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第15話~夢追い人④~

引き続き、夢を求めるある人物の過去になります。


超能力のことを調べる彼は、

史上最後の超能力者とされる輝木松吾郎のひ孫である、幼い輝木光と出会い……。



「ヒカリちゃんだね、よろしく。挨拶できて偉いね」


「これで、しらないひとじゃなくなったもん。おかあさん、ヒカリわるくないよ」


「またこの子は屁理屈を……。あの、何か御用ですか?」


「大学のフィールドワークとして、この辺りの歴史を調べているんです。こちら、学生証です」


オレは身分を明かして警戒心を解く。

もちろん、高校生のオレが学生証なんて持っているワケないから偽造だけど。


「あら、長谷田大学。主人の後輩さんなのね」


「おや、そうなんですか! 偶然ですね。なら、旦那さんにもぜひお会いしてみたいものです」


事前調査済み。

輝木松吾郎の孫、輝木竹支(かがやき たけし)は長谷田大学の人間科学部卒業。


「それなら、そろそろ帰ってくるんじゃないかしら? ちょうどいいタイミングでしたよ。あ、上がってください。お茶でもお出しするわね」


「いえ、そんな。ご迷惑をおかけするわけには……」


オレは、オレの武器を知っている。

その1つが、この容姿だ。

端正な顔立ちだと、高確率で評される。


これは中々便利なものだ。

まず、何もせずとも初対面の人間に悪印象を持たれない。

特に女性には。


とにかく、この容姿と、学び続けた心理学の知識を駆使すれば、『信用出来ない』という印象を与えることはないと言っても過言じゃない。


(自惚れ? 違う。客観的な分析だ。オレは目的のために使えるものは何だって使う。両親に感謝だ)


「ただいまー。おや、この人は誰?」


「おとうさん、おかえりなさい」


「おー、ただいまー、ヒカリー」


輝木竹支が帰ってきた。

もちろん、偶然なんかじゃない。

彼の帰宅時間は予め知っていた。

家で15分粘れば、彼に会えると。


「あら、竹支。おかえりなさい。今ね、あなたの後輩の子が来てるのよ。大学の課題でウチの近所を調べてるんだって」


「すみません、輝木さん。上がらせていただいて。私、長谷田大学文学部歴史学科1年の加藤と申します」


「ご丁寧にどうも。加藤くん……君は、この辺りの歴史を調べているのかな?」


「えぇ。正確には日本全体の歴史の調査ですけどね。その一環として、この辺りに気になることがございまして」


「そうなんだ。へぇー、なんだろう? あ、吉祥寺ってお寺は吉祥寺にないとか、そういう話かな?」


「確かにそれは不思議に思ってました。僕はこの辺りに住んでいる訳じゃないので、てっきり吉祥寺ってお寺があるのだと……」


「やっぱりそう思うよなぁ。吉祥寺は駒込にあるんだよね」


そんなの、とうに知っている。


「へぇ、そうだったんですね。勉強になります。あの、輝木さんは、ずっとこの辺りに住んでらっしゃるんですか?」


「この家は買ってからまだ3年くらいだけど……。武蔵野に来たって点では、俺のひい爺さんの代だからかなり前なんだろうね」


「なるほど……。……では、昔。この辺りで奇妙な伝説があったのはご存知ですか?」


「 ……伝説? 知らないなぁ。君が調べてるのはそれかい? 悪いけど、力になれそうにはない」


(輝木竹支の顔色が変わった?)


