第15話~夢追い人①~
輝木光、御貫真、内木遊、輝木影華が総理大臣である伊武有人と戦っている間、
赤井萌と水野恵は伊武有人の秘書である志村に敗れ死亡した。
今回は時間を遡ってお話が進みます……。
時は今より、15分ほど前。
--------(side:赤井萌) ---------
「……あぁ。そっちこそな!」
エンジン音が消え去る。
無事に逃げおおせたようね。
皆さま、どうかご無事で。
「さあ、志村秘書……アナタの相手は私たちですわ。彼女たちは追わせませんの」
「……行ったか」
「アナタには悪いですが、すぐに終わらせていただきます」
「ふふふ……」
(志村は笑っている……? なぜ? 足止めのつもりが、取り逃したというのに……)
「はーはっはっはっは!! 最高、最高だよ!」
気でも違えた?
どうも様子がおかしい。……警戒を怠るな。
「話が思い通りに進むのは!! 良くやったお前たち! 褒めてやろう! 輝木たちは伊武有人をぶっ殺してくれる! 良し、良し! そのための伏線は、既に張ってあるもんなァ。追う気なんてサラサラねェよ! ははは!」
(なっ……。なんですのコイツ)
態度が完全に翻ったわ。
これじゃあまるで伊武有人が死ぬことを願ってるような……。
「何言ってますの、アナタは伊武総理の秘書でしょう……」
「おっと……。なぜオレが教えなきゃならないワケ?
ま、オレにはオレの事情があるのさ。
さて、急ぐか。時間に余裕があるに越したことはない。赤井萌、水野恵。お前たちは何も知らないまま、早く死んでくれ」
来る……。
とにかく彼は間違いなく私にとって敵。
迎撃体勢をとる!
「体温の探知……」
ヒカリ曰く、この志村は映像。
実際には複数の超能力者が潜んでいると。
潜んだ超能力者を見つけ出すため、体温の探知を行う。
「11時の方向に…………、1人……?」
(1人? 複数のハズでは……?)
「っ! 敵の攻撃ですわメグ! 伏せて!」
「えっ!?」
気づけば、私たちの元へ強烈な勢いで迫る『冷気』および『氷塊』!
「炎で相殺しますわ!」
何とか……なった!
「……さすがは赤井萌。これを防ぐとはな」
どうも様子がおかしい。
この場には志村1人しかいない。
にもかかわらず、複数の超能力で攻撃を受けているこの状況……。
(これでは、まるで『志村は複数の超能力をもっている』とでも言っているような……)
「無効化は間違いない……。でなければ、影の世界に干渉できないわ。
それに、身体能力の強化や、冷気攻撃……。これらはどう考えても、同一の能力によるものとは思えない……」
(…………冷気? この超能力って、1度どこかで……)
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3週間ほど前。
「赤井。1人だけで呼び出して済まないな。さあ、入ってくれ。君の席はそこだ」
国井さんに呼ばれた私は、国井さんの運転する車でとある場所へと向かっていた。
(どこですの? ここ。呼ばれるのは良いにしても、目隠しに耳栓までされて……。一体何の……)
「目隠しを取ってくれ」
さて、鬼が出るか蛇が出るか……。
「…………?」
目隠しを取った私の目の前に広がるのは、会議室?
そして、中には男性3人に女性2人。
「彼女が最後だった。これで揃ったな」
(……え? なんですの?)
「国井さん、この方々は……」
疑問を投げかけながら、席につく。
「皆、自己紹介してくれ」
「俺は男子B級リーダー、須賀田融似!」
「女子B級リーダー、金銅銀よぉ。よろしくぅ」
まさか他のクラスの超能力者たち?
「おいおい、下向いてねぇで挨拶してくれよ、挨拶!」
「え、あ、し、C級の三重津透です!」
「C級だけじゃ分かんねぇよ。男か女、どっちだ!」
「じ、女子ですぅ!」
男子B級の須賀田とやらは随分のガラの悪い男のようだ。
「ちょっとぉ! 須賀田さんとやら、そんなの見たら分かるじゃないのよぉ」
「『見たら分かる』ねぇ。それを俺に言うかよ」
そして、それを諌める女子A級の金銅さんは大人びて頼れる女性という印象だった。
「そんなに怯えなくていいのよぉ。私たちは味方なんだから。ほら、そっちの人も」
「だ、男子C級の獅子田来音です……」
「おっし。じゃあそこのお前も名乗れ。さっきから、『関係ねえ』みたいなツラしやがってよ」
自己紹介をせず1人黙っている最後の男へ、須賀田が言う。
「……男子A級リーダー。雨宮嵐史」
「1人は多忙につき不在だ。なので、これにて全員集合だな、赤井も自己紹介を頼む」
「えっ、じ、女子A級、リーダーの赤井萌ですわ……」
国井さんに促されて自己紹介をする。
「よし、OKだな。今日集まってもらったのは、まあ、重役会議のようなものだ。何かあった時、連携が取れるよう存在と各々できることを認識しておいて欲しい」
そうだ。
そして、私はあの日の1つの会話を思い出した。
「男子A級も4人。そのうち、氷川凍碁は『冷気と氷を操る』力の持ち主」
男子A級のリーダー、雨宮嵐史から聞いたことを。
死んだはずの人間が、今目の前にいる志村と同じ超能力を使っていたということを。
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「氷川凍碁……」
この世で『同じ超能力』は、未だかつて同時に観測されたことがないらしい。
「これらが導き出す結論は、1つ……」
志村は、『他人の超能力を使うことができる』!!
