第15話~夢追い人③~
志村に敗れ死亡した赤井萌と水野恵。
輝木光たちは彼女らの遺したメッセージを胸に最後の戦いへと向かう……。
今回から『ある人物』の過去のお話になります。
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努力は必ず報われる。
何よりも美しい響きだ。
不断の努力を重ねる姿はとても素晴らしい。
夢は夢のまま?
そんなことは絶対にない。
夢を実現するのは、確かに難しい。
しかし、オレは諦めない。
人間が想像できることは必ず実現できる。
どんなことでも。
だから、夢を笑うな。
失うな。
夢は、尊いものなのだ。
オレの夢はただ1つ。
それを叶えるための努力を、惜しむつもりはない。
オレが受けた生の全てを、夢へ捧ぐ。
時は今から26年前……1992年。
「ねぇ、フタビ。たまには息抜きに遊んできたら? お友達とは一緒に遊んでるみたいだけど、一人の時はずっと図書館にこもってるじゃない」
「? お母さん。違うよ。オレの息抜きはこれなんだよ」
「それが漫画とかならそうなんだろうけど……。それ、心理学の本でしょ? しかも、大学院の論文とか載ってる……」
「うん。カジュアルな入門書とかはもう読み終わったからね。次はこれ読むんだ」
「もう少し小学生らしい遊びとか……。まあ、本人が満足ならいいけど……。それ、面白いの?」
「面白いよ! 普段どんな振る舞いをすれば、人からどう思われるかとか、周りの人はこんなこと考えるとか……データに当てはめて分析できるようになるんだぁ」
「母親の私がいうのもアレだけど、変わった子ね、フタビは」
「そうかな? ……あ、学校でさ、心理テストみたいなことやると、結構みんな喜ぶんだよ。マジシャンみたいーって!」
「あらあら、そういう所は年齢相応なのねぇ。ねぇ、お母さん、この前フタビの本借りたじゃない?
でも、さっぱり内容が理解できなかったの。
だから、今度書いてあることを解説してくれない? そしたら、面白さが分かるかも?」
「もちろんいいよ! 分かりやすく話せるように頑張るね!」
「もう、変わったところはあるけど、フタビは本当にいい子ねぇ」
本当に役立つよ。
どんな振る舞いをすれば両親が喜ぶのか、学んだことはずっと実践していた。
今だって、母はオレに、『子供らしさ』を求めていたハズだ。
だから、要求にオレは応える。
両親にとって、理想の子供であるように。
それだけで、2人はオレに無償で尽くしてくれる。
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だが、人生とは難しい。
そう気がついたのは、数年後……中学1年生も終わりのころだった。
「フタビはさぁ、なんであんなヤツと仲良くしてんの?」
人と人とが、理解し得るとは限らない。
学年や学級という、不特定に集められたコミュニティでは、必ずどこかで軋轢が生まれている。
「え? ごめん。オレ、まずいことしちゃったのかな……?」
オレは、自分で自分を知っている。
13年連れ添ってきた自分の精神だから、欠点だって理解してるつもりだ。
まずは、割と気が短いこと。
二点目、結構繊細だってこと。
三点目、自尊心がとても強いということ。
だから、すぐに頭に血が上ってしまう。
そうなると、冷静な判断は出来なくなり、ミスを犯す。
「いやぁ? あんなのにいい格好してても、ロクなことにならないだろ?」
なので、ミスを防ぐためにオレは常に快適な環境作りを心がけてきた。
無駄な敵は増やさず、居心地の良い人生を送る。
「そ、そうなんだ。いい格好したつもりはなかったんだけど……ごめん」
だが、そのせいでオレは『八方美人』と認識されてしまうらしい。
このままでは快適な毎日を保てずにミスを犯し、夢への障害となる。
生活を、考えを、改めなくてはならない。
「いや、フタビのためを思ってね?」
「あぁ、うん。ありがとう。考えてみるよ……。…………」
どんな空間にも、必ず強い者と弱い者がいる。
それは、腕っぷしなどではなく、立場や発言力……そんなものだろうか。
それを決めるのは日常の立ち回り。
いわば、小さな政治闘争のようなものだ。
だから、オレは自らを強い場所に置けるよう振る舞い、さらに比較的強い者で自らの周りを固めることとした。
必然的に、弱い者は切り捨てることになるが、問題ない。
誰かがオレを攻撃しようとも、周りが勝手にオレを守る。
なぜなら、周りの人間も、オレに依存しているから。
これで、何もせずともオレは快適だ。
穴はない。
こんな人間関係……それを、一般的には『友達』と呼ぶのだろう。
精神の均衡を保つための、利害の一致を。
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高校生になってからは、心理学を学ぶのをやめて、歴史を学んでいた。
過去の権力者たちが如何様にしてその地位へ上り詰めたのか?
