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その12:猟犬と悪食

鳥籠の襲撃事件から数週間後。

知らせを受けて一時帰還した恩寵を受けし者…花鶏は月白からとある依頼を引き受けた。


花鶏と共に作戦に参加するのは花鶏の専属籠守ある露草と、金糸雀の専属籠守である浅葱。

侵入者を許してしまった、気の緩んだ衛兵達。

そんな彼らの訓練に、本日より化物が教官として着任することになってしまった。


「内部ってこんなに緩いんですね〜」

「まあ、危険ってほとんどないし…鳥籠に襲撃をかける馬鹿も本来はいないしな〜」

「本来はね、本来は。でも「いない」とは言ってないから〜」

「…」


未踏開拓軍出身の三人が和気藹々と語り合う中、地獄のような訓練を続ける衛兵達を金糸雀は恐怖の眼差しで見下ろす。


「そこ、休んでいいとは言ってない。立て。寝たら死ぬぞ」

「ひぃっ!?」

「あーちゃん、なんでサボっている人がいるのわかるの…お菓子に夢中だったじゃん…」

「長年の経験だよ。くーちゃん、お茶のおかわり、ちょーだい」

「はーい」


「それで淹れてやるとか優しいな、くーちゃん。本名は琥珀ちゃんだっけ?」

「そういう露草さんもさりげなくカップを私の前に出さないでください…淹れますけど」

「露草殿、私のくーちゃんにお茶淹れさせないでください。あんたのはあっちです、あっち」


「え〜。蘇芳は今部下の躾に忙しいからさぁ〜ごめんな〜。あ、くーちゃんもごめんな。浅葱、独占欲強くて面倒だろ?」

「いえ、私はあーちゃんに求められて嬉しいですし…」


「…お熱いな。ヤったんかお前ら」

「やっ…!?」

「あんたじゃないんだから、すぐに手を出すわけがないでしょう。段階を踏みますよ」

「あーちゃっ…!?」


「その気はあるのかぁ…手ほどきは?」

「必要ない。私はリードされるより、手探りの方が好きなんだ」

「あ、あーちゃん…その…そういうのは」

「ああ。大丈夫だよ、くーちゃん。目の前にいる女は夫を失った悲しみを性欲で塗り替えることしかできなかった哀れな女。経験人数は三桁。こういう話にオープンなんだ。むしろこれが日常会話って言うか」

「これが日常会話ってどうなっているの…」


琥珀の疑問も当然と言えば当然。

未踏開拓軍。露草の夫だった青磁や弟に相当する蝋も強者であったのだが、死んでしまうような環境。


そんな中で生き残っている連中は、大体どこかおかしい。


浅葱のように明確に目的があり、それを成す為にしがみついた面々。

露草のようにそれしか選べなかった面々。

蘇芳のように未踏開拓軍に属することが最善だった面々。

いろんな境遇はあるが…とにかく、未踏開拓軍のネジは基本的にぶっ飛んでいる。


「浅葱、食われてないの…?うちの露草に…」

「拒否しつづけたんで…。まあこの女はその手の事に困らなかったようですから、私一人抱かずとも平気だったでしょう。強いて言うなら、旦那さんかわいそっ…ってぐらいで」

「それは置いていったあいつも言えると思う」


「それはうちも分かる。蝋君に置いて行かれたし。後露草、うちがいながら不特定多数ってどういうこと」

「お、お前…恩寵を受けし者に選ばれたじゃん。そう簡単に会いにいけるような」

「うちはずっ〜〜〜〜〜〜〜っと!露草に籠守になって欲しいって依頼してた!それを拒否してたのは露草!」

「だ、だって…少なくとも青磁と蝋を始め、未踏開拓軍に数多の戦死者を出した狼型の活動エリアを割り出す必要はあったし…人員の補充だって、昔みたいに戻すのはかなり大変だったんだぞ」


「それで、うちを待たせただけの成果はだせたの?」

「まあな。青磁を食いちぎった方はやっと巣を割り出せた。やっと…仇が取れる」


今までぷんすこ怒っていた花鶏も、その情報を聞けば怒りを収める。

ずっと、生き残ってから。二人の夢だった。

蝋の仇は露草がとった。

あの場で生き残っていた面々の中で、狼型の動きについて行ける軍人は露草だけだった。

彼女の中にいた子は犠牲になったが…その代わり、未踏開拓軍は全滅せずに済んだ。


しかし青磁を始め、大勢を食いちぎった狼は戦線を離脱し、行方を眩ませ続けていた。


花鶏が鳥籠に入った後の九年間。

露草は生存者や浅葱達新人を育成しつつ…準備を進めていた。


全ては未踏開拓軍最大の壁を破るため。

そして、夫と仲間の仇を果たす為。


「露草が青磁さんのこと、本気で好きだったのは知ってるけど、何か複雑」

「だろうなぁ…でも、狼型を殺すのは、けじめみたいなものだよ」

「けじめ?」

「私は、あの一件でもう子供を成せなくなった。自分も後追いで死にたくなったのを、救ってくれたのは青磁じゃなく…お前だ、蘇芳」

「…」

「狼型を殺して生き乗った後、私は何も考えていない。でも、どうせなら次を考えたいだろう?その時に思いつくのが、お前との余生だよ」

「も、もうっ…露草。こんなところでうちにプロポーズなんて…」

「事実プロポーズだな。これが終わったら、私と一生を過ごしてくれ、蘇芳」

「きゅっ…も、もう…大胆なんだから…勿論。一生ご飯に困らない生活させてあげるから〜!」


腰をくねくねさせる蘇芳を横目に、浅葱はズズっと紅茶を飲む。


「ほんま、おあついでんな…」

「あーちゃん、紅茶熱かった?」

「いや。空気がね…」

「そう?今日は過ごしやすい気候のような…」


二人の空気を浴びつつ、浅葱は空を見上げる。

ああ、今日も暑いな。

優しい陽光に目を細めた後、浅葱は訓練中の衛兵達に…居眠りをしていた衛兵に向かって石を投げる。


「死にたい奴から前に出ろ。的にしてやる」

「だからなんでさっきまで別方向を見ていたのにサボっていた人がわかるの、あーちゃん…」

「訓練の成果だよ」

「そんな訓練、私知らない…」


琥珀の疑問を横に、浅葱はサボっていちゃつき続ける上官達へ舌打ちをした後…訓練の様子を見守る。

琥珀はそんな浅葱に寄り添いながら「手加減してね」「本当にあてちゃだめ」「暴力したら絶交」と言い聞かせつつ…とある昼下がりを過ごしていった。

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