智夜と十六夜 7
僕は学校を休んでしまった。昨日、父が僕に手をあげたので、僕の頬がそれとわかる程に腫れてしまった。人目につくので休むしかなかったのだ。
夕方、十六夜が訪ねて来てくれた。母はちょうど買い物で留守だった。
「何、どうしたの、その顔」
「何でもない」
十六夜は溜息をついた。
「ねえ、本当に誰かに言った方がいいと思うんだけどね」
「滅多に無い事だから。昨日は特別に機嫌が悪かったんだ」
十六夜が目に見えて落ち込んだので、僕は話題を変えた。
「今日は部活、どうしたの?」
「うん、サボった」
「そうか。・・・何かあったの?」
「うーん、えーと、・・・特に何も」
十六夜がすっかり悄げてしまったので、僕は何か甘いものが無かったかどうか台所を探した。煎餅があったので、とりあえず皿に出してお茶を淹れる。
気が紛れるかもしれないので、消してあったテレビをつけた。
僕と十六夜は、しばらくテレビ画面を眺めながら、煎餅をかじっていた。
「智夜の方が大変なのに、ごめんね」
しばらくして、十六夜がテレビ画面を眺めながら言った。
「なんか腹が立つのを通り越して悲しくなってきちゃって」
「僕なら大丈夫だよ。さすがに父さんもしばらく大人しいだろうし」
「そうかもしれないけど」
珍しく十六夜は歯切れが悪かった。用があったような感じだけれど、聞いても話してくれない。
母さんが買い物から帰ってきたのを機会に、十六夜は結局帰ってしまった。
「勉強しないと遅れるわよ」と、母さんが言い、僕はテレビを消して教科書を広げた。
十六夜が帰ってしまって部屋が冷たくなってきたような感じだった。いつもと同じなんだけれど、さっきまでは十六夜が居てくれていたから。