どんな思考を辿ったのか?
それをなぞるためだ。
『愚者は体験に学び、賢者は歴史に学ぶ』。
この言葉を文字通りに実践する、そんな日々を過ごしていた。
そんなある日、興味深い話を知った。
人類史上には、定期的に奇妙な力を持つ者がいたらしい。
そして、その者たちは必ず、『王』などと呼ばれる、上位の存在へと至っていた。
だいたい100年から50年の間隔で自然発生するようだった。
もし、これが数千年前の話ともなれば、資料の信憑性が危ぶまれるところだが、どうもこの法則は近代まで続いていたようだ。
また、1950年辺りを最後に消え、以降観測されていない。
「精巧な手品師だろうか?」
こんなのオカルトの類だ。
そう切り捨てるべきか?
近代で観測されていないのは、今まで超常現象とされていたことが、科学の発展によってメカニズムを明かされたから。
それが自然だ。
だが、そんな理屈で片付けるには不自然な人物が1人。
それが、50年前……、最後に観測された超能力者。
その名前は――。
『輝木 松吾郎』
興味が捨てきれないオレは、彼に絞って調査を続行することにした。
もしかしたら、オレの求めるものがここにあるかもしれない。
数週間を調査に費やした結果、いくつかのことが分かった。
彼は軍人だった。
そして、相当に優秀だったらしい。
それも、超人としか思えない記録の数々が残されている。
時には、1人で1部隊と同等に渡り合ったという。
荒唐無稽な話だ。
仮令、プロボクサーだろうと1人で相手するのは5人が限度と言われてる。
では、この記録は誇張されている?
それは考えにくい。
それには、彼の末路が関係している。
彼は徴兵されながらも、大戦を生き残った。
かなりの戦功をあげた彼だが、所詮はただの一兵卒であるため、国際軍事裁判では死刑判決を免れた。
だが、その後の彼の人生は悲惨と言う他ない。
服役を終え家に戻る直前、彼は拘束された。
彼を拘束したのは、本来味方であるはずの『日本政府』だった。
占領統治後の新政府は、彼の……いや、彼以降の全ての超常的な力を恐れ、なかったことにしようと動いたのだ。
だから、彼は拘留後、『自らの使っていた力は全てデタラメで、周りの人間を騙していた。私はペテン師だ』との遺言を残し、銃殺刑に処された。
これは、オレが後に政府の資料を見られるようになってから知ったことだが……、実はアメリカが彼を国外へ逃がすよう、手を引いていたらしい。
彼の力を研究したかったのだろう。
だが、彼はそれを断り、自ら死を選んだ。
故郷に残された家族のため、だったそうだ。
そこまでして政府が闇に葬りたかった人物。
そんな人間の記録は、僅かだって残したくないだろう。
況してや誇張するなど、以ての外だ。
半信半疑ではあるが、彼は『本物』だったのかもしれない。
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『ピンポーン』
インターホンの音が鳴る。
行動力があるのは、オレの長所だ。
「はーい。おにいちゃん、だれ?」
目の前には、『輝木』の表札と、幼い少女。
輝木松吾郎について、現段階で手に入る情報はこれにて打ち止めだと悟ったオレは、当事者を訪ねていた。
「僕はね、この辺りでフィールドワーク……えっとね、君のご近所さんを調べてるん……」
奥からスピーディな足音が近づく。
「ヒカリちゃん! 知らない人が来てもドア開けちゃダメって言ったでしょ!」
(……母親か)
「ごめんなさい、おかあさん……。おにいちゃん、だれなの?」
「僕? 僕はね……加藤康徳って言うんだよ」
「やすのりおにいちゃん、よろしくおねがいします。
あ、あたしはね、かがやきヒカリっていうの」
当然、本名なんて名乗らない。
夢を追い求めるある男性。
彼は超能力の秘密を探っており、その過程で過去の輝木光が登場した。
次回へ続きます。




