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その18:萌黄と新橋

「新橋〜。サッカーやろうぜ〜」


腕を怪我した浅葱ができる遊びは限られている。

腕が使い物にならない現状で、できることは足遊び。

今日もまた、いつもの遊び相手に声をかけにかかった。


「私はもう、サッカーをやめたんだ…」

「フレイムトルネードやってよ、新橋〜」

「やってくれやってくれ〜」


「なんで翡翠様が混ざっているんだ…!?」

「だってそこでお散歩してたから…」

「そこに儂がいちゃったからな。ほれ、新橋。ふれいむふれいむ」

「あああああああああっ…」


何度も言うが、籠守は基本的に恩寵を受けし者からの命令には逆らえない。

犯罪や尊厳を犯す真似は流石に拒絶していいが、基本的には果たさなければならない。

それは自分が専属で仕える相手以外にも、同様である。

恩寵を受けし者の間に差は存在しない。


「無理しなくていいっすよ、新橋。腕に響くでしょ…」

「大丈夫だ。もうひっついている」

「でも三角巾とさようならできてないっす」

「飾りだよ!」


心配そうに腕に触れようとした萌黄の手から逃げるように、新橋は数歩後ろに下がる。

しかし萌黄も諦めない。


「でも昨日、お医者さんに見て貰った時はまだ安静だったじゃないっすか」

「なんで萌黄殿はそれを知っているんですか」

「昨日、病院イヤイヤ期の新橋を病院まで連れて行ったからっすね!」

「あんた大人だろ…病院イヤイヤするなよ。ガキじゃあるまいし…」

「いくつになっても病院は嫌なんだ!」


「新橋は鳥籠の設備全般のお医者さんなのに、自分がお医者様にかかるのは嫌がるっす」

「医者じゃない。籠守になる前、私は技師枠で採用された整備士をしていた。医者ではけっしてない」

「私からしたら差はないと思うっす。物のお医者さんなのには変わりないっす」

「大きく差がある!」


「具体的な差は?」

「生体と機械の差」

「新橋は両方出来るっすか?」

「いや、別に…先生みたいには…。私は機械だけだ」


「でもこの前、新橋の工房に女の人が…」

「ああ、身体の一部を機械化した人だよ」

「新橋、人間治してるっす!」

「私が直しているのは機械部分だ。生身のところにはノータッチ」

「でも人を治しているから、新橋はお医者様っす」

「…そう、だろうか?」

「照れてるっす」

「萌黄!」

「ははー。事実を述べただけっすよ〜。新橋はもっと凄いことを自覚すべきっす」

「…ふん」


先程まで一緒にいた浅葱と翡翠はフレイムトルネードの事を忘れ、偶然通りかかった東雲に襲撃をかけていた。

二人はそれを追いかけるように、ゆっくりと足を進める。

保護者がいないと、あの二人は止められない。


「新橋は素直じゃないっすねぇ」

「元々だ」

「友達増えたのに」

「増えてない」

「未だにつんけんして」

「してない」

「私がいなくなった時のことも考えないと」

「そんなこと、考えた事はない」


「私は新橋より早く死んじゃうかもっすよ」

「そんな事言うな。老後まで唯一の友達でいろ。私が友達なくすだろ」


「もういっぱいいるじゃないっすか」

「…萌黄がそんなことを言っている間は、私の友達は萌黄だけだ。死ぬかもとか言わなくなったら、浅葱と東雲も友達扱いしてやる」


もう思っているくせに、なんて萌黄は言わない。

これ以上は、無粋だから。


「わかったっす。もう言わないから、自分に素直になって欲しいっす」

「はいはい。また今度な」

「あ、ずるいっす!ちゃんと言わないって言ったのに!」

「いつ言うかは定めていないからな。ちゃんと長生きしろよ、萌黄」

「むっー!」


萌黄の抗議を受けながら、新橋はいつにない笑顔を浮かべる。

無邪気な子供のように、二人の時間は過ぎていく。

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