その20:成人組はお酒が飲みたい
籠守も恩寵を受けし者も実は十代が多め。
ああ見えて浅葱はまだ十九歳。
撫子は十六で、山吹と小豆は十七歳。
恩寵を受けし者の十代以下は五名。
十歳の朱鷺。十六歳の翡翠と雀。十七歳の白鳥。十八歳の瑠璃。
そして十九歳の椋だ。
大人達の間でも「こいつらはまだ誘えない」という共通認識が存在する。
常識が壊れていても、ルールは守る倫理観は存在している。
「はい、金糸雀。この場では、こっちね」
「もちろん、貴方もね鳩羽」
「ああ。本名で祝うのはまた後日。改めて、成人おめでとう」
「ありがとう」
二十代の集い。
その中に今日、新しいメンバーが追加された。
四月に誕生日を迎えた琥珀だ。
彼女はもう、二十歳を迎えている。
そんな彼女に悪いこと…もとい、大人の世界を教えようと、鳥籠に巣くう悪い大人達は声をかけた。
そして今日。
成人祝いという名目で、お酒を飲む場を設けたというわけである。
「浅葱はついてこようとしなかったかい?」
「お酒を飲むから、ついて着ちゃだめって言ったんだけど…」
「カルペスだけしか飲んじゃダメって条件で同行を許して貰いました。露草殿がいると聞いたらそりゃあ黙っちゃいない」
「まあ、あれをみたらね…」
「仕方ないね。全く、人目がある場所であんなことが出来るとは」
「あの人いつもそうなんですよね。酒飲んで出来上がったら誰彼構わず抱き始める。性的な意味で。部屋に戻ったんで、すおっ…花鶏様とハッスルしてる頃でしょ」
「君は妙に淡々としているね…」
「そりゃあ、慣れですよ慣れ。それに軍には他にも同系統がいました。生存本能と種の保存に駆られた人間達の盛りを私は長年傍観してきましたので」
「悟りを開いてしまったと」
「そんなところです。鳩羽様も冷静ですね。如何様で?」
「そりゃあ僕も白藤と毎日」
「はとば」
「…おっと、これ以上はノーコメントだ。済まないね、浅葱。僕はまだ白藤に刺されたくはない。僕も部屋に戻るよ。こういう場でしか作れない関係もある。楽しむといい」
「「おあついこって…」」
白藤と腕を組んで部屋に戻る鳩羽の背を見送り、その後、一口だけ用意された飲み物を口に含む。
浅葱は約束通りカルペス。琥珀は鳩羽に用意して貰ったリンゴサワーだ。
口の中に広がる、リンゴの風味とシュワッとした感覚。
初めてだけど、初めてじゃないような。不思議な感覚だ。
「なんか、りんごジュースの炭酸版を飲んでいる感じ」
「へえ…飲んでいい?」
「あーちゃん、約束」
「そりゃあ残念」
「…金糸雀様の言うことはちゃんと聞くじゃん、浅葱」
「こいつはいつもそうだぞ」
「東雲と新橋もいたんだ。御主人様は?」
「「寝かしつけてきてから来た。たまには酒も飲みたいんだ」」
「やけ酒は良くないぞー」
瑠璃は病気の発作が最近多い。椋に至っては言わずともしれている。
そんな二人の専属を務めている東雲も新橋も、他に任されている仕事が存在する。
東雲は色鳥社の諜報活動、新橋は鳥籠の整備。
かなりの負担になっているようで、最近は遊んでくれる時間も割と少なくなっている。
「そういえば、新橋。保護者は?」
「萌黄のことを保護者って言うな。萌黄は元々酒は飲まないから、誘っていない」
「なんか意外。「ぷぺー。ビールうまいっす!」とか言ってそうなのに」
「あ、なんか分かるかも。言ってないの?」
「人のことを何だと思っているんだお前達は…」
「ぷ…」
三人の様子を見て、琥珀はついつい吹き出してしまう。
別に萌黄関係が面白かったわけではない。
浅葱が楽しそうに笑えているから、見守る琥珀は嬉しくなる。
笑えるようになったのはつい最近。表情が動かない呪縛が浅葱から取り除かれるのも、もう少し。