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その11:山吹の悩み事

二人は椅子に腰掛ける。

それからしばらくして、山吹は淡々と悩みを語り出した。


「実は私にはかつて兄がいました」

「お兄さん、ですか?」

「はい。名前を青磁せいじといいまして、両親を失った後、私を親戚に預けて、給金がいい未踏開拓軍に属し、日夜戦い続けていました」


「…どうしてまた」

「私を、色鳥社の学校に入れるためです」

「学舎の入試を受けられる十二歳まで、時間がなかったのですね」

「はい。両親の遺産はほとんどなかったので…兄は危険だけど手っ取り早くお金を稼がないと…と、当時は焦っていたらしく。周囲が止める中、未踏開拓軍に入隊したそうです」

「…」


「…そこで、お嫁さんも見つけてきたんです。その人物が露草。未踏開拓軍の悪食隊長…今、花鶏様の専属籠守を務めていると聞いています」

「花鶏様の…世間は狭いですね」

「私も、そう思います」


「でも、貴方にとって露草さんは義理ではあるけれど、お兄さんのお嫁さん…家族に相当しませんか?」

「そう、なんですけど…あの人は兄が死んだ作戦で、兄の子を…流産していまして。妊娠も分かっていたのに、前線に繰り出して…」

「事情があったと思うんです。お兄さんが死んでしまう作戦だったんでしょう?彼女が前線に出なければならない事情が、あったんだと思います」

「でも、分かっていたなら引っ込んでいたら…」


「…私には、当時の彼女達がどういう状況におかれていたかはわかりません。でも、未踏開拓軍の隊長を担うような女性が、夫や仲間が次々と倒れていく環境でじっとしていることはできないと思います」

「でも…」

「それに、自分が動かなければ、全滅の可能性もあったのではないでしょうか」

「全滅…」


「山吹。私に言えることは、露草さんの事情も聞いてみてほしい。ただそれだけです」

「…そう、ですか」


山吹の顔はまだ暗く、白鳥もどうしたものかと思案する。


白鳥にとって、山吹は特別な存在だ。

かつての自分のように、容姿に自信を持っておらず…。

けれど、自分とは違って心は美しく、誰隔てなく優しくて、思いやれる人。


白鳥にとって、山吹は目指すべき憧れのような存在。

そんな彼女がぶつけた悩みは、人との接し方の悩み。

できれば解決したいが…彼女の不安はなかなか解消させることができない。


でも、できることはしたい。

山吹には、不安げな顔は似合わない。


「とりあえず、鴉羽の書庫へ行きませんか?」

「鴉羽様の、ですか?」

「そこで未踏開拓軍の作戦記録を探しましょう。その作戦で何があったのか、知らないままでは話になりませんから」

「…そう、ですね。何も知らないままでは、いられませんから」


「私も手伝います」

「そんな。白鳥様にそんな…」

「私がしたいからしているんです。協力させてください、山吹。貴方が不安だと、私も不安…」

「白鳥様?」

「あ、いいえ。貴方が困っている時、支えるのも主人としての役目ですからね」

「ありがとうございます、白鳥様」


主としての振る舞いを崩さず、白鳥は山吹の手を引いて…鴉羽の書庫へと向かう。

二人が露草の事情を知り、「どうするべきか」答えをだすのは…また別の話。

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