その1:私達は相棒
本作は「鳥籠と籠守」からシリアス要素をできるだけ抜いて、最終回に相当するその30以外ほのぼのに振った短編集になります。
きつい部分もできるだけマイルドに表現しています。月白と露草は本当にマイルドか?
とにかく!本編ではやれそうにない日常シーンを切り取ってご用意いたしました。
4月1日に全30話すべてを放出していきます。
併せてシリアス要素ばっかりの本編もよろしくお願いします!
ここは鳥籠。
色鳥が作り出した世界を任された十人の「恩寵を受けし者」が暮らす場所。
色鳥から権能を与えられた十人はその能力を有効活用し、時に悩まされながら毎日を過ごしていた。
「空が灰色だね、撫子。いい天気だ」
「全然いい天気じゃないわよ、浅葱。雨降り始めたわよ」
「…そこは空気を読んで晴れるところじゃない?」
「無茶言うんじゃありません」
「…色鳥って役立たずだね」
「浅葱。しー、しましょ。しー」
「しー」
真っ白な空。白い雲が覆い隠す空を見上げる二人の少女。
深い青緑色の髪を持つ高身長の女性が浅葱。
薄桃色の髪を揺らす低身長の女性が撫子。
今年からこの籠守にやってきた、新米の籠守である。
二人の仕事は、鳥籠に住まう恩寵を受けし者の一人に専属籠守として仕え、世話を担うこと。
ざっくりと言えば、彼女達は恩寵を受けし者の従者に相当する。
規則は覚えきれないほどに存在するが、自由もちゃんと存在している。
二人は今、自由時間を謳歌している最中だ。
「洗濯物、乾くかしら…」
「気温はそこそこあるし、乾くんじゃね?」
「生乾きだったらどうしよう」
「乾くまで待とう。着替えがないのなら私の服を貸してあげるよ。私の服が乾いていなかったら、撫子の服を貸してね」
「…貸して貰えるのは助かるわ。ありがとう」
「いつもお世話になっているから、これぐらいは」
「でも私の服は貸さないわよ」
「それは冗談だよ。私が撫子の服を着たら、伸びちゃうもんね」
「…その筋肉で破れる気がするわ」
「筋肉はそこまでないよ」
「…十分あるわよ」
浅葱は元未踏開拓軍。
色鳥の庇護下にない土地を探索し、そこに住まう魔物を討伐しながら開拓を続ける危険な職に携わっていた。
今年度、籠守に元上官であり、未踏開拓軍隊長を務めていた露草と共に招集枠でやってきている。
彼女達は強かった。
否、強すぎた。
露草は数多の犠牲を出した狼型の魔物を倒しきり、残った肉を頂いた「悪食の狩人」
浅葱はそんな露草へ忠実に従い、狼型を含めた魔物の単独討伐を成し遂げた「猟犬」
安全な都市部で暮らしていた撫子でも、二人の悪名を知っているほど有名人なのだ。
そんな戦果を残している浅葱が、筋肉がないという話はあり得ない。
それに彼女は「有事の時に、非常に邪魔」と言う理由で、胸部はさらしで押さえている。
筋肉も胸部も、撫子が羨むほど立派な代物をお持ちだったりする。
撫子はふわふわもちもちの二の腕をワイシャツ越しに触れた後、浅葱のワイシャツ越しにカチカチの二の腕に触れる。
それから浅葱のさらしに抑えられたそれに何度か触れ…自分の両手を胸に当てて、溜息をを吐く。
「どしたの撫子。何か気になるところでもあった?」
「あ…!これは、その…」
「別に触れていいけど、一度断りを入れてから触ろうね。断ることはないけれど、流石に無言はダメ。親しき仲にも礼儀は必要だよ」
「そうね。ごめんなさい…」
「で、どしたの。悩みでもあるの?」
「…どうしたら、貴方みたいになれるのかしら…ほら、私ちんちくりんでしょ?」
「可愛いのに」
「私は、貴方みたいに格好いい女性に憧れているの!」
「私が格好いい…?照れちゃうな」
「そ、それで…どうやったら、そんな風に筋肉がつくの?女性らしい身体になれるの?教えて、浅葱!」
「よく寝て、よく食べて、よく運動する」
「それなら…」
「後は遺伝かな」
「トドメを差しに来ないでほしいわ」
「これが現実なんだ。許せ撫子」
「まあ、そうよね」
「私からしたら、撫子は今の撫子のままでいいと思うよ。可愛いし」
「…何度も言わなくてもいいわよ」
「事実は何度も伝えたい年頃なんだ。私は愛らしさを望んで手に入れられる訳ではないからね。もちろん撫子が私みたいな体格を得たいと言っても、望んで手に入れられるものじゃない」
「…そうね」
「でも、それでいいじゃないか。皆違うのが当たり前なんだから」
「…」
「低いところは、撫子に任せるよ」
「じゃあ、高いところは貴方に任せるわ」
「露草殿の相手も頼むよ。愛らしさで丸め込んでおくれ」
「それは自分でやりなさい」
「冗談だよ。ま、互いにできることを互いにやって、できないことはいつも通り、互いで補おう。私達はそんな間柄だろう?」
「そうね。これからも任せなさい、相棒!」
自由時間が終わるまで、二人はのんびり語らう。
ちなみにだが、洗濯物は悪天候で乾かなかった。




