その10:山吹の憧れ
こんにちは。私は山吹。白鳥様の専属籠守をしています。
「山吹、お茶をお願いしてもいいですか?」
「勿論です!お持ちいたしますね!」
鈴の音の様に優しく、穏やかで上品な声。
私が仕えている恩寵を受けし者の一人、白鳥様はとても麗しいお方だ。
新雪のように穢れのない純白に、淡雪降り注ぐ空のような灰色の目。
陶器の様に美しい肌に、どんな衣服でも自分に着せるプロポーション。
そして何よりも、私や周囲にも優しい心!
横暴な恩寵を受けし者が多いと聞いてはいましたが、私はここに勤めてからずっと白鳥様にお仕えさせていただいています。
最初からこんなお優しい方に巡り会えた喜びを、どう表現したらいいか分からなくなります。
それほどまでに、白鳥様は主として至上の存在。
仕えることができ、本当に良かったと思っています。
「どうぞ、白鳥様。本日はハーブティーにしてみました」
「そんなお茶があるんですね…」
「ええ。美容効果もあるそうです!」
「お茶一つにそんな効果が…」
「とても飲みやすかったですよ」
「そうなのですね…」
流石に初めてのもので躊躇をしていた白鳥様に、味見をした時の乾燥を伝えると…白鳥様も安心したようで、微笑んでくれた。
「ありがとう山吹。いただきますね」
「ええ、是非!」
お茶一つ飲む姿も麗しい。
指先に至るまで洗練された動きが、白鳥様の美しさを際立てている。
ここまでの所作を身につけるのに、どれほどの努力と時間を有したか、私には未知数。
でも、血が滲むような努力をされたに違いない。
ただ美しいだけではない。そんな人間ならどこにだっている。
私が白鳥様を尊敬するのは、ただの美しい人ではないから。
強く、優しく、美しい。自分をそう見せるための努力ができる素晴らしい人だから。
私の唯一の家族…青磁お兄ちゃんによく似た精神を持つその人は、私の憧れだ。
「貴方の言うとおりですね。凄く優しい味」
「気に入っていただけましたか?」
「ええ。でも、貴方が淹れてくれたから優しい味になると思うんです」
「そんな…恐れ多い」
「恐縮しないで。事実、山吹が淹れてくれるお茶が一番美味しいと私は思います。優しい貴方が、私の事を考えながら淹れてくれるお茶が」
「そ。そんな…」
白鳥様に褒められるのは素直に嬉しい。
彼女に喜んで貰えるようにできることはやってきた。
その努力が報われた気がして、ほっとするのだ。
「確か、お茶の教室に通っているんですよね」
「ええ。白鳥様に喜んでいただけるよう、美味しいお茶を淹れるために!できることをしたくって!」
「いつもありがとう。そういう山吹の優しさがあるから、私も貴方に誇れる自分でいなくっちゃって、頑張れます」
「し、しろとりさまっ…!」
「これからもお互い、頑張りましょうね」
「勿論です!山吹、誠心誠意勤めさせていただきます!」
「私も、貴方の自慢でいられるように頑張るわ」
「私の自慢、ですか?」
「ええ。優秀で努力家で、素晴らしい籠守である貴方が「あんな恩寵を受けし者に仕えているだなんて」なんて、言われたくありません。素晴らしい貴方が誠心誠意仕えるのも納得される恩寵を受けし者になりたいんです」
それはこっちの台詞だ。
私みたいなそばかすと赤い湿疹まみれの女が、貴方みたいな才色兼備な素晴らしいお方に仕えているだなんて…と言われることは今も多い。
周囲に「白鳥様に仕えているのも納得」な籠守になりたくて頑張っているのに…これ以上素晴らしくなってどうするんですか?
でも、生きている限りは追いかけることができる。
頑張ろう。今度は、追いついてみせる。
おいてはいかせない。
でも、一つ…気がかりな事がある。
今の私は、貴方の自慢なのだろうかと。
こんな私で、いいのだろうかと。
「…白鳥様。あの、一つご相談に乗っていただけますか?」
「ええ、聞かせてください。貴方の悩みは私の悩み。共に歩む者として解消のお手伝いをさせてください」
白鳥様はそう言ってくれるが…引かれたりはしないだろうか。
もうすぐ帰ってくる義姉に、どう反応をしたらいいかわからないなんて悩み…。
聞かせても、いいのだろうか。