卒業パーティーで王太子が聖女を連れてステージに上がった。
勢いに任せて書いているので、おかしなところがあっても温かく見流していただけると幸いです。
私は、ジルベール・ルグラン。この国の皇太子である。
今、通っていた王国学園の卒業パーティーが開催されており、卒業生である私も、参加しているのだが、これから行う私の人生をかけた一大イベントに、思わず緊張して手が震える。
そんな私に気が付いたのか、光の魔法に目覚め、平民でありながらも聖女となってこの学園に通っているアリス・ギャレーが肩を叩いてくれた。横を見れば、側近であり、親友であるリオルネ・サリニャックとマクシム・ポレーの二人もうなずいてくれた。
眼を閉じ、ポケットに手を当ててゆっくりと深呼吸をしてから目を開いた。
「ヨシ、行こう」
「はい」
「ええ」
「オウ」
私たち4人はパーティー会場のステージへと上がった。予定にない私たちの登場に、会場ではざわめきが起こった。
楽団が指示も出していないのに、BGMを変えた。
「みんな、パーティーは楽しんでいるだろうか? 申し訳ないが、少々、私の私用に付き合ってほしい。
アレクシア・サメジェ、ステージに来てくれ」
私が声をかけると、パーティーに出席していた生徒たちは戸惑いの表情を浮かべるも、私たちがいるステージとアレクシアの間にいた生徒たちが左右に分かれ、道が作られた。
アレクシアは、その道を一歩一歩踏みしめるように歩いてくる。
何か覚悟を決めたような顔に私は、戸惑いを覚えるが、すでに動き出したこの状況で、彼女に問うわけにもいかず、私はステージに上がってきたアレクシアと対面する。
「アレクシア、まずは、卒業おめでとう。生徒会の最後の仕事があったとはいえ、君をエスコートできなかったこと、申し訳なく思っているよ」
「いえ、ジルベール様こそ、ご卒業おめでとうございます…」
何時も真っ直ぐに私の目を見て話すアレクシアが、今日は伏し目がちに話す。
やはり、彼女の様子がおかしい。ここでやめるべきか? いや、やり切る。私のわがままを押し付けて悪いが、この日の為に準備してきたのだ。
「今日、この場を借りて、私は君に言いたいことがある」
「ええ、わかっております」
わかっている、だと!?
まさか、そんな……綿密に計画を立て、関係者には、硬く箝口令を敷いておいたというのに、気づいていたというのか!?
「……婚約破棄、承知いたします。王太子殿下の次の婚約者は、そちらの聖女様でしょうか?」
楽団が衝撃の事実が判明したみたいなSEを入れた。
「……」
婚約破棄?
次の婚約者?
「ア、アレクシア嬢! 何を言っているんですか!」
リオルネが、慌てて叫んだ声で、私の遠のきかけた意識が戻った。
「ッ!? だから、言ったじゃないですかぁ! 私は後から出た方がいいってぇ! カルロスゥ、違うからね! 私、王太子殿下と婚約とかしないから!」
アリスが、ステージの上から自身の婚約者に必死に呼びかけている。
「ア、アレクシア……な、なんでそんなことを?」
「私は見ました。王太子殿下が、女性と二人きりで宝石店で、とても仲良さげな様子でいる姿を……後ろ姿しか見ませんでしたが、あのブロンドの髪は、聖女様と同じ色をしていた為、聖女様かと思ったのですが、別の女性でしたか……」
「……」
必死に自分の記憶を呼び起こして女性と二人っきりで宝石店に行ったかどうかを考える。そんな記憶などない。
「誰かと勘違いをしているんじゃないか? ブロンドの髪など、この国には、何十何百といるのだから」
「いいえ、私が王太子殿下を見間違えることなどありません。あれは、先月の事です。それだけではありません。その前から、王太子殿下の様子が変でした。
私に隠れて、あの女性と楽しんでいたのでしょう?」
アレクシアの言葉に、私の記憶は一つの思い当たることがあった。慌てて弁明しようとするも、それよりも早く、マクシムが前に出た。
「なぁ、アレクシア様が、殿下に不信感を抱いたのは何時からなんだ?」
「……確信に変わったのは、先月の出来事ですが、違和感を覚えたのは4、5ヶ月ほど前からでしょうか?」
「殿下ぁ、アレクシア様に、全然、隠せてなかったみたいだぜ?」
微妙な顔でこちらを向くマクシムに、私も、そんな顔になっているのだろうな。
「アレクシア、別室で……いや、この状況で別室は良くないか……卒業パーティーに出席している全員の前で弁明した方が良さそうだな」
大きく息を吐き、私は、真っ直ぐにアレクシアを見て、それからパーティー会場にいる全員に聞こえるように声を出す。楽団が、雰囲気に合わせた曲を流している。黙らせるべきだろうか?
