智夜と十六夜 51
「財産を貰わないなんてそんな事、勝手に決めないで欲しいわ」
十六夜と婚約すること、そして僕は財産の譲渡を断る事を父と母に伝えると、母は僕が考えていたよりずっと動揺してしまった。父は、無言でテレビを眺めている。
「お金はもらっておいた方がいいに決まっているじゃない。就職できなかったらどうするの?言いたくないけれど、あんたよりずっと頭のいい人が就職できないでいるのよ。あんた、自分が社会でやっていけると本当に思っているの?」
僕が黙っていると、怒った母は父に何か言うように促した。
「馬鹿は勝手に野垂れ死にすればいいさ」
父は僕の事をじろっと見るとそう言って、テレビに視線を戻した。
「智夜も大人しくって手のかからない子だと思っていたら、まあ、今頃どうしようも無い事を言い出して・・・」
母はなかなか気が納まらない様子でいた。
「まさか、あんた三田さんに何か言われて財産を諦める気になった訳じゃないでしょうね」
「三田さんからは何も言われていない」
僕は少し驚いてそう言った。一体何でそういう話になるんだろう?
「そう、まあ、そうなんでしょうけれど」
僕の驚いた様子を見て母は渋々そう言った。
「呆れたわ・・・」