智夜と十六夜 29
春恵さんに、はっきりと反対されてしまった。十六夜が言っていた事と違うから、何かが春恵さんの気に触ったのに違いない。
僕は考えてみたけれども何が悪かったのかわからなかった。後で十六夜が教えてくれなければきっとわからないままだったろう。
春恵さんはその後”ゆっくりしていってね”と言って、自分の部屋に行った。
十六夜がテレビをつけたので僕達は何となくテレビ画面を眺めていた。
「ごめんね。姉ちゃんは時々あんな感じなんだ」
「春恵さんの言うことは正しいと思うよ」
僕の答えを聞いて十六夜はやれやれ、という表情をした。
「私ね、十六夜って名前気に入っているんだ。姉ちゃんが春生まれで春恵だから、智夜との事がなければ”秋”って文字が入る無難な名前になったと思う。私は秋生まれだから」
秋恵はさすがに無いかな、千秋辺りが有力だね、と十六夜。
「財産の話だってさ、まあ、うちの親とか、お姉ちゃんには散々当てにしないよう言われていたんだけど、もし貰えるんならお菓子とかひらひらの服とか買いたい放題だ!勿論みんなにも分けてあげる!とか考えると、楽しかったよ」
僕は小さい頃の十六夜との会話を思い出した。お城を買って馬を飼う。交通手段は馬か馬車、というプランも確かあった筈だ。
「でもさ、智夜が望月の屋敷を買い戻すっていうのは、あまり聞いていて楽しくないんだよね。屋敷を買って嬉しいのは智夜のおじいちゃんとか、お父さんでしょ?智夜じゃないよね。智夜が得しないし、つまんないと思うんだけれど」
僕はそれには賛成できなかった。もし父が祖父と仲直りして、父の愚痴と嫌味が減るのなら、それは僕にとって十分に魅力的な事なのだから。僕が十六夜にそう言うと、十六夜は考え込んだ。
「うん、まあ、それは凄くわかるよ。そうなんだけどね~」
十六夜は、でも、納得いかないという顔をしていた。
僕は無理な理屈をこねた気がして気が咎めた。十六夜の言うことは何となくわかる。でもそれは認めたく無いことだった。もしそれが、春恵さんが十六夜の婚約者に求める資格ならば、僕はそれを満たしていない。
僕はため息をついてお茶を一口飲んだ。




