その19:瑠璃様の無くし物
「しののめあそぼー」
「あそんでくれー」
「なんで翡翠様いるの…?」
一方、東雲と瑠璃の元に駆けていった浅葱と翡翠。
その二人と対面した東雲はヤバい物を見た時のように顔をヒクつかせる。
それを面白がった瑠璃は東雲の背後に歩みより…ぼそっと彼女に呟くのだ。
「これでは逆らえませんわね、東雲?遊んでらっしゃいな」
「瑠璃も遊んでくれないか…」
「翡翠…!?」
「と、申しておりますが。瑠璃様どうです?」
「私だけじゃ飽き足らず、瑠璃様まで巻き込むのか、あんたらは…」
東雲と一緒にいた瑠璃にも翡翠が声をかける。
まさか自分も声をかけられると思っていなかったらしく、瑠璃の顔はちょっとだけ緩んでいた。
けれど、返事は申し訳なさそうに…俯きながら紡がれる。
「わ、私は…その…持病の事がありますから、走ったり、とかは…」
「儂にそんなことができる体力があると思っているか…?」
「ないんですの!?」
「ない」
「悲しいことを言わないでくださいまし…」
「てか、私はこのポンコツがなくした薬を探して歩き回ってるところだから遊べないし…」
「ポンコツいわないでくださいまし!?」
「いや、事実ポンコツでしょ」
「薬をなくすのは擁護できんぞ…」
「そういえば、出会った時も医務室にいましたね。何かご病気なんですか?」
「浅葱には話していませんでしたわね。私は生来、空気が悪いところにいると咳が止まらなくなる病気を持っていますの」
「瑠璃様がなくしたの、その発作が出た時に飲む薬」
「なんちゅうもんなくしてんですか」
「儂でも痛み止めはなくさんぞ…。しかし困ったな。薬がないと瑠璃は咳き込んで死んじゃうな」
「流石に死ぬことはないと思いますわ…翡翠…」
「でも、早めに探した方がいいのは確かですね。私も手伝うよ、東雲」
「助かるよ、じゃあ瑠璃様の匂いを追って、薬探してきて」
「東雲は私の事を犬だと思っているな…?できるけど…」
「できるんだ…冗談で言ったのに…」
「できるのか、流石は浅葱だな」
「ま、まるで犬ですわね…ひょあっ!?」
浅葱は瑠璃のスカートを掴み、足から腰元にかけて匂いを嗅ぎ…覚えていく。
「すんすん」
「きゅ、急にスカートを掴まないでくださいまし!」
「薄い匂いは覚えました。次は濃い匂いの胸元と首元を」
「さ、流石にそれは…」
「…薄い匂いでやりきってくれる?」
「え、でも匂いのサンプルは多い方が」
「後で金糸雀様の隠し撮りポラロイドやるからさ」
「のった」
スカートから手を離し、浅葱は床の匂いを嗅いで瑠璃の痕跡を探していく。
「なあなあ浅葱。わかるのか?」
「ええ。鼻は犬並みに利く部類なので。瑠璃様の匂いに混ざって薬の匂いが強いところを探せば…すんすん。すんすん」
「ほわぁ…ほわぁ…」
浅葱の様子を変な声を出しながら追いかける翡翠。
それを、二人を追いかけ合流した萌黄と新橋がしばらく眺めた後、一瞬で首を横にした。
私達はなにも知りませんというように。
勿論、当事者である瑠璃と東雲も少しだけ密談を行う。
「…東雲、犯罪ですわよ」
「…あんたの名誉を守ったじゃん。いいの?首筋の臭いを嗅がされた時に、浅葱に“虫刺され”見られてもさ…」
「くっ…虫刺されでやり過ごすつもりでしたわ」
「鳥籠には虫一匹いないのに?」
「貴方がつけたものじゃない。責任ぐらいとってくださいまし…」
「やなこった」
「ほんと、無責任な女…」
「すんすん。すんすん…あれ?」
「どうしたんだ、浅葱」
「いや、瑠璃様と薬の匂いが混ざった感じの匂い、東雲からするなと」
「まあ、私が薬持ってるからね。そりゃするでしょ」
浅葱の疑問に、東雲が素早く答えを返す。
懐から取りだしたのは、確かに瑠璃の薬。
探していた、薬である。
「しののめ…?」
「私に預けたこと忘れて、なくしたって騒いでさぁ…そういうところも面白いんだけどさぁ…」
「東雲ぇ!」
瑠璃が顔を真っ赤にして東雲に講義を入れるが、等の東雲はそれを気にすることなく、自室へと走り去る。
走れない瑠璃はこの場にいる全員に礼を告げた後、早足で東雲を追いかけた。
「大丈夫だ瑠璃。儂も萌黄に預けたこと忘れる事はしょっちゅうだ」
「…くーちゃんのポラロイドは?」
二人の言葉は、瑠璃と東雲には届かない。
後日、浅葱が東雲を捕獲し、金糸雀ポラロイドを回収することになるのだが、別の話としておこう。




