智夜と十六夜 37
「そうか、この前見たときはなかなかお似合いだと思ったのだがね」
と、三田さんは残念そうに言った。
「しかし、三田さんのお姉さんの言う事ももっともだ。なかなか、しっかりした人みたいだね」
僕は頷いた。
「それで、智夜君はもし金額の方が間に合うなら、望月の屋敷を買い戻したいわけだ」
「そうです」
「成る程」
三田さんは考え込んだ。僕は三田さんの考えがまとまるのを待った。三田さんの使っている机はすごく大きい。普通の机の二つ分はありそうだ。
「あそこの屋敷は君のおじいさんの時に人手に渡っていて、特に売りに出されたとも聞いてない。しかし、今の持ち主に売る気があるかどうか知り合いの不動産屋に打診してもらおう」
そう言って三田さんは頷いた。
「もし元の土地を全部買い戻して、それから屋敷に少し手を入れたりすると、財産の大半は使う事になるかもしれないが、それでもいいのかな?」
「構いません」
「そうか、それでは聞いておこう」
「それから、婚約しなければ十六夜の方には全くお金は譲っていただけないのでしょうか」
私もそれは考えていなくもなかったのだがね、と三田さん。
「しかし、そのお姉さんの様子だと、お金は受け取ってもらえないかもしれないな」
そうかもしれない、と僕も思った。
「ふむ、まあ、しかし藤野さんとの婚約が財産を譲る条件となったのはもともと藤野家によかれと思っての事だ」
昔は望月家はここら辺では名家だったからね、と三田さん。
「その意志を汲んで、というのは無理な考えではないかもしれないが、私としてはあまり最初の条件を変えたくないのだよ。こういう事は条件を変え始めるときりがないからね」
「そうですか、でもできたら是非お願いしたいのですが」
「そうだね、君達は何故わざわざ財産を譲るのに婚約する事、などという時代錯誤な条件を未だに取り下げないのか不思議に思っているかもしれない」
三田さんはそう付け加えた。
「私は、実は結婚は早い方がいいと思っていてね。今の若い人達はどうも結婚するのが遅すぎる。こうなったのも何かの縁で、婚約から結婚する事になればいいと思っていたんだよ。あまり気難しい事を言わずにね」
「十六夜は僕の事を好きでは無いと思うんです」
僕はつい言ってしまった。
「そうか。しかし、結婚してみたら案外うまくいった、という事も多いものだよ。私達の時代ではそういう人達の方が多かっただろう」
私もその一人だよ、と言って三田さんは笑った。
「お似合いだと思ったのだがね。もう一回くらい聞いてみてはどうかな」
僕は返事ができなかった。でも、一回くらいは逃げずに聞いてみてもいいかもしれないと思った。十六夜が正直な答えを返してくれるかどうかはともかく。
今日は三田さんは僕の為の椅子を予め執務机の前に出しておいてくれていた。僕はその椅子を片づけて部屋をでた。




