智夜と十六夜 3
父は、普段は「何もしなくていい」が口癖だったが、少し酒が入ると、違う事を言う事もあった。
「財産が相続できなかったら、お前は一体、どうするつもりだ、え?」
僕はいやいや答える。
「普通に働くよ」
「今は不況なんだぞ、わかっているのか。お前なんか雇う所なんかあるわけがないだろう」
父はイライラした様子で話を続ける。
「ちゃんと真面目に考えているのか、おい」
「いや、だから働くよ」
「お前みたいなのを馬鹿っていうんだろうな」
父はとげとげしくそう言って、あっちへ行け、と僕に向かって手を振った。
学校の帰りに、十六夜の家でその話をすると、十六夜はかんかんに怒った。
「何、また言われたの?いつも言っているけどそれサイテー。何で智夜怒んないの?」
十六夜がそう言って怒ってくれて、僕はかなりほっとする。十六夜に”それくらい普通だよ”と言われたら、結構落ち込んでいたと、自分で思う。
いつも怒ってくれる十六夜には申し訳ない。僕は僕がなかなか言えない事を十六夜に代わりに言ってもらっているのだから。
「・・・・・・いつもの事だから」
そう言って、僕はいつも黙り込んでしまう。十六夜には本当に申し訳ない。