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第四章~⑧

 直子達は溜息を吐くしかなかった。

「分かったわよ。正直に言うわ。そう。兄さんに指輪とバッグを持ち込むようお願いしたのは私。動機もあなたが言った通り、財産目録にないものが出てきたら、それ自体の信用性がなくなると考えたの。そうやってあの女の仕事が杜撰だったと責めれば、多少融通されて遺産の一部が受け取れるかもしれない。そう思ったのよ」

「それでも、よくあれだけ高価なものを置いて行かれましたね。鑑定をしましたが、結構な値段が付いたと報告を受けていますが。バッグは使い古されており、五万円は超えるけれど古いものだから良いと考えればまだ理解できます。ただ指輪となれば話は変わります。だけど他人の物だったら別だ。例えばお姑さんの形見だとか」

 直子は目を丸くした。

「どうしてそんなことまで」

「吉良が言った通り、私達はしっかりと裏取りをしたからです。バッグだけでなく、指輪も長く使われていた形跡がありました。それでも高価な物です。よって犯人が自分で使っていた物でなければ、誰かから貰ったのではないか、と疑った人物がいましてね。その為あなた達の周辺の人物に写真を見せて回ったところ、見覚えがあると口にした人を発見したのです」

「だ、誰ですか」

「直子さん。あなたのお母様ですよ。話によれば、あの指輪はご主人の母親から受け継いだものだそうですね。二年前に亡くなった際の形見分けとして、ご主人を通じて渡されたと聞いています。赤いブランドバッグもそうですよね」

 直美は舌打ちしそうになった。余計な事を口にした母もそうだが、義母を思い出しうんざりしたからだ。そこまで知っているのなら誤魔化せない。

「そうよ。主人の父親は既に亡くなっていましたから、夫と彼の弟で遺産分けをしていました。その際、私の分に取っておいたと自慢気に言って渡されました。売れば小さなダイヤモンドよりずっと高い値になるのに、価値が分からない弟は他の見た目が派手だが安い宝石を選んだ、と馬鹿にしていました。バッグはついでにと渡されたのです。でも私はあんな人のものなんか、何一つ欲しくなかったのに」

「姑さんの生前は、かなり大変だったと伺いました」

「そうよ。長男である主人を可愛いがりたい気持ちは分かるけど、度を過ぎていたから。主人も少しマザコンの気がありましたしね。何かといえば母はこうだった、と言われたわ。料理もしっかり教えて貰えと言われ、子供の教育にも口出しされ続けたのよ」

「それならいっそ、売ってしまえば良かったではないですか」

 吉良の気軽な言葉にカッとして反論した。

「主人がそんな真似を許すはずがないでしょう。ばれたらどんな目に遭うか、あなたには分からないのよ。だから今回、手放す物を探した際にこれがあると思いついたんじゃない。万が一、三郷という女が隠蔽の為、こっそり売却してしまっても良いと思ったから」

 恐縮した様子を見せた彼に変わって、松ヶ根が言った。

「それだとご主人に叱られてしまうとは思わなかったのですか」

「後で、ほんのいたずら心で置いたというつもりだったわ。もし勝手に売却されてしまっていたら、再度処分した際の売却額がいくらになってどうなったか、あの女に報告を求めればいいと思ったの」

「なるほど。それだと自分の責任が薄れ、攻撃の矛先は三郷さんに向くと考えたのですね。しかし家財一式に含められ、一括売却額に算入してしまえば分からなくなる。そうは思わなかったのですか」

「そうなる可能性も考えて、万が一手元から無くなっても惜しくない高価なものを選んだの。でも叔父さんはとても詳細に目録を作成していたし、あの女は仕事ができる真面目で正直な人だと思ったわ。だからそういった姑息な真似はできない、または付け入る隙があるだろうと考えたの」

「その読みは間違っていなかったようですね」

 彼の言葉に直子は首を振った。

「でもまさかこんなことを、警察に相談するとまでは思わなかった」

「そうでしょう。本人もその点はかなり悩んでいたようですけど、色々な要因が重なった結果です。彼女を恨まないで下さいね」

「もちろんよ。小賢しい真似をしたのは私達なんですから」

 そこで久弥が異を唱えた。

「おい、私達なんて一緒にするな。俺はお前に頼まれたから協力しただけだ。叔父さんの遺産なんて、元々期待していなかったからな」

「何言っているのよ、嘘ばっかり。葬儀の時、あの女に声をかけられて受け取れる遺産は無いと聞いた帰り道、ものすごく怒っていたじゃない。あの場では私にばっかり文句を言わせて、叔父さんの部屋で詳細を改めて聞く場を設けるよう交渉したのも私よ。それまでに思いついた計画を打ち明けたら、それは良いと喜んだのは誰よ」

「あれは上手くいけば、あの女や叔父さんに一泡吹かせられると思っただけだ。金が欲しかったからじゃない」

「何よ、自分ばっかり格好つけて」

 腹が立ちそう言って膨れていると、吉良から質問を受けた。

「直子さんは、お金が欲しかったから今回の計画を立てたのですね」

「ストレートな口の利き方ね。そうよ。だったら何だっていうの」

「申し訳ありません。ただあなたの家庭は、お金に不自由していませんよね。お子さん達も手を離れていると聞いています。ご主人も大手銀行の役員としてまだバリバリ働いていらっしゃるし、ゆくゆくは頭取を狙えるかもしれないという噂も耳にしました。それなのに何故リスクを負ってまで、こんな真似をしたのですか」

「そ、それは」

「そう言えばそうだ。自由にできる金が欲しければ、それこそ指輪を無くしたと言って嘘を付き、売却してしまえばそれなりの額になっただろう。余り深く考えていなかったが、俺も理由を聞きたいな」

 久弥までがそう言い出したので、思わず口を滑らした。

「私、離婚しようかと思って」

「えっ、」

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