「君が違和感を覚えた原因を聞いてもいいか?」
「王太子殿下が、仕事があると言い、私との時間を減らしたことです」
ああ、うん……すんごくわかりやすい変化だったな、それ。
「事の始まりは、アリスの話からだ」
「やはり、聖女様が…」
アレクシアの視線が、アリスに向くが、アリスは全力で首を横に振った。
「違う! 話を聞いてくれ……アリスが平民の男は、自身の給料の3ヶ月分の指輪を相手の女性に送ってプロポーズするという話をしてくれたことがあった。
その話を聞いた君は、ステキね、と言っていた。それを聞いて、私も、君に私が働いて得たお金で買った指輪を渡したいと思い、3ヶ月間、身分を偽り、姿を偽り、平民に紛れて働いていたのだ」
「は?」
私の告白に、アレクシアはポカンとした顔になった。
「本当ですよ。私も、マクシムも、そんな殿下に付き合って3ヶ月働きましたから」
「え、えっと、陛下は許可したんですか?」
「陛下は渋っていたけど、平民の仕事を知ることは将来、きっと役に立つと力説する殿下と、話を聞いてノリノリで賛成する王妃様が、右拳を振り上げて説得されて……結局、折れたんだよ」
母上が「羨ましいわぁ」とか言って、父上を見ていた為、実は、父上も王としての仕事をする傍ら、平民に紛れて労働して先日、給料3ヶ月分の指輪を母上に贈っていたりする。
「では、私との時間を削り、王太子殿下はお金を稼いでいたと?」
「ああ」
アレクシアの確認に大きくうなずいてみせたが、それでも彼女は信じられない様子だった。
「で、ですが、先月、私は確かに見ました! 女性と二人で宝石店にいる姿を!」
「確かに、私は先月、宝石店に行った。だが、女性と二人きりではない。リオルネやマクシムたちもいた」
「ウソです。しばし、見ていましたが、お二人の姿などどこにもありませんでした!」
「それには、訳があってな…」
リオルネとマクシムの方を見た。
「仕方ありませんね」
「ああ、しょうがない。良いぜ、話して」
二人の許可をもらい、アレクシアを見る。
「アレクシア、ルーロアというカフェを知っているか?」
私の問い掛けに、訝し気に眉を顰めるも、アレクシアは頷いた。
「はい。サンドウィッチがおいしいと噂されていたカフェですね。私は行ったことがないまま、閉店してしまいましたが」
「何故、閉店したか知っているか?」
「…確か、食中毒で……」
「……君に指輪を送る為、必死に3ヶ月働き、ついにお金が貯まり、働くのと同時進行で、君の母上・サメジェ夫人に協力を頼み、今の君の指輪の好みや指輪のサイズを調べてもらった」
その時、給料3ヶ月分の指輪の話をしたら、一緒に聞いていた侯爵に夫人は強烈な視線を送り、侯爵も父上と一緒に3ヶ月働いて指輪を贈っている。
「そう言えば、お母様が、やたらと指輪のカタログを見せてくることがしばしありましたし、今日もなんだか、意味ありげな笑みを浮かべていたような……」
「お金を手に入れ、君の情報も手に入れたが、男の私のセンスだけでは、信用できない為、リオルネの妹であるマガリに助言してもらおうと、協力を要請したんだ」
「私が見た女性はマガリさんだと?」
「ああ、あの日、私とリオルネ、マクシム、マガリ、それからいくら妹とはいえマガリ一人だけを連れて行っては、彼女に不名誉なうわさが流れるかもしれないと思い、彼女の婚約者であるジョージを入れた5人で買い物に行くこととなったのだが、ただ、宝石店に行くだけではもったいない。君とのデートの下調べもしようと思い、人気だというカフェで食事をとってから行くこととなった。
ルーロアの看板商品であるサーモンサンドは、君と来た時のお楽しみにしようと思い、私はビーフサンドを、マガリはサラダサンドを頼み、他3人は、サーモンサンドを頼んだ。
食事を終えて、宝石店に来たのだが、店についてからリオルネたちが腹が痛いとトイレに行き、仕方なく、私はマガリに助言をもらいながら商品を見ていたんだ。
おそらく、君が見たのはその時の姿だろう」
「……」
「待てど暮らせど、3人が戻ってこない為、様子を見に行ったら、とてもではないが普通には見えず、病院へ連れて行き、そこで食中毒だと診断を聞かされた。
3人が共通して口にしたのは、ルーロアのサーモンサンドしか思いつかず、私主導で調査に入ったところ、店が人気になり過ぎて商品の衛生管理をおろそかにしていたことが判明し、結果、ルーロアは閉店となったのだ」
ちょくちょく楽団が、BGMやらSEやらを挟んで来る。正直、ウザい。
「……私が、勝手に勘違いして勝手に落ち込んでいただけだったのですね」
「いや、私が、自分勝手に動いたせいでもある。君だけが悪いわけじゃない。
……コホン、改めて」
私は、ポケットからリングケースを取り出してアレクシアの前に片膝をついた。
「君に誤解を与えて苦しめたこと、本当に申し訳なく思う。こんな私だが、世界で誰よりも君を愛していると断言できる。この気持ちは絶対変わらないと誓う。
アレクシア・サメジェ、私と結婚してくれ」
最も神の祝福を受けた存在である聖女が見守る前で、プロポーズの言葉を口にする。
「ッ!? は、はいっ!」
楽団が、思いっきり盛り上げるようなBGMを流し始め、リングケースから指輪を取り、真っ赤な顔をしているアレクシアの左手薬指にはめた。
同時に割れんばかりの拍手がパーティー会場を包んだ。
私に付き合って3ヶ月ともに働いたリオルネとマクシムの二人は、私の様な波乱などなく、穏やかにそれぞれの婚約者に指輪を贈ることができた。
また、この年より、平民に紛れて働き、婚約者に給料3ヶ月分の指輪を贈るという風習が、貴族たちの中で流行るのだった。
異世界ファンタジー系の恋愛物って、女性視点が多い印象だったので、男性してんの物を書いてみたかったんです。