それが志村の本当の超能力!
超能力の無効化はいくつかあるうちの1つでしかない……!
「なんてバカげた話ですの……。これから先は、完全に予測不可能……。メグも気をつけ……、メグ!?」
「…………うぅ……」
メグは寝ている!? これはまた他の超能力!?
「くっ……」
(……! 私も突然眠気が……っ! 寝るわけにはいきませんわ、志村の足止めが……!)
「……ッ! う、くぅ……!」
左手の小指に思い切り噛みつき、激痛で眠気を飛ばす!
「なかなかやるな赤井萌。だが、水野は無防備。先にこちらを殺す!」
またメグに向けて冷気攻撃!
まずい。
志村と冷気の撃ち合いをしてるうちに、私は移動していた。
今度は私からメグまでの距離が遠い!
「メグ!」
間に合わない!
……と、私が絶望しかけたその時、メグは目を覚まし立ち上がって冷気を回避!
「……。へへん! これは寝たフリだよ、モエちゃん! さあ、今のうちに!」
(やるわね、メグ! 初めから心配無用だったかしら?)
「サンキューですわ! さあ、行くわよ!」
距離をつめ、一気に高熱で志村を殺す!
「はっ。少し目を離したからといって、オレがお前たちに後れを取ることなどない!」
(くっ、志村はすでに体勢をたて直してる!)
「凍れ!」
今までで最も巨大な冷気が向かってくる!
その温度は、私の見立てでは液体酸素をも軽く下回っているわ!
「はぁっ!!」
私は炎で迎撃!
冷気は水蒸気をあげて空中で消滅する!
「以前の私とは違う! 冷却程度で、私の炎は消せはしない!」
「チィ……」
『ヒュンヒュンヒュン……』
(……あら? 志村の舌打ちだけでなく、なにかが飛来する音が……)
「モエちゃん! 水蒸気の裏!」
メグに言われて気がつく。
私に迫っていたのは金属の巨大な針!
私はまた、あの日の会話を思い出す。
金属の成型、操作。
この超能力は――
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「えーっと、赤木さん? でしたっけぇ? 私と同じくらい? 年下? なのにA級なんて凄いですねぇ」
「え、と、確か、金銅銀さん……でしたっけ。あの……丁寧語じゃなくていいですよ? 別にA級がB級より偉いというワケではないですもの。あ、ちなみに、赤井ですわ……」
「あ、あら……ごめんなさい。私、人の名前覚えるのが苦手で……。にしても、謙虚ないい子なのねぇ。そうそう、私って敬語も苦手なのよねー。
あ、私のことも銀でいいわよぉ。ねえ、モエちゃんは何の超能力なの?」
「炎ですわ。燃やしたり熱したり……」
「あらぁ! かっこいいわねぇ」
「銀さんは何の超能力ですの?」
「さんもいらないのにぃ。私はね、金属の超能力なの。金属なら好きに動かしたり変形させられるのよぉ。ふふ、名前のままねぇ」
金属を動かせるって、アイツとちょっと被ってるわね……。
向こうは電磁石だから鉄だけだし、変形も出来ないけど。
「? どうしたのぉ?」
「あ、いえ、ウチに似た超能力者がいまして……」
「本当? それは光栄ねぇ」
「いえ、どうなんでしょう……」
アイツと銀さんは全然似てない。
威勢のいいB級をたしなめたりと、この人の人格者っぷりはこの数十分でも分かった。
「よく考えればアレと銀さんでは、全く違いますわ。特に人格が」
「もう、そういうこと言っちゃダメよぉ。あなたの仲間なんでしょ?」
こういう人だった。
だから、怠惰で自己中で業突く張りで意地汚くて見栄っ張りなアイツとは全然違うのに。
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「擬似的な煙幕を使って、不意打ちですの」
右手に力を込める。
「でも、無駄よ!」
熱エネルギーを一点集中させる!
(銀さん……。B級が全滅ということは、あの人も死んでしまった。とても、いい人だったのに……!)
「アナタの分も、私は戦いますわ!」
数千度の炎で、一気に金属を薙ぐ!
「数十の鉄棒を、蜘蛛の巣でも払うように一瞬で……! すごい! すごい超能力だ! 素晴らしい力だ赤井萌!
オレはまさに、お前のような人間を探していたんだ!」
志村は何故喜んでいる?
普通、敵が強ければ強いほど焦りや苛立ちを覚えるはず。
違う……。
コイツのコピーを考えると、理由が分かった。
強い超能力が欲しいのね、コイツは……!
話は15分ほど前に遡る。
赤井萌、水野恵の志村の戦いで、果たして何が起きたのか?
次回、決着です。




