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その28:早朝の白藤

白藤の朝は早い。


「…ん」


鳩羽の腕から抜け出したくない気持ちを抑えつつ、身を動かして起き上がる。


「…やだ、脱ぎ散らかしたままだった」


昨晩脱がされた服は無造作に置かれたまま。

お風呂には一応入った。

汗をかいたから、もう一度入りたいけれど…水浴びぐらいで我慢しなければ。

それから今日は月曜日。週一の集合がある。遅刻はできない。疲れも見せられない。

ああ、なんでこんな日に自分の欲に従ってしまったのか。

隣で眠る彼女は「明日大丈夫なのかな、白藤…」と心配してくれていたのに、大丈夫だとなぜ押し切ったのだろう。

全然大丈夫ではないのに…。

白藤の頭の中で色々なことが巡るが…最初にすべきことはこれではない。


「…おはよ、白梅」


隣で眠る鳩羽…白梅の口元から垂れるよだれを拭い、彼女の頬に唇を落とす。

それで白梅が起きたことは一度もない。

していることを告げたこともない。

それでも毎日行うのは、毎日自分を愛して、好きだと言葉にしてくれる彼女へのお礼。

そして自分も同じ気持ちであることを、伝えるために。

まだ正面で、言葉にする勇気なんて白藤にはないけれど…伝えたいことは多いのだ。


「…今日も好き」


たった一言なのに、心臓が運動直後の様に激しく動き、顔を紅潮させる。

これ以上は不味いと思い、白藤は布団を抜け出して…床に散らかしていた自分の下着を手に取った。


◇◇


制服をきちんと着用し、集合に使っている部屋で他の籠守が集まるのを待つ。

籠守長である彼女に遅刻は許されない。

籠守の中の籠守だと示すように、他の籠守の見本にならなければならない。


「はぁ…」

「よっしゃいちば…どもっす、白藤」

「おはようございます、白藤殿。今日も一番なんですね」

「おはよう、露草さん。浅葱。今日も早いわね」

「「今日は一番狙ったのに…」」

「籠守長として、皆の見本にならないとだから…」

「そういう堅苦しいところが、精神疲労を招くんじゃないか〜?」

「もう少し力を抜きましょうよ〜?」


「あ、貴方達は…力を抜きすぎではないかしら」

「そんなことないって」

「そんなことあるのよ。ね、露草さん。貴方その…物音が酷いって隣室の萌黄と撫子から抗議が来ているわよ」

「ん?ああ…すまん。花鶏激しいからさぁ。控えめにするよう躾けるわ」


「毎日盛ってるのか。猿め…」

「そういうなよ浅葱〜。これでも落ち着いた方だぞ、私は。激しいのは花鶏。花鶏なんだ。私は悪くない」

「ま、毎日は…猿なのかしら…」


ぼそっと呟いた白藤の言葉に、浅葱と露草は互いに目を向ける。


「…お前の失言で白藤俯いただろうが」

「わ、悪かったって露草殿…でも私どうしたら…」

「ここは私に任せろ。浅葱、お前は部屋の外で門番するのと」

「と?」

「撫子と萌黄へ、代わりに土下座しておいてくれ」

「…今回だけだぞちきしょー!」


浅葱は露草の肩を叩き、露草は白藤の隣に滑り込む。


「白藤、白藤…」

「な、何かしら」

「分かってはいたが、お熱いねぇ…」

「そうかしら。貴方達に比べたら…」

「こういうのは比べるものじゃない。比較してはいけないものって、あるだろう?」

「例えば、何かしら…」

「愛情、能力、そして人生」


露草は私の頭を撫でつつ、ゆっくりとした口調で語り続ける。

籠守の中では最年長。未踏開拓軍の隊長として大勢を率いた彼女は、人をよく見ているし、何が欲しいのかもわかるし…甘やかすのも上手だ。

少しの不満を抱いてもおかしくない環境で、彼女に着いていった浅葱や花鶏様は彼女を慕い続けている。

こうして関わると、彼女が慕われている理由にも納得がいく。


私では、こうもいかない。


私は、彼女のように柔らかい人ではない。

皆が言うように、堅苦しい側の人間だから。

でも、この生き方しかまだ知らない。

憧れたって、そう簡単に掴めるものでもない。


「…結局のところ人それぞれだし、人生なんて何があるか分からない。いいものだと思っていたら、急に生きる権利を奪われることだってある。これからずっと添い遂げると誓った大事な人も、一生の仲だと思っていた家族だって、明日にはいなくなる事だってある」

「…」

「今幸せでいられる人生って、いつ終わるかわかんないんだよ。そんな貴重な時間を、誰かと比較しながら生きるのは退屈だと思うぞ、白藤?」

「そう、ね。でも、私は…貴方達みたいに騒音の苦情が来たりとか、激しく愛することはできないもの…」

「あれは花鶏…蘇芳がうるさいからだよ。お前らみたいに静かな方がいいって」

「…私達、聞こえていないかしら」

「少なくとも隣室から苦情は来ていないだろう?ま、気遣われている可能性もあるけど、隣室って…」

「新橋と小豆…」

「その二人はうるさかったらうるさいって言ってくるだろ。大丈夫だよ、静かに出来ている。そこまで声が心配なら、ずっと口を塞いでしたらいい…」

「…詳しく」

「お、食いつくねぇ…いいぞいいぞ。ちょ〜っと鳩羽を悦ばせる情報を吹き込んでやろうぞ…先駆者はこういう時に活用すべきだぞ〜」


その後、かつて露草が実践した技術を叩き込まれた白藤は、週一の集合の時、終始顔を真っ赤にさせながら進行させたとか。


ちなみにだが、新橋と小豆は鳩羽の部屋で行われている毎晩のことを知っている。


小豆は「知られたくないことは誰しもあると思うわ!特に白藤さんは肩の力を入れすぎだから!鳩羽様と仲良くすることでほぐれるなら一番だと思うの!」と。


新橋は「まあ、あの二人はデキてると思っていたからな…。白藤の息抜きになっているのならノーコメント。聞き耳を立てないと聞こえないぐらいだし、睡眠には何ら影響はない」と述べた。


白藤も、知らないだけでしっかり慕われ、気遣われていることに気づくのは…そう遠くない話。

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