智夜と十六夜 1
多分重い展開になると思います。それでもOK!という方に。
普通は、子供を育てる時には大人になった時に自活できるように考えて育てるのではないかと思う。でも、僕の家は違った。
僕の家は田舎の旧家で、そしてひどく零落していた。はっきり言って旧家って事を忘れた方が本人達の為だったと思う。今現在、子孫達がうまくやっていっていないのに、昔、御先祖様が羽振りが良かったって事実が一体何の役にたつだろう。
でも、僕を始め出来の悪い子孫がなかなか御先祖様の事を忘れられなかったのにはそれなりの訳がある。
僕の御先祖は昔、かなりの財産を築いた。そしてそれを普通に自分の息子に譲るのではなく、5世代後の子孫に譲るようにしたのだ。
僕の祖父はその財産が自分の物にならないかと訴訟に随分と時間とお金をかけたそうだ。先祖譲りの家屋敷、田畑はその訴訟費用の為売り払われたらしい。僕が物心つくころには普通に狭いアパートで暮らしていたので、父から話を聞いただけなんだけど。
僕の父は、頭は悪くないんだけどあまり周りとうまくやっていけないタイプだった。転職を繰り返した為、家計は常に苦しかった。父の口癖は「お前は全く何もしなくていい」だった。
「遊んでいても莫大な財産が転がり込んでくるんだからな」
母は、父が妙なプライドを持っていたので、パートやアルバイトができなかった。
家にいて憂鬱そうだったが、「今更働きにでるのもねぇ」
とよく言っていた。
僕の家はそんな感じだった。僕は時々、十六夜が居てくれなかったら父の言うことを鵜呑みにして育ったかどうか時々考える。
十六夜は僕の婚約者だ。これも僕の御先祖様が決めた事である。御先祖様と息子の喧嘩の原因は、結婚問題だったらしい。息子の婚約不履行のお詫びに、もし5世代後に適齢期の娘さんがいたら、婚約させようという発想だ。
詫びにも何にもなっていない気がするけれども、とりあえずその家には僕と同じ年齢の女の子が生まれた。向こうの家も遺言の事は知っていた。そして御先祖様のネーミングセンスに従って、僕は智夜、その女の子は十六夜と名付けられた。財産は“智夜”と、その婚約者の“十六夜”に譲るようにと決められていたのだ。
僕達の婚約が遺産を相続する前提条件だったので、僕は大きくなったら十六夜と婚約して財産を貰うようにと言われて育った。十六夜は活発な可愛い女の子で、もしこの事がなかったら僕なんかを相手にしてくれたかどうかわからない。
そして、僕はといえば、小さい頃から十六夜が大好きだった。