君と僕の喜怒哀楽と音楽とマンボウとハシビロコウ
肌寒くなってきたころに思い出す女との忘れたいと同時に忘れたくない冬の思い出を都合よく改変してビカしてやろうという試み。
―喜怒―
あなたと出会ったのはそう、冬になり始めた夕方、川崎市は登戸駅。その徒歩2分程度に位置するくだらない合コン先の居酒屋の喫煙所であった。友人の頼みで渋めの合コンに送り込まれた僕は覚えたてのタバコをふかしていた。タバコビギナー特有のキャスターホワイトの甘ったるさと酩酊の中、黄ばんだカーテンをめくって入ってきたあなたは白い肌とそれと対照的な黒い髪、真っ黒い瞳、真っ黒いTシャツに黒いデニムと闇のように鋭く輝いていて僕の酩酊を切り裂いてきた。あなたはなれなれしくテレビに流れるものまね番組を見て僕に偽物だの本物だの偽物だの独特の彼女にしか見えない世界観に基づいて毒づき同意を求め、それに応えた僕とテーブル席の客たちがひややかな目を向けるのに十分な音量で一緒に毒づいていたことだけは覚えている。僕と友人と数名の女たちは向かいのビルにあるカラオケに行ったもののあなたのことが忘れられなかった僕はでかい声でゴイステを歌って合コンを放棄し先ほどの居酒屋へと向かった。
そこにつくとあなたはまた喫煙所に佇んでいて、僕と眼があって初めて笑顔を見せた。この時点で僕はあなたの喜怒哀楽の喜怒の部分を手に入れたような。あなたの感情の半分を知ってやったというような高揚感に襲われた。彼女のインスタグラムのアカウントを手に入れた僕は肌寒い空の下、それとは対照的なホカホカの心でいつもの帰り道をいつもと違う気持ちで歩いていた。これから始まる残酷な日々のことなどつゆも知らずに。