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第四章~③

 さすがに想像していた展開とは大きく異なっていた為戸惑っていると、吉良が口を開いた。

「いえ、捜査一課と言っても、殺人事件ばかりを扱っている訳ではありませんから。それに今回の捜査は少し特殊でしてね。まずはこれをお二人に見て頂きたいのですが」

 彼はタブレットを取り出し、その画面を二人に見えるよう突き出した。そこには忘れもしない、腹立たしいあの女の顔が写っていた。

「こいつですよ。さっき言った三郷という女は。ああ、こいつが何かやったのか」

 久弥の問いに答えず、彼は確認をしてきた。

「あなた達が高岳弥之助氏の死を知らされ、遺産についてお話しされた方で間違いありませんか」

「そうだ。いきなり叔父さんから委任された、遺言執行人だと名乗っていたよ。厳密には委託を受けたのはPAとかいう会社で、叔父さんの資産管理などをしていた専任担当者だと聞いた」

 吉良は頷いて説明した。

「はい。遺言執行人は、法的知識を持つ弁護士などに委託するケースがほとんどのようです。ただ彼女が勤めるPA社は、そうした専門家を他に何人も抱えているからでしょう。彼女が代表として取り仕切っていると聞いています」

「遺言書の原本は法務省に預けていると言われ、最初は良く分からなかったよ。ただ説明を受けた後、何とかという通知書が届いて確認したんだ。遺産は指定した団体や会社に寄付すると書かれていた。それで俺達に一切残すつもりは無かったと知ったんだ」

 久弥が言ったように叔父が亡くなったと連絡を受け、勝手に先方が段取りをした葬儀に出席した。その際あの女から書面を渡され、口頭でも説明を受けた。それが後に、自筆証書遺言書保管制度と呼ばれるものと知ったのだ。

 そこで叔父は二年ほど前に癌だと分かり、そう長く生きられないのなら、と色々準備していた事情も理解できた。けれどその内容は、そう簡単に納得できるものでなかった。

 直子だけでなく久弥も、別にお金に困っているような経済環境ではない。どちらかと言えば裕福で、余裕はそれなりにある方だ。それに叔父とは長らく疎遠になっていた為、多額の遺産を受け取れるとまで期待していなかったのも事実だ。

 叔父は直子達の結婚式に顔を出さなかったどころか、五年前に亡くなった父の葬式にすら出席しなかった。何故そういう関係になったのか、多少聞かされ知ってはいる。それでも唯一血の繋がった兄が、事故という突発的な悲劇に遭い亡くなったというのに、係わり合いを持とうとしなかった叔父は余りに情が無さすぎると感じていた。

 ただ父の死亡により、唯一の相続人は甥と姪である久弥と直子だけと思っていた。風の噂では独身を貫き、子供もいないと聞いていたからだ。よって唯一の兄弟だった父の子である直子達に、代襲相続される分が多少はあるはずと期待していた。

 それなのに叔父は一円も残さず、赤の他人達にほぼ全額寄付すると知り、正直腹が立った。祖父や父達はともかく、直子や久弥が彼に何をしたというのか。ただ憎い人達の血を引く子供というだけで、赤の他人よりぞんざいな扱いをするなんて酷い仕打ちだ。

 しかし葬儀の後で散々調べ弁護士にも相談をしたが、法的に甥と姪は遺留分の請求権がないと説明され、全くの部外者扱いをされたと分かった。それでも腑に落ちず彼女に再度詳細な説明を求め、せめてもの抵抗として一度も入ったことのない叔父の部屋で聞きたいと、その後条件を出したのだ。

 マンションを含め部屋の中の全てを売却処分して現金化し、それらを寄付分に充てると聞いていた。さらには細かく財産目録を作成していたことも、事前に行った遺言書等の閲覧で確認していた。

 それらを全てとまではいかずとも、どんなものがあってどんな部屋に住んでいたのか、一度は見てみたいと考えたからである。

 そうした経緯を久弥が刑事達に語っていた。すると吉良が言った。

「つまりお二人が弥之助氏の部屋に入ったのは、三郷さんから説明を受けた際の一回だけですね。合鍵など預かっていませんでしたか」

「そんなものを、叔父さんが俺達に預けるはずがない。そんな親しい関係だったら、少しくらい遺産を渡してくれただろう」

 直子も頷き同意すると彼らは納得してくれた。それはそうだ。どうしてそんな質問をするのか。

 しかも何故刑事がこの件で動いているのか訝しんでいると、吉良が再びタブレットの画面を触り、こちらへ向けた。

「ではこちらのものを、目にした覚えはありませんか」

 通帳を映した画像らしい。

「知りませんよ。なんですか、これは」

 即答した久弥の後、直子はじっくり時間をかけ眺めてから答えた。

「叔父さんのものではないですね。難しい漢字で読めませんが、何とかトシヤさんと書かれているようですけど、誰ですか」

「本当だ。どうしてこんな知らない奴のものを、俺達に見せるんですか」

「本当にお二人とも見た記憶はありませんか。またこれはイリナカと読みます。イリナカトシヤさんという名前に、お二人は聞き覚えがありませんか」

 何故か久弥が一瞬反応したかに見えたが、彼は大きく首を振った。

「知りませんよ。だから一体何ですか、これは」

 吉良はその質問を無視し、直子に目を向けた。

「あなたはどうですか」

「いいえ、ありません。イリナカという名前も初めて耳にしました」

 本当の事だからそう言うしかない。

「そうですか。でもこちらならありますよね」

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