第14話~終わりの先に⑤~
カナリアの会の事件を裏で仕組んでいた総理大臣の伊武有人を倒した、輝木光たち。
しかし、勝利にもかかわらず、御貫真は苦痛の表情を浮かべていて……。
今回、第14話完結!
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御貫さんの力なのだろう。
私の脳内に思考イメージが浮かぶ。
『バカな! 俺と志村の計画は完璧だった! こんなことがあるものか! 忌々しい超能力者どもめ!』
(これは伊武有人の思考のようだ。なんか悪役の負け惜しみみたいな……)
『仕方ない、水野恵の超能力を回収する! A級の回収は志村に禁じられていたが、緊急事態だ! 俺がここで死ぬわけにはいかない!』
『…………っ! 不発だ……! はっ、はははは!
水野恵はもう、この世にいない!』
『たとえ、俺が倒れようとも、生き残る志村が理想を実現する! 俺たちは既に勝利していたんだ! はははははっ!!』
(…………今、何て言った?)
『俺が死ねば、ヤツらは勝ち誇るだろう! 心底喜ぶだろう! だが、本当は違うのだ! 勝利に最も必要なのは、リスク分散! 真に信頼できる人間だ!
俺が死のうと、必ず志村が跡を継ぐ……! 勝ったっ……! 最後に勝ったのはこの俺だ! はっはははは!!!! はははは!! ――』
『パァン!』
銃声が響き、思考はここで終わっている。
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(お、思い込みだ……! メグが死んだなんて、あり得ない……!)
私たちはメグとモエの2人と別れた地点へと車で向かう。
運転は私だが、その腕は大きく震えていた。
「あり得ない……」
(向こうにはモエもついてたんだ! あり得ない……、あり得ないハズなんだ!)
「お、お姉ちゃん……」
「…………」
「……輝木。ギアがニュートラルのままだよ。それじゃあ車は走らない」
「う、うるさいなっ。私がこの目で見るまで、絶対に認めないっ……」
(急げ急げ急げ! 走れ走れ走れ!)
ギアを入れ直した私は、限界までアクセルを踏み込む。
(…………時速180キロ? 構わない! 影の世界に法定速度はない! 行け……! 早く……! 一刻でも、1秒でも、早く!
きっとまだ戦ってるんだ! 私が助太刀しないと…………!)
「着いたっ!! 降りろみんな!」
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例の別れた地点に着いた。
「…………! あ、あ…………」
そこでは、モエとメグが静かに横たわっていた。
2人は不自然なまでに、ピクリとも動かない……。
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初めて2人に出会った日のことを思い出す。
「せっかく傷を治してあげようとしてるのに、なんでそんなに逃げるんだよー! ひどいよ!」
「そりゃ逃げますわよ……。今のアナタ、怪しすぎでしたわ」
「なぜ、私を治してくださったんですか……?」
「なぜって、そりゃ痛そうだったからだよ。かわいそうじゃん?」
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「そ、………………、あ………………」
(ウソだ………………)
私からは、言葉にならない声が漏れた。
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「こんな危険な仕事をしていて、死ぬのが怖くはないのか?」と私が漏らしたある日の、メグとの会話を思い出す。
「私は絶対に死なないよぉ。私、みんなが大好きだから。みんなを悲しませるようなことしたくないもんね! ずっと、みんな笑顔で一緒にいようよ!」
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(メグ……)
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野井流美音を倒した後、みんなでメグの家に泊まっていた日の夜に、モエと2人でコソコソした会話を思い出す。
「ヒカリ。私の人生を悲劇と思わないでください。アナタと出会えただけで、幸せだったと言えますから。
普段は照れくさくて言えないですけれど、アナタは私にとって特別な……し、親友……ですわ」
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(モエ……っ!)
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(あああぁぁぁぁっ……!!!! ウソだッ! ウソだこんなことっ!!)
「…………。……っ!」
「おい…………! 目を覚ませよ……メグ! モエ!」
「わ、私のコントーラーに、全く反応しない…………」
生物ならば反応を示す内木さんのコントローラーが反応しない。
その事実に、内木さんは絶望を顔に浮べる。
「輝木、内木……」
「ひ、ヒカリちゃん…………。2人の電流を探知して…………」
「それは…………」
内木さんに頼まれるが。
イヤだ。
やりたくない…………。
やりたくないやりたくないやりたくない。…………。
…………………………。
でも……もしかしたら……まだ……?
「………………。探知……できない………………」
これが意味することは1つ……。
彼女らの神経に電気が通ってないということ……。
つまり、2人は、もう……。
(裏付けてしまった……。淡い希望にすがって、思わず無意識に…………)
「あぁ……! メグちゃん!! モエちゃん!! うううう!! あぁぁああああぁぁぁぁ!!」
内木さんは大声で泣き叫ぶ。
(…………………………。………………くそっ!!)
