その15:小豆の一日 そのさん!
朝九時。
週一の集合を終えた私は雀様と合流し、衛兵達の聞き取りを開始する。
「ここ最近の訓練に関する質問」
雀様は予め質問内容を色々と用意していたわ。
けれど…。
「居眠りしたら、投石された」
「小豆、それは至極当然だと思う…何で訓練中に居眠りした事を自己申告するの?減給処理しとくね…」
「「模擬演習の時に、お互いに武器が当たった後、笑い合ったら発砲された…」」
「緊張感が足りないからだな…。模擬の意味が分かっているのか、お前達。解雇するぞ」
他にも、なんというか…制裁が飛んでくる理由が当たり前すぎる話ばかり。
流石の雀様も最後の方は頭を抱えて、問いかけの合間合間にため息を吐いていた。
流石にこの体たらくとは思わなかった。
浅葱と露草…それから以前未踏開拓軍に属していた花鶏様がキレ散らかすのもわかるわね。
外では命懸けなのに、内側の…要を守る存在がこの体たらくだもの。
全員の聞き取りを終えた後、雀様は机に伏せってしまう。
誰もいないし、こうなるのも仕方ないから…しばらくはこのまま。
「ここまで酷いと思いませんでした…」
「お疲れ様です、雀様…素が出ていますよ」
「今はお許しを…あの性格は、疲れますから…」
「わかりました。お茶を用意して参ります!しばらくゆっくりなされていてください」
「ありがとう、小豆さん」
「小豆は籠守ですよ。さん付けは不要です」
「流石にそれはできませんよ…」
「自分のメイドさんにもしていたんですか?」
「はい。身の回りのことを私の代わりに行って頂いているのですから…」
本当に雀様は育ちのいいお嬢様。
一般家庭に生まれた私が一生関われるような存在ではないだろう。
高嶺どころではない、天上の花。
守られることが当たり前で、何もせずただ椅子に座っていても許されそうな彼女が、今は人を守る人達と密接に携わって仕事をしているなんて、何があるかわからないものね。
まあ、育ち故にかなり無理をしているようだから…その当たりが負担になりすぎて、爆発しないように気を遣う必要はあるわね。
お茶と一緒にお茶菓子も用意して、部屋に戻る。
「雀様。お茶のご用意ができました」
「ありがとうございます。あら、これ…」
「マカロン。雀様、お好きでしょ?」
「…ええ!ありがとうございます、小豆さん」
甘い物は疲れた時に効果的!
でも、あのマカロンってお菓子…甘すぎないかしら。
雀様は他にもマシュマロとか、なんなら「みっともないから」って理由で隠しているつもりだけど、角砂糖をそのまま食べるのが好きだったりするお砂糖モンスターなのだ。
…私は雀様のメンタルもだけど、血糖値も心配よ。
それから書類を纏めた後、午後からの訓練に参加するため…まずは食事を摂ることにする。
その頃になると、雀様のメンタルも回復して、表向きの性格を再び作り出してくれていた。
「…なあ、小豆。いつも思うんだが…お前の食事は淡泊すぎないか?」
「いい身体を作るには、いい食事からですからね。ここは小豆ではなく、大豆です」
「確かに小豆はスレンダーで、筋肉もあって…なんというか、憧れる、けれど」
「ありがとうございます」
「しかし、それは必要なものなのかと考える事も、少なからずあって」
「そうですね。確かに不要なものかもしれません。自分を美しく見せることは手間も時間もかかりますし、維持するのも大変です。けれど、小豆は今の自分になる課程で、自信を身につけました」
「自信…」
「小豆は小豆に自信があります。それは今までの小豆が培ってくれた努力で成り立っています」
「うん」
「これからも自信を抱き続けるために、明日の小豆が自信を持って過ごせるように、今日の小豆は努力を怠りません!」
「…かっこいいな、小豆は」
「そんなことはありませんよ。小豆は小豆にとって必要な事をしているだけですから」
「自分で決めたルールを自分の意志でこなし続ける…私はそれをとても凄いと思いますよ。小豆さん…」
「あ、雀様。大衆の前で素を出すのはダメだと二人で決めたルールに違反しましたね!」
「今回だけ、今回だけは素の自分で言いたかったんだ!甘く判定してくれないか?」
「しょうがないですね。今回だけですよ!」
こういうのは雀様の為にも律するべき事象。
でも、褒められて嬉しくない訳じゃないから…。
今だけは、今だけはこれを、真っ正面から享受しよう。