やはり、この男は何かを知っている……。


「なんでも、50年ほど前……。いわゆるポルターガイストとでも呼ばれる現象が頻発したそうです」


「はっはっは。なんだそりゃ。作り話だろう」


「今でこそ真偽は不明ですが、現象を意のままに起こすことができる人物がいたそうです。その人物を、皆は称えて……」


回りくど過ぎると却って怪しい。

単刀直入に伝えた方がいいだろうか。


「『超能力者』と呼んでいたらしいですよ」



「……ヒカリ。自分の部屋に行ってなさい」


「でも、おとうさん。ヒカリ、おきゃくさん……」


「いいから」


「は、はい……」


少女が奥へと消える。


「アンタ、何者だ? ウチに何の用だ?」


「ふ、フィールドワークとして歴史を調べ……」


「建前はいい」


くっ、これでもダメか。

輝木松吾郎の話をチラつかせた途端、敵意がむき出しになった。


「俺の爺さんのことを探りに来たのか?」


「は、はい……」


知りすぎてたら怪しいか?

逆に『え、何で怒ってるんですか』と困惑した雰囲気を醸し出すべきか。


「話せることなんて何もないぜ。記録通りさ。俺の祖父、輝木松吾郎はとんでもない詐欺師だった。それ以上でも、それ以下でもない」


「で、ですが、それこそ記録上には、トリックで説明できないことがいくつも……」


「バカ言え。周りもグルだった。それだけの話」


「そんなもんですかね……?」


「アンタ、大学生だろ? もうそんなオカルト研究はやめておきない。

確かに、超能力とかだのに惹かれる気持ちは分かる。だけど、そんなのこの世にはないんだ。君も『夢』を捨てて、そろそろ現実と向き合う頃合なんだよ」


「…………っ。夢を……!」


(『夢』を捨てろ……だと……? ふざけるな。夢はオレの全てだ。オレの人生は、夢を叶えるために……っ!)


「ご、ごめんなさいね。主人がキツいことを言って……。

でも、加藤さん。ちょっと都合が悪いみたいだから、今日はこれでお引き取り願えないかしら……? 本当、ごめんなさい……」



だが……。


「……えぇ。すみません。不躾でした」


ここは引く。


「悪いね。まあ、俺の爺さん以外の話だったら歓迎するからさ、またおいでよ」


「ありがとうございます……、では、失礼します」


そう言いながら、オレは家の玄関から外に出る。

直ぐに、急かされるように、ドアの鍵は閉まる。



「本当だった……? 輝木松吾郎の話は、真実なのか?」


輝木竹支。

あれで隠したつもりか?

お前が態度を翻したことこそが、オレを確信へと1歩近づけたのだ。


「超能力が本当にあるとしたら……欲しい! 一部隊を蹴散らすほどの、圧倒的な力が! どうすれば手に入る!?

だから知らねばならない! もっと知りたい! オレの夢のために!!」


--------


その直後。

オレはある会話を聞く。


『ヒカリちゃん、今日来た加藤康徳って人……もし見かけても、ついて行ったりしちゃダメよ』


『え、なんで? もうしらないひとじゃないよ?』


『そういう問題じゃないの……。とにかく、絶対ダメよ。あと、この前話した、電気の話……覚えてる?』


『う、うん……。ほかのひとのまえでしゃべったり、つかっちゃいけないって……』


『そう。覚えててくれたのね。いい子よ、ヒカリちゃん……。アナタは、私たちの宝よ……!』


『そんな、ぎゅってしたら、いたいよ……おかあさん』


『絶対に、アナタを守る。お爺さんと同じ目になんて、遭わせない……!』


『なんかたいへんそうだね、おかあさん……。あ、ねぇ、これなんなの? かってきたの?』


『…………っ!? こ、これ! どこにあったの!?』


『き、きかいさんが、おしえてくれるの。ぼくはここにいるよって……』


『た、竹支! きて! これ!』


『……どうした、そんなに……。と、盗聴器!! 瑠那(るな)、これどこに!?』


『分からない……! でも、ヒカリちゃんが持ってきたの!』


『……クソッ! さっきのヤツか! やりやがったな、アイツ!』


『 ……パキッ。ザザザ……――』


(おや、思ったより早く気づかれたか)


