じゃなかったかもしれないな」
「私は煤竹様の求めた価値になりましたか?」
「なったとも。なにものにも代えられない…儂にとって唯一の価値。どうか離れてくれるな」
「勿論っす」
ごうごうと燃える鳥籠を背に、思うのはただ一つ。
こんな環境で、私の身分を知りながら友達になってくれた皆の無事。
この先に私達はついて行けない。
私達の終わりも、ここなのだから。
「いこう、萌黄」
「はいっす」
鳥籠は壊される。
疲れも痛みも感じなくなった身体で、私達は終わりの先へ駆けていく。
そして彼女達も駆けていく。
新しい未来を求め、過酷な外へ————。
後書き
…何か凄く中途半端な終わり方!
それは仕方がないことなのです。
彼女達が鳥籠で暮らす日々は、それが始まる日までのこと。
鳥籠の外に出て、諸々の問題を解決するのは、金糸雀、鳩羽、鴉羽、朱鷺、白鳥、瑠璃…そして翡翠の後。
雀、花鶏、椋の三人が、鳥籠と籠守の核心問題である「代替わり問題」「色鳥の支配がない土地への旅立ち」そして「かつて人が色鳥と交わした契約」に関わる話をすることになります。
彼女達が日常を過ごしていた鳥籠の日々は、翡翠の章で終わってしまうのです。
日常の終わりも、本編で行われる日常の終わりも、翡翠の章で迎えることになります。
さて、前置きが長くなりましたが、この一時の日常は本編の再開までのつなぎとしてご用意させていただきました。
カクヨム版の投稿分がなろう版の現状に追いつくまで時間が少々必要なので、なろう版での再開はもうしばらく後になるのですが、4月中に本編の再開を目指しております。
日常編では先行して月白・露草・花鶏・山吹の過去に触れさせていただきました。
新橋も彼女の内情に先行して触れさせていただいています。最終章のコンビが椋…真紅ってだけでも大概なのに、相方も一章で滅茶苦茶やらかしてる女ですからね。皆さんからみた新橋が「ヤバい崇拝女」から「普通にヤバいけど、話は通じそうな女」に印象が変わっていたらいいなぁって思っています。印象変わっていますかね?
それから、小豆や雀、白鳥も本編で出番が少なめだったので出番を書けて楽しかったです。
…というか、白鳥と雀に至っては、これを書いている時には未登場。
設定が上手く固まっていなかった二人は日常編で書いている間に人柄を掴むことができました。
日常編の目標として、できるだけ2000文字は越えない。短く纏めるをコンセプトにやってみました。
長文になりがちな私にはなかなかに難しい上に、越えてしまった回もあるのですが…ぎゅぎゅっと詰め込む練習にもなれましたし、雀と白鳥を掴めたり…この30話分は色んなものをくれました。
後は、得たものを糧に彼女達を終わりに送り届けるだけですね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
今後とも、鳥籠と籠守…十人の恩寵を受けし者と十人の籠守を見守っていただけたら幸いです。
…他の作品も見守っていただけたら、とっても嬉しいな!
それでは、一時の日常に幕を閉じ…再び「まだ」燃えていない鳥籠の中で、はたまた土岐山か、どこかの乙女ゲーの世界でお会いできればと思います!
ではまたどこかで!
2025年4月1日 鳥路