「……内木さん、今は危険です。志村が、まだ近くにいるかも知れない。ヤツは、2人を殺すほどの手練なんです。ここは一旦離れて立て直しましょう」
「ヒカリちゃん! なんで!! なんでそんなこと言うのよ! 私、行けないわよ……、2人を置いてなんて!」
「……ひ……ひとまず、2人を、車に乗せましょう」
モエを持ち上げると、とても重かった。
いつかおぶった時よりもずっと。
「…………。……っ」
(ダメ。前のことを思い出すと泣いちゃう。
でも、取り乱すワケにはいかない。みんながパニックになってる今だから)
「内木、辛い時には泣いたっていいんだよ……。……輝木妹。水野を運ぶのを手伝ってくれ」
「は、はい……」
泣くな。
こんな時こそ、心を強くもて……!
「……運転、するから。みんな乗って」
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メグとモエは死んだ。
志村に負けた。
「……うっ、グズッ……。ヒカリちゃん…………私…………っ!」
「内木さん……」
内木さんは泣き出して止まらない。
「……ねぇ。これから、私たちどこへ行くの……?」
「…………」
気まずい顔を浮かべた影華がかろうじて言葉を絞り出すも、車内には沈黙が流れるのみ。
「とりあえず……志村を何とかしないと。彼が生きている限り、延々と命を狙われ続けることになる。
ひとまずあの場は離れたけど、次はこちらから仕掛けなくてはならない」
重い空気の中、御貫さんがどうにか答える。
「……私はもういいわ、死んだって。あの世であの2人に会えるなら、もういい」
「な……何を弱気になってるんだい内木! この車内にいる人間だけが、日本の希望なんだ! ここで諦めたら、この国はまたメチャクチャになるんだよ!?」
「もう知らないわよそんなこと! こんな国、勝手に滅びればいいんだわ!! みんなが死ぬ思いをして守っていたことも知らず、のうのうと生きてる連中なんて! みんな死ねばいいのよ!! 国のため国のためって、バカなんじゃないの!!」
「なっ、なんてことを! キミはそれでもあの内木遊か!? 今の言葉、あの2人が聞いたら……」
「うるさいわねっ!! 最初から1人だったアナタに、私たちの気持ちは分からないわよっ!!
……っあ。…………。ご、ごめんなさい…………。アナタに当たっても仕方ないのに……」
「……。いや、いいんだ……。内木や……キミたちの気持ちは分かるよ、伝わってくる。大切な友達だもんね……」
「……。うん……」
「……特に、輝木。キミはよく堪えてる。君の心は今……」
「申し訳ないけど今はこれからのことを先に考えるべきだ。悲しむのは後でもできる。2人だって私たちが立ち止まることを望んじゃいない」
「輝木……。さっき内木にも言ったけど、悲しい時は泣いていいんだ。涙を流さないと、心はいつか溢れてしまうよ」
御貫さんはこう言うが、そういう訳にはいかない。ここでメソメソしてたら、きっとモエたちにだって怒られる。
(……そういえば、出会った頃は怒られてばっかりだったな)
「…………っ」
(泣くな。堪えろ、輝木光)
「輝木…………」
「うっ、グズッ………。……っ! ねぇ、見て! モエちゃんの背中に……!」
モエの遺体を抱きしめていた内木さんが何かに気づいた。
「……一旦、停めますね」
車を駐車して、モエの背中を覗き込む。
そこには、こんな火傷の跡があった。
『7++*××%」』
「暗号……なのかしら、これ…………」
(…………全く。最後まで格好つけやがって……)
「……輝木。意味が分かったのかい?」
(私には分かった。これは――)
「っ! ヒカリちゃん! これ! 最後の着信!」
内木さんに携帯を見せられる。
そこには、グループチャットの画面があった。
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メグメグ
『こぴー』
今日 4:38
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「これは、メグちゃんの遺言……?」
(メグ。最期の瞬間まで、私たちのために…………)
「志村の超能力についてだろうね。……恐らく『他人の超能力をコピーする』。
やはり、後々の対立を見越して本当のことは隠していたか……。狡猾な男だよ。あの場には複数の超能力者がいたんじゃなくて、志村がいくつもの超能力を使っていた。
だから、赤井たちは敗れてしまった……。ムリだよ。これは流石に想定外すぎる……」
「いや、御貫さん。そういうワケじゃないみたいだ。そんな程度でアイツらは負けない。モエの暗号は、もっと違う内容だった」
私には分かった。
モエの遺した暗号の答えは……。
伊武有人の秘書である志村。
彼との戦いに敗れ、赤井萌と水野恵は死亡した。
大切な仲間の死に耐えきれず、重苦しい雰囲気の一同。
そんな中、水野恵はチャットツールで遺言を、
赤井萌も自身の背に火傷跡で暗号を残していた……。
暗号の正体とは?
これにて第14話完結です。
次回に続きます。




