智夜と十六夜 48
「智夜君、いらっしゃい」
智夜がまた家に来た。三度目の正直で、こんどこそ掃除はしなかった。
姉ちゃんに言ったんだ。”姉ちゃんがまた智夜に婚約は許可できないっても、智夜は多分諦めずに何か考えて家に来るよ?その度に気を遣って大掃除をするつもりなの?”
そしたら、姉ちゃんは、”うーん”って言って、掃除はしなかった。だからそんなに散らかっていないんだってば。あと、やっぱり断る気なんだね・・・。
お菓子の事を言うのはわざと避けたんだけれど、しっかりグレードが下げられていた。ちょっと残念。
悲しげにお菓子をつっついていたら、姉ちゃんににらまれた。わかっているってば。
「春恵さんが十六夜の為を思って婚約に反対して下さっているのはわかっています。僕に就職して社会人になってから十六夜に結婚を申し込んで欲しい、と言うのは、多分僕が財産を譲られた後、働く意欲を無くすのが心配しての事だと思っています」
「うん、まあね・・・」
姉ちゃんはちょっと言いにくそうに言った。
「僕が望月家の屋敷を買い戻したかったのは、それで祖父と父の気が休まらないかと考えたからです。でも、屋敷の持ち主は売る気がないそうです」
「そう」と、姉ちゃん。まあ、私から聞いていたんだけど。
「無理をして買い戻す気はありません。祖父が屋敷を維持できるかわかりませんし、父はこれ以上の経済的負担を喜ばないでしょう。母は、もし僕が屋敷を買い戻せば祖父は喜ぶだろうと言ってくれたのですが」
「そうなんだ」
智夜はお茶を飲んでちょっと一息ついた。
「・・・それで、屋敷の買い取りにかかるお金が必要なくなるので、僕は三田さんからの財産の譲渡を断ろうかと思っているんです」
私は思わず姉ちゃんの顔を見てしまった。姉ちゃんは何て言うだろう?
「それは思い切った決断だね」
姉ちゃんは何て言おうか迷った末にこう言った。
「でも、そうだね、智夜君が本当にそうしたいのなら、そうすべきだと思うよ」
「十六夜は僕と婚約すれば、その時点で財産が貰えるので、春恵さんの許可を頂ければ僕は十六夜と婚約したいと思います。そうすれば十六夜は自分の財産を持つ事ができますし」
智夜も気を遣うね。私的には、どうしよう?
「僕は、十六夜と一緒に暮らしたいと思っています。ですから婚約が形だけのものにならないよう、就職してから改めて十六夜を迎えに来ます。十六夜との婚約を許可して頂けるでしょうか?」
それでもやっぱり、姉ちゃんは断れるものなら断りたかったんだと思う。でも理屈抜きに”ダメ”っていうのは、姉ちゃんのやり方ではないから、断れなかった。
「そういう風に言われると断れないかな」
「ありがとうございます」
智夜は生真面目にそう言った。




