智夜と十六夜 57
三田さんに会って事情を説明し、十六夜との婚約の承諾を貰ったこと、それから僕は財産の譲渡を断りたいという話をした。もし三田さんに財産を貰わないなんて馬鹿じゃないのかという態度を示されたら辛かったと思う。
でも三田さんは話を聞いてにっこり笑ってくれた。
「自分で自分の人生を切り開きたいという欲求はもっともな物だと思う。いや、頼もしい限りだ」
僕はおおげさに褒められて落ち着かなかった。それに、十六夜が味方になってくれたから決められた事だ。僕一人だったらやっぱり財産は貰う事にしただろう。
「しかし、金はあっても困らないものだ。もし今すぐに大金を所有する事が仕事をする意欲に水をさすというなら、財産の一部を個人年金にして、ずっと後に生活が安定してから受け取るというのはどうかな?」
私も君に譲るという建前で事業を譲られたからね、と三田さん。藤野さんに譲る分は別にして、全く君に受け取ってもらえないのは正直心残りだ。
何となく問題を先送りにするような気がして落ち着かったけれども、僕は三田さんが机越しに差し出してくれたパンフレットを受け取った。
読むように促されて、僕はパンフレットを読みはじめた。わからない事は三田さんに聞いて後で十六夜に相談してみよう。それに春恵さんは何て言うかな。
思ったより集中して読んでいたらしい。後ろのドアが開いたのに気がつかなかった。
「智也君、後ろだ」
三田さんがドアの方を見て慌てた声でそう言った。僕は驚いて振り向いた。もしかして、あれは、僕の祖父?
扉の人影が猟銃を構えるのを見て、僕はそちらへ一歩踏み出した。




