その17:小豆の一日 そのご!
あれから三日。
三日間、放心し続けて何も聞く耳を持たなかった小豆さんは遂にいつも通りに戻ってくれました。
ただ、放心していた三日間の記憶はないようです。
このまま仕事に行くと、張り切って部屋を出ましたが…よかったのでしょうか。
私は、とても心配です…小豆さん。
◇◇
模擬訓練から三日。
浅葱の右腕は綺麗に折れていたみたい。
雀様の話だと、私…自分で自覚していないだけで、かなり力があるみたいなの。
…今までよく無事に暮らせていたわね。主に周囲というか山吹。
何度も肩を叩いたり、驚かせるために背後から抱きついたりしたけれど…肋骨とか負ってないかしら。
心配になってきたわ…。
「おはよ、小豆ちゃん」
「あ、ああ!おはよう、山吹!体調は平気!?どこも痛くない!?」
「どこも痛くないけど…」
「山吹は頑丈なのね。小豆、安心したわ」
「?う、うん。ありがとう…?」
朝、いつも通り挨拶を交わした山吹はいつも通りだった。
よかった。大事な親友はまったく傷つけていない様子ね。
問題は…。
「よ、浅葱。うわ、お前私とお揃いにするなよ」
「好きでお揃いにしたわけじゃないんですけど」
「まあ私はもうすぐ三角巾とお別れなんだがな〜」
「自慢乙〜。調子乗ってるともう一回折るぞ」
「椋様のお世話に影響が出るからやめろ」
「クソ姉貴はションベンの大海に沈ませておいていいよ。家族が許す」
「都合がいいときだけ家族面するなよ。でも昨日は色々あっただろう?その…なんだ沈めてしまっていてな」
「…今度ポラロイド買ってくるから大海に沈んだ記念の写真撮ってよ。くーちゃんの権能で近づけないとはいえ、夢にたまに出てくるんだよね。そんな夢のクソ姉貴除け…げふんげふん。魔除けに使うからさ」
「本当に悪趣味だなお前は」
「あんたほどじゃないって」
やっぱり、浅葱よね。
あの後、謝罪はしたけれど…私の中の罪悪感は全く消えていないもの。
どうしたらいいのかしら。
浅葱は…あの様子じゃ気にしていないわね。
廊下で会った新橋と仲良く三角巾コンビとして絡んでいる。
それに東雲が珍しく関わりに行っているわ。
東雲は今まで一人で過ごしていたけれど、浅葱と新橋と一緒に遊ぶようになってから、あの二人とはよく関わるのを見るようになったのよね…。
「はよ、二人とも」
「おはさんです、東雲殿」
「はよ、東雲。どうした?何か気になることでもあるのか」
「…新橋、大分丸くなったよね」
「それは東雲もじゃないか?今までは一匹狼を気取って、誰とも関わろうとも」
「まあ、話し合う人とかいないし、それなら一匹狼の方が気楽じゃん」
「ぷすす…一匹狼を自称するのは痛いっすよ、東雲殿…ぷすす」
「それ厨二病って言うんだぞ。痛いな、東雲」
「浅葱、新橋。あんたらみたいな存在どころか頭が中学二年生の連中がいるから関わり合いとかやめたくなるんだけど」
「でも東雲殿駒回しで喜ぶじゃん」
「缶蹴り本気出すじゃないか。そういうのは初等生で卒業しろ」
「その言葉、ノリノリでやってくるあんた達二人にお返ししてやるわ…」
精神お子様トリオは前方に控えていた露草と月白を交え、何やら悪い計画を立てている様子。
ふと、浅葱の視線が私の方へ、背後へ向いた。
気まずくて、目を逸らしそうになるけれど…私はあえて、彼女をじっと見つめた。
「小豆、山吹。おはよー。今さー、籠守の缶蹴り大会の計画してんだけど、二人もやらない?萌黄殿を鬼に仕立てて接待するから普通の缶蹴りだよ」
「それなら…参加、してみようかな。小豆ちゃんは?」
山吹は浅葱の先にいる存在———露草に目を向けながら、前へ進んでいく。
山吹は、気まずくても進める。
怖くても、変わることを受け入れて、前に進んでいく。
その姿に、心を打たれないわけがなかった。
それに、立ち止まっていたら…雀様にも山吹にも顔向けできないわ。
私は私。私らしく、胸を張って前を進まなきゃ!
「是非参加させて貰うわ。後誘っていないのは?」
「なでしこー」
「なら浅葱が誘った方がいいんじゃない?撫子、喜ぶと思うわ」
「だよね〜。撫子私大好きだからね〜」
「心配で目を離せないだけだろ」と新橋。
「何しでかすかわからないから目を離せないだけだと思うけどね」と東雲。
「お前は目を離したらすぐ奇行に走るから心配なんだろうな」と露草。
「私の方が好きよ」と月白。
「月白さんは何を仰られているんですか…?」と山吹。
その光景を眺める中で、自然と笑みが零れる。
私のとある一日の記録は、ここで終わりにしよう。
数多の経験と時間を積んで、私は育っていく。
これはほんの一幕。小豆の人生は、これからも続いていく。
私と、籠守達の愉快な日々は、これからも!