だが、リスクを冒した甲斐はあった。

収穫は計り知れない。



「本当だ……! 偽りではなかった……! あのガキ……輝木光は超能力者だ! 超能力は実在するんだ!」



--------


オレが超能力者の存在を知ってから、5年が経った。


『ついに発覚!! 異星人はすでに地球にいた!?』


……ダメだ。

これでは話にならない。

超能力に近づくどころか、むしろ遠のいてる気すらする。


「フタビー。飯食い行こうぜー」


大学を卒業したオレは、大手出版社でオカルト雑誌の編集、企画の仕事をしていた。


「あぁ。行こうか」


少しでも超能力に近づくために、超常現象の情報が手に入りやすい場を目指したつもりだったが……。

失敗した。


オレはミスを犯したことを認め、反省しようと思った。

過ちて改めざる、これを過ちという。


「フタビ……ぶっちゃけ俺思うのよ。正直さぁ、こんなオカルト話あるわけないよなー。客観的に自分を見た時、馬鹿らしくなってくるよ」


「ははは。オレたちの立場でそれ言っちゃまずいでしょ」


「俺さぁ、転職しようかと思うんだよね。この仕事、やりがいも持てないし、無駄に残業だけは嵩んでるしさー」


「えっ。そうなのかい? ……それは残念だな。でも、止めはしないよ。自分で決めた道なら……」


やりがいがないのは、目的が明確化されてないからだ。

目的に向かう実感があれば、自ずとやりがいとかいうものを覚えるはずだ。

きっと、彼は次の仕事にもやりがいは見い出せない。


(……ま、オレの知ったことではないが)



「異動したい?」


「えぇ、部長。第一編集部への異動を希望いたします」


「あぁ、あの政治を扱ってる……。でも、いいのかい? フタビくん。君の希望は、オカルト雑誌の編集だったはずだろう?」


「実は……、現場で働くウチに、未確認物体や生命体、心霊現象の類が信じられなくなってしまって……」


「ははは。君は真面目だなぁ。別に、信じてなきゃこの仕事をしちゃいけないって訳じゃないのに」


「それは分かってますが……やはり、自分にウソをつくことには抵抗が……」


「いいよいいよ。気にしないで。なんか悪かったよ。君の夢を壊してしまって。

異動については僕の方から掛け合っておくから。君は優秀だから、きっと大丈夫だよ」



ご心配なく。

オレの夢は何者だって消せやしない。



「ハズレか……」


失敗を悟ったオレは、政治雑誌の記者へと転向した。

目的は、政府関係者へ近づくことだった。

輝木松吾郎の末路を考えれば、超能力の情報は政府が握り潰している可能性があるからだ。


多少なりとも不自然な挙動をして、出世を重ねる政治家はかなりいた。

そんな連中を虱潰しに当たる。


ここでも、心理学の勉強をしておいたことが役立った。

相手が隠し事をしていたり、嘘をついていたら、すぐに分かる。


(まあ、大抵さっきのヤツみたいに、賄賂とか献金とかしょうもないことなのだが)


「次はコイツ……」


「お、精が出るねぇ、フタビちゃん」


「あ、お疲れ様です。次長」


「うーん……、あぁ、その人? その人ゴシップ系は期待できないと思うなー。悪い噂聞かないもん」


「全くないって言うのも、却って不自然だと思いますけどね。これだけ若くして入閣しているのに。

彼は二世とかでもないでしょう? だから親の地盤やコネだって、強力なものはないでしょうし」


「怖いねぇ、フタビちゃんは。この人さ、子供のころは極貧生活だったってね。親も口減らしのために、子供を捨てたってさ。可哀想じゃん? 少しくらい悪どいことしてたって、許してあげなよー」


「いえ、何も別に私は悪どいことをしているとは……」



「またまたそんなぁ。あ、調べるんなら、資料後で送るよ。この人……『伊武有人』の資料をね」


フタビと呼ばれるある人物はついに超能力の存在を確信。


そして、その情報を集めるべく、国会議員である伊武有人へと近づいていく……。

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