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第三章~⑤

「私も最初はそう思ったのですが、調べていく内にその程度の問題でないと分かってきました。何故ならその管財人は高岳氏が亡くなる一年半前から資産運用と管理を任されており、お金の動きはほぼ全てを把握、または情報を得られる立場にあった為です。もちろん過去に遡ることもある程度まで可能だった。また高岳氏は既に亡くなっている為、全権委任された立場上、使用していた携帯電話などの通話記録を調べる事も可能です。それがどういう意味を持つか、お分かりになりますか」

 佐知は青ざめた。どうやら刑事達もお金の流れがどういうものだったか、内容を把握しているらしい。よって隠している事はないかと言ったのだろう。他に生前贈与していた疑いがあり、それが利也に残したお金と関係があるかの確認をしたいようだ。

 ならば正直に言うしかない。説明しなければ、彼が言うように最悪受け取れなくなる。それは避けたいし高岳の遺志に反してしまう。ただそれはこの刑事達がする事なのだろうか、と改めて疑問を持った。けれどその点を尋ねても、簡単に教えてくれるとは思えない。また余りしつこく聞けば墓穴を掘りかねなかった。

 その為背に腹は代えられないと腹を括った。

「分かりました。あなた達は既に私と高岳さんが、十年前に別れてからも連絡を取り合っていた事実をご存じだったのですね。そして彼から経済的援助を受けていた点も把握している。そうですね」

 利也は驚いたのだろう。目を見開いて言った。

「え、そうなの。あの時、別れたんじゃなかったの」

 佐知は彼の目を見ながら説明した。

「利也、落ち着いて。そもそも私と高岳さんは、あなたが思っているような男女の関係ではなかったの」

「でもプロポーズされていると言ったよね。僕さえ良ければ、家族三人で暮らしたいって」

「言ったわよ。でもね。家族と言っても色んな形があるの。あの頃のあなたには、まだ早すぎて良く分からなかったでしょう。でも今なら理解できると思うから言うね。籍を入れて家族になるけど、私と高岳さんは夫婦というより、親と娘のような関係を考えていたの。あなたとは養子縁組をする予定だったけれど、孫のように考えていたはず。実際それ位年が離れていたからね」

「そう、だったんだ」

「あの人は私達の複雑な家庭事情を知り、援助してくれていただけ。あなたを私立の中学に入れたのも、経済的な問題だけで優秀な子の将来を潰すのは間違っている。そうおっしゃってくれたの。それがあの頃利也が口にしていた、同情や施しだと言われてしまえば否定はできない。それはあの人も認めていたから。でもね。それだけじゃないの。言葉だけで説明するのは難しいけれど、高岳さんが私達にしてくれたのは、そういう単純なものと違うから。もちろん年の離れた、若い私の体が目的だった訳でもないの。それだけは信じて」

 利也は項垂れた。何か思い当たることがあったのかもしれない。ただ当時まだ十三歳だった彼には理解できなかったはずだ。それはしょうがない、と高岳は言っていた。そこで話し合い、表向きは利也の意思を尊重し、距離を置こうと決めたのである。

 沈黙が続いていたからか、松ヶ根が話し出した。

「利也さんの気持ちが大事だと考えたから、二人は表立って会わなくなった。けれど利也さんに気付かれないよう連絡を取り合い、経済的支援なども続いていた。そうですね」

「はい。利也は折角入った私立を辞め、地元の中学に入り直しました。それでも勉強を頑張り、偏差値の高い公立高校に合格し、大学も比較的学費が安い国立に入ってくれました。それでもお金はかかります。私の給与や利也のバイト代だけでは厳しかったからです」

「どれくらい、援助を受けていたのでしょうか」

「額にすれば利也と同じ月九万円前後で、年百十万円を超えない範囲だったことは確かです。あの人はとても真面目で、それ以上渡すと贈与税がかかりかえって迷惑をかける、と説明してくれました」

 お金のやり取りも、毎月ではなく会った時に受け取っていた。その間隔は短くて二カ月、長い時など一年余り空いた時もある。それでも年百十万円を超えないように気遣ってくれたのだ。

「なるほど。あなたは利也さんの通帳に入金されたのは、贈与だと分かっていたのですね」

「知っていた訳ではありません。ただそういうお金があると説明された時、間違いなくあの人が利也の将来を思い、残してくれたのだとすぐ理解できました。あと以前、利也にもそれなりに用意していると口にしていたので、このことだったのかと気付きました」

「つまり佐知さんも利也さん同様、既にこの十年の間で一千百万円ほど贈与されていた訳ですね」

「はい。ただそれだけではありません。恐らくお二人は知っていると思いますので、正直にお答えします。年百十万円以外に別途借金をしていました」

「借金、って。高岳さんからお金を借りていたの」

 利也が目を丸くしてそう言ったので頷いた。

「そう。年に百万余りの援助で、私達の生活はかなり楽になった。だけど時々、それでも足りなくなる場合があったの。そういう時は借用書を作って借りた。でも無利子で、返済も期限なしだったから、余裕がある月に少しだけ渡していた程度だったの」

「足りない場合って、どういう時だよ」

「それは、」

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