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第四章~⑤

「ちょっと待って下さい。それが通帳と指輪とバックや、あの変な物体だというんですか」

 直子の質問に吉良が答えた。

「通帳は持ち主が分かりましたし、最後に見せた物体も念の為で今回は関係ありません」

「何だよ。だったらどうして俺達に見せたんだ」

「それは指輪とバッグが入っていた同じ箱に、あの通帳も入っていたからです。また謎の物体は、その隣に置かれた箱に入っていました。お二人が指輪とバッグを見た記憶があるなら、ご存じかと思ったので確認したまでです」

「私達が指輪とバッグを、叔父さんの部屋に持ち込んだと疑っているんですか」

 久弥に続き直子も喰ってかかったからだろう。再び松ヶ根が仲裁に入った。

「ですからあくまで確認です。ご存じないとおっしゃるのなら、それで構いません」

 そう聞いて大きく息を吐いた。

「だったらいいですけど、要するに叔父さんがあの女と作った財産目録が間違っていた可能性があるってことですよね。あの女がいい加減にやったのか、叔父さんが忘れていたのかは分かりませんけど」

「ああ、そういうことか。あの三郷とかいう若い女がどんな奴かは知らないけど、いい加減な仕事をしていたんだろう。叔父さんもヤキが回ったのかな。見た目がちょっといいからって、あんな奴に大事な資産と処理を任せるなんてな」

「何よ、兄さんまで若いとか見た目がいいとか、騙されているんじゃないの。それにさっきから聞いていれば鈍すぎるよね。大企業の役員にまでなったというのに、どうしてもっとどっしり構えていられないかな。こんな若い刑事に振り回されてばかりじゃないの」

「なんだと。お前のように長い間専業主婦のまま、旦那の稼いできた金でのほほんと暮らしてきた奴に言われたくないね」

「馬鹿にしないで。兄さんこそ、そんな風だから奥さんと子供に逃げられたんじゃない。それに主婦だって立派な仕事よ。子供だってこの少子化の中、二人も成人するまで立派に育て上げたんだから。兄さんのところは一人だけじゃない。しかもお金を出しただけで、全く子育てには貢献してこなかったでしょう。偉そうに言うんじゃないわよ」

「何を言っている。俺が働いて稼いできたから、子供だって何不自由なく生活出来たんじゃないか。お前の所だって旦那の稼ぎがなければ、どうやって育ててこられたというんだ」

「お金、お金って馬鹿じゃないの。外で働くだけが仕事じゃないんだから。五十の半ばだというのに、一人寂しく生活している兄さんには分からないでしょうけどね」

 直子達のやり取りにうんざりしたのか、今度は吉良が仲裁に入って来た。

「まあ、まあ、二人共落ち着いてください。こんなところで喧嘩をされても困ります。指輪とバッグの話に戻りましょう」

「そうよ。結局、財産目録に載っていないものが見つかったってことでしょ。そういえばあの女から、財産目録にあるのは一つ当たりの価額が五万円超のものだと説明されたわよ。以下のものはまとめて一括売却した額で評価するみたいだけど、こういう場合はどうなるの」

「どうなる、とおっしゃいますと」

 惚けた顔をして聞き返されイラっとした。

「吉良さんは刑事だからこういうことに詳しくないのかもしれないけれど、本来私達には叔父さんの遺産を受け取る権利があるの。でも遺言で預貯金はもちろん、財産目録に掲載したものは全て売却しお金に換えた上で、指定された団体等に寄付すると書かれていたから、何も受け取れないとあの女から説明されたのよ。でもそのリストに載っていないものはどうなるのかってこと。それに目録自体が間違っていたら問題でしょう」

 そこで松ヶ根が代わりに答えた。

「遺言の中身は承知しています。ただ直子さんが言われた件については、遺産の整理を依頼された三郷さんに確認しなければなりません。私達に答える権利はありませんので」

「それはそうよね。だったらあの女に連絡して、どうなっているのかを聞くわ。目録に無いものが他にもあるなら、遺留分がなくても代襲相続の権利を持つ私達のものになる可能性だってあるでしょうから。それどころか、あの遺言自体が無効になるんじゃないの」

「その可能性は否定できませんが、五万円以下であれば問題ありませんよね」

 吉良が横から口を挟んだ。再び癪に障った為、直子は憤った。

「何を言っているの。あの指輪についていた宝石の大きさからみれば、五万円なんて軽く超えるって分かるでしょう。バッグだってそう。新品でなくとも高級ブランドだから、売れば結構な値段が付くはずよ。あなたは現物を見ていないの」

「いえ、拝見しました。ただ売却額が、相続財産としての価額と一致するとは限りませんよね。特にバッグは使用済みのものでしたので、それなりに経年減価もするでしょうし」

 馬鹿かと思ったが、それなりの知識は持っているらしい。それでも中途半端な反論を鼻で笑った。

「確かに売却額と同じとは言えないわよ。でも宝石やバッグといった動産の鑑定は、専門家による売買実例価額や精通者意見価格が参考にされるから、そうかけ離れる事はないの」

「でもこの宝石だって、何の石か分かりませんし」

「あなた、そんな事も知らないの。これはアレキサンドライトといってダイヤモンドやルビー、サファイヤといったものと同じ高価な石で、しかもこれだけ大きければ相当な値が付くはずよ」

 だがここで松ヶ根が睨みを効かし、想定外の言葉を口にした。

「その通りです。ただそれは、これらが本物だった場合ですよね。偽物であれば、五万円もするとは思えません。直子さんはタブレットの写真だけで、あれらが本物だと分かったのですか」

「あ、いえ、そう言う訳じゃないですけど、偽物なんてそんな